熱中症はどうしてなるのか【2026年版】原因・メカニズム・体に何が起きているかを医学的に完全解説

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熱中症はどうしてなるのか【2026年版】原因・メカニズム・体に何が起きているかを医学的に完全解説

【この記事の要約】
熱中症は、体温調節機能が限界を超えて破綻することで起きる体の緊急事態です。人体は体温が上昇すると①皮膚血管を拡張して体表から熱を逃がす、②汗をかいて気化熱で体温を下げるという2つの方法で体温を調節しています。高温・高湿度・強い輻射熱・脱水・暑熱未順化といった条件が重なると、この体温調節機能が破綻します。その結果、体温が上昇し続け、脱水・塩分喪失・血液循環障害・最終的には脳・心臓・腎臓・肝臓などの多臓器障害へと進行します。熱中症は症状の重さによってⅠ度(軽症:めまい・こむら返り)・Ⅱ度(中等症:頭痛・嘔吐・判断力低下)・Ⅲ度(重症:意識障害・けいれん・多臓器障害)に分類されます。特にⅢ度(熱射病)は深部体温40℃以上が持続することで脳細胞・肝細胞・腎細胞が壊死し始め、治療が遅れると死亡・重大な後遺症をもたらします。熱中症は正しい予防知識があれば大部分を防ぐことができる、知識で命を守れる気象災害です。

熱中症は毎年10万人以上が救急搬送され、1,000人以上が亡くなる気象災害です。

しかし熱中症が体の中でどのように起きているのかを正確に理解している方は多くありません。

なぜ高温・高湿度の環境で熱中症になるのか。

なぜ水分補給が予防に効くのか。

なぜ高齢者が特に危ないのか。

これらの問いに答えるためには、熱中症の原理・体に起きるメカニズムを理解する必要があります。

この記事では、熱中症の原因・体温調節のしくみ・体温調節が破綻するプロセス・重症化による臓器障害・なりやすい人の特徴を医学的な観点から詳しく解説します。

【この記事の信頼性について】
本記事は環境省・厚生労働省・日本救急医学会・日本生気象学会の公式ガイドライン・データをもとに作成しています。熱中症の診断・治療については必ず医師・医療機関にご相談ください。症状が重篤な場合(意識障害・呼びかけへの無反応・けいれん)は即座に119番通報してください。

目次

人体の体温調節のしくみ:熱中症を理解する出発点

熱中症がなぜ起きるかを理解するには、まず人体の正常な体温調節メカニズムを知ることが必要です。

人体の正常体温と体温調節の重要性

人体の深部体温(脳・内臓などの中心部の温度)は通常37℃前後に保たれています。

この体温が36〜38℃の範囲を大きく外れると、体の代謝・酵素反応・神経伝達などの生命維持機能が正常に働かなくなります。

特に体温が39℃を超えると、脳・心臓・腎臓・肝臓などの主要臓器が障害を受け始めます。

体温が40℃を超えると細胞レベルのダメージが急速に進行し、41〜42℃以上では脳細胞・肝細胞・腎細胞が壊死するリスクが急激に高まります。

つまり体温調節とは、生命維持のための最も基本的な生理機能の一つです。

体は常に熱を産生している

人体は生命活動を維持するために常に代謝熱(体内で発生する熱)を産生しています。

安静時でも基礎代謝として約80〜100ワット相当の熱が産生されます。

運動中は筋肉の収縮によりこの熱産生量が10〜20倍以上に増加します。

この内部で発生する熱を外に逃がし続けることが、体温を一定に保つための基本課題です。

さらに夏の屋外では、外気温・直射日光・アスファルトからの輻射熱という外部からの熱入力も加わります。

体の内外から熱が加わる夏の状況では、体温調節機能への負荷が極めて大きくなります。

体温調節の主要メカニズム①:皮膚血管の拡張による熱放散

体温が上昇すると、脳の視床下部(体温調節の中枢)がその変化を感知します。

視床下部は自律神経系を通じて皮膚の血管を拡張させる指令を出します。

皮膚血管が拡張することで、体の深部の温かい血液が皮膚表面の近くに大量に流れるようになります。

皮膚表面から外気への熱放散(伝導・対流・輻射による冷却)が増加し、体温が下がります。

この皮膚血管拡張による熱放散は、外気温が体温(約37℃)より低い場合に特に有効です。

しかし外気温が体温に近い・あるいは超える状況(気温37℃以上)では、皮膚からの熱放散は機能しなくなります。

体温調節の主要メカニズム②:発汗による気化熱冷却

体温が上昇すると視床下部はもう一つの指令を出します。

汗腺に発汗を促すシグナルです。

皮膚表面に分泌された汗は、蒸発する際に気化熱(1gの水が蒸発するのに約0.58kcalの熱を奪う)として体から熱を奪います。

この発汗による気化熱冷却は、外気温が高い状況でも機能する最も強力な体温調節手段です。

健康な成人は1時間あたり最大1〜2Lの汗をかく能力を持っています。

しかしこのメカニズムには重大な条件があります。

汗が蒸発するためには、周囲の空気が水分(水蒸気)を受け入れる余裕(低湿度)がなければなりません。

湿度が高い環境では空気が水分で飽和に近い状態となり、汗が蒸発しにくくなります。

湿度が80〜90%以上になると、皮膚表面に汗がにじみ出ても蒸発できずに流れ落ちるだけとなり、気化熱冷却がほぼ機能しなくなります。

日本の夏が特に熱中症リスクが高い最大の理由がここにあります。

気温だけでなく、高湿度による発汗冷却機能の停止が日本の夏の熱中症多発の本質的な原因です。

暑さ指数(WBGT)が気温より重視される理由

環境省・気象庁が熱中症警戒アラートの発令基準に採用している暑さ指数(WBGT)は、このメカニズムを反映した指標です。

WBGTの計算式はWBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度です。

湿度を反映する湿球温度の重みが70%と最大であるのは、発汗冷却への湿度の影響が熱中症リスクにおいて最も重要だからです。

単純な気温(乾球温度)の重みが10%にとどまる理由も、気温だけでは日本の夏の熱中症リスクを正確に表現できないからです。

熱中症が起きる原理:体温調節が破綻するプロセス

体温調節の正常なメカニズムを理解した上で、それが破綻するプロセスを段階的に解説します。

第1段階:熱の入力が冷却能力を上回る

熱中症が起きる最初のステップは、体への熱の入力(内部産生熱+外部からの熱)が体の冷却能力を上回ることです。

高気温・高湿度・強い輻射熱・激しい運動・換気の悪い環境が重なると、このアンバランスが発生します。

この段階では体はまだ補正しようと全力で汗をかき、皮膚血管を拡張させています。

多量の発汗・皮膚の紅潮(皮膚血管拡張による)・心拍数の増加が見られます。

この段階の体は、自動車のラジエーターが過熱し始めた状態に似ています。

冷却水(汗・血液による冷却)を最大限に活用して何とか温度を保とうとしているが、熱の発生量がそれを超えつつある状態です。

第2段階:脱水と塩分喪失の悪循環

大量の発汗が続くと、体液(血液・細胞間液)の水分量が急速に減少します。

体重の約1%に相当する水分が失われると(体重60kgの人なら約600ml)、体温調節能力が低下し始めます。

体重の2%の水分喪失(約1.2L)では、運動能力・認知機能の低下が始まります。

体重の3〜4%の水分喪失(約1.8〜2.4L)では、熱中症症状が顕著に現れます。

さらに汗には水分だけでなく塩分(ナトリウム・塩化物)も含まれています。

1Lの汗には約1〜2gの塩分が含まれており、大量に発汗すると体内の塩分量も急速に減少します。

血液中のナトリウム濃度が低下すると(低ナトリウム血症)、筋肉のけいれん・頭痛・吐き気・意識障害が起きます。

これが熱中症における筋肉のこむら返り・頭痛・吐き気の主要な原因の一つです。

脱水が進むと血液量が低下します。

血液量の低下は皮膚血管への血流量を制限し、皮膚からの熱放散能力を低下させます。

発汗のための水分が不足するため、発汗量も低下します。

つまり脱水が進むことで、体温調節の2つのメカニズムが同時に機能低下するという悪循環に陥ります。

この悪循環が熱中症の重症化を加速させます。

第3段階:体温の制御不能な上昇

脱水と塩分喪失による体温調節能力の低下が進むと、体温が上昇し続ける状態になります。

体温が38℃を超えると、体内の酵素(タンパク質でできており温度変化に敏感)の機能が乱れ始めます。

体温が39〜40℃に達すると、脳・心臓・腎臓・肝臓などへの血液供給が不十分になり始めます。

この段階では強い頭痛・吐き気・判断力の低下(認知機能の障害)・皮膚の灼熱感などの症状が現れます。

これがⅡ度(中等症)から重篤なⅢ度(重症)への移行段階です。

第4段階:熱射病(重症熱中症)と多臓器障害

深部体温が40℃以上に達し、発汗が停止した状態が熱射病(Ⅲ度の熱中症・重症熱中症)です。

発汗の停止は体温調節システムの完全な破綻を意味します。

体温が41℃・42℃を超えると、体内の細胞・タンパク質・酵素が急速に破壊されます。

多臓器に以下のような障害が起きます。

  • 脳・中枢神経系:脳細胞の壊死・脳浮腫(脳の腫れ)。意識障害・けいれん・小脳障害(歩けなくなる)として現れる。重篤例では恒久的な脳障害・認知機能低下が残る
  • 腎臓:腎臓への血流低下・横紋筋融解症(筋細胞の崩壊)によるミオグロビンの腎臓への沈着により、急性腎障害が起きる。重篤例では透析が必要になる
  • 肝臓:高体温・血流低下による肝細胞障害。血液凝固因子の産生低下により、出血傾向が生じる
  • 心臓・血液循環:脱水による循環血液量の著しい低下・心臓への負荷増大。不整脈・心不全のリスクが高まる
  • 血液凝固系:播種性血管内凝固症候群(DIC)。全身の細小血管内で血液が凝固し始め、同時に出血傾向が起きる致命的な合併症
  • 消化器系:腸管粘膜バリアの破綻により、腸内細菌が血液中に侵入(バクテリアルトランスロケーション)し、全身性炎症を引き起こす

これらの多臓器障害が同時進行する状態が、熱射病の本質的な病態です。

早期に体温を40℃以下に冷却しなければ、短時間で不可逆的な臓器障害・死亡に至ります。

熱射病では30分以内の体温冷却開始が生死を分けるとされています。

熱中症の種類:原因と病態による分類

熱中症は発生のメカニズムや主要な病態の違いから、医学的に以下のように分類されます。

熱けいれん(Heat Cramps)

熱けいれんは主に塩分の喪失によって起きる筋肉のけいれんです。

大量発汗後に水だけを大量に補給した場合に起きやすいです。

水分は補充されても塩分が補充されないため、血中ナトリウム濃度が低下(低ナトリウム血症)し、ふくらはぎ・腹筋・前腕などの筋肉に痛みを伴うけいれんが起きます。

意識は正常であることが多く、Ⅰ度(軽症)に相当します。

対処法は涼しい場所への移動・塩分を含む飲料(スポーツドリンク・経口補水液・塩水)の補給です。

熱失神(Heat Syncope)

熱失神は皮膚血管の過剰な拡張による一時的な血圧低下・脳血流の減少によって起きる失神です。

高温環境での長時間の立位・急な立ち上がりで起きやすいです。

皮膚血管が拡張することで血液が末梢(皮膚・足の血管)に集まり、脳に十分な血液が届かなくなることで意識が一時的に失われます。

めまい・立ちくらみの延長線上にある症状です。

対処法は涼しい場所への移動・横になる(頭を低くして脳への血流を確保する)・水分補給です。

熱疲労(Heat Exhaustion)

熱疲労は大量発汗による脱水・血液循環の低下が主要な病態です。

体温は正常〜軽度上昇(40℃未満)であることが多く、発汗は継続しています。

強い疲労感・頭痛・吐き気・虚脱感・顔面蒼白・冷たく湿った皮膚が特徴です。

Ⅱ度(中等症)に相当します。

適切な対処(涼しい場所への移動・水分塩分補給・体を冷やす)で多くは回復しますが、放置すると熱射病に移行するリスクがあります。

熱射病(Heat Stroke)

熱射病は最も重篤な形態の熱中症で、Ⅲ度(重症)に相当します。

深部体温40℃以上・意識障害(混乱・昏睡)・発汗の停止が三大特徴です。

ただし発汗が停止していない熱射病(高温多湿の環境での発汗性熱射病)もあるため、発汗があっても意識障害・高体温があれば熱射病を疑ってください。

熱射病は古典型(非労作性)と労作型の2種類があります。

種類 主な発症者 原因・環境 主な特徴
古典型熱射病(非労作性) 高齢者・乳幼児・基礎疾患を持つ方 エアコンのない高温の室内での長時間の暴露。体力消耗がなくても発症する 発症がゆっくりで気づかれにくい。皮膚が乾燥・熱い場合が多い(発汗停止)。死亡率が高い
労作型熱射病 若年者・スポーツ選手・屋外作業者 高温環境での激しい運動・重労働。体内の熱産生が急激に増加する 急激に発症する。発汗が継続している場合もある。横紋筋融解症・急性腎障害の合併が多い

熱中症になりやすい人の特徴と理由

同じ環境にいても熱中症になりやすい人となりにくい人がいます。

その違いを、体温調節メカニズムの観点から解説します。

高齢者:加齢による体温調節能力の低下

高齢者が熱中症の最大ハイリスクグループである理由は、加齢によって体温調節に関わるすべての機能が低下しているからです。

  • 発汗機能の低下:加齢により汗腺の数・機能が低下する。同じ体温上昇に対して発汗量が若年者より少なくなるため、気化熱冷却の効率が下がる
  • 皮膚血管反応の低下:加齢により体温上昇に対する皮膚血管拡張反応が鈍くなる。皮膚からの熱放散が効率よく行われなくなる
  • 体液量の減少:加齢により体内の総体液量(体重に占める体液の割合)が減少する。脱水への耐性が低くなり、少量の発汗でも脱水が進みやすい
  • 口渇感の低下:加齢により口渇感を感じる閾値が上がる。体内が脱水状態でも、のどが渇いたと感じにくくなる
  • 熱感知能力の低下:暑いと感じるセンサーの感度が低下し、部屋が暑くてもエアコンをつけない・つける必要性を感じないことが増える
  • 心臓・循環器系の予備能力の低下:心拍出量を増やして体温調節をサポートする心臓の予備能力が低下している

これらの要因が重なり、高齢者は若年者と比較して熱中症発症率・死亡率がいずれも大幅に高くなります。

乳幼児:発育途上の体温調節機能

乳幼児が熱中症に脆弱な理由は複数あります。

  • 体重当たりの体表面積が大きい:乳幼児は体重に対して体表面積が成人より大きい。外気温が高い環境では、体表面積が大きいほど体表から吸収する熱量が多くなる
  • 体温調節機能が未発達:特に乳児は視床下部の体温調節中枢が未成熟であり、体温変化への対応が遅れやすい
  • 体液量が相対的に少ない:乳幼児は体重に占める体液量の割合が高い(約70〜80%)が、絶対量が少ないため脱水の進行が速い
  • 自分で体調不良を伝えられない:乳幼児は熱中症の初期症状(めまい・頭痛・気分の悪さ)を言葉で伝えられない。保護者が外から観察するしかない
  • 地表に近い位置にいる:ベビーカーや抱っこでは子どもの頭部が大人より低い位置にある。アスファルト・コンクリートからの輻射熱は地表面に近いほど強く、子どもは成人より高いWBGTにさらされている

肥満の方:熱放散の非効率性

肥満は熱中症のリスク因子の一つです。

脂肪組織は熱の絶縁材として機能するため、体内で発生した熱が皮膚表面から外に逃げにくくなります。

また体重に対して体表面積が相対的に小さいため、皮膚からの熱放散の効率が低くなります。

さらに肥満は一般的に心肺機能への負担が大きく、高温環境でのさらなる心臓への負荷に対する余裕が少ない傾向があります。

脱水状態にある方:体温調節の予備能力がゼロ

すでに脱水状態(前日の飲水不足・下痢・嘔吐・発熱後・飲酒翌日)にある場合は、熱中症発症の閾値が大幅に下がります。

発汗のために使える体液の余裕がない状態で高温環境に入ることは、体温調節の予備能力がゼロの状態で夏の屋外に出るのと同じです。

特に飲酒翌日の脱水状態での外出・運動・屋外作業は極めて危険です。

アルコールには利尿作用があり、飲酒中から就寝中にかけて脱水が進行します。

翌朝起床時にはすでに体液量が不足している状態であることが多いです。

暑熱未順化の方:体が暑さに慣れていない状態

梅雨明け直後・旅行先での急激な高温環境への移行など、体が暑さに慣れていない(暑熱順化が不十分)状態では体温調節能力が著しく低下しています。

暑熱順化が完成している体と未順化の体では、同じ気温・同じ運動強度での体温上昇・心拍数上昇が大きく異なります。

順化が進んでいると、より低い体温で発汗が始まる・発汗量が増加する・汗の塩分濃度が低下する(塩分ロスを抑える)という生理的変化が起きています。

この順化には通常2週間程度かかります。

日本における熱中症搬送者数が梅雨明け直後(7月中旬〜下旬)に急増するのは、急激な気温上昇に体が未順化の状態で対応できないことが大きな原因です。

基礎疾患・服薬中の方

以下の疾患・薬剤は体温調節機能に影響を与え、熱中症リスクを高めます。

疾患・薬剤の種類 熱中症リスクを高めるメカニズム
糖尿病 自律神経障害により発汗機能・皮膚血管反応が低下する。腎機能障害がある場合は体液調節も低下する
心疾患・心不全 体温調節時の心拍出量増加への対応能力が低下している。体温調節のための血液の再配分が制限される
腎疾患・慢性腎臓病 体液量・電解質(ナトリウム等)の調節機能が低下している。脱水への対応が困難になる
利尿薬 尿量増加により体液量が低下しやすい状態を作る。脱水が進みやすい
降圧薬(β遮断薬等) 心拍数の増加を抑制するため、体温調節時の心拍出量増加が制限される
抗ヒスタミン薬(一部の花粉症・かゆみ止め薬) 抗コリン作用により発汗が抑制される。体温上昇を招きやすくなる
向精神薬(抗精神病薬・抗うつ薬) 体温調節中枢(視床下部)への作用・抗コリン作用により発汗が抑制される

これらの疾患・薬剤を持つ方は、主治医に夏季の熱中症リスクと水分補給量の目安を事前に確認してください。

熱中症の症状が現れる体内の変化

熱中症の各症状が体内のどのような変化によって起きるかを解説します。

症状と原因の対応を理解することで、早期発見・対処が容易になります。

めまい・立ちくらみが起きる理由

めまい・立ちくらみは体温調節のための皮膚血管拡張が急速に起きた際、脳への血液供給が一時的に低下することで起きます。

皮膚血管が拡張することで全身の血液が皮膚近くに集まり、脳を含む深部臓器への血液量が相対的に少なくなります。

特に長時間立っていた後に立ち上がった瞬間(起立性低血圧)・急に動いた際に症状が出やすいです。

筋肉のこむら返りが起きる理由

こむら返り(筋肉のけいれん・痛み)は主に塩分(ナトリウム)の喪失によって起きます。

筋肉の収縮・弛緩にはナトリウムイオン・カリウムイオン・カルシウムイオンが関与しています。

大量発汗により血中ナトリウム濃度が低下すると、筋肉細胞の電気的な興奮性が乱れ、不随意な収縮(けいれん)が起きます。

水だけを大量補給したときに起きやすいのは、血中ナトリウムがさらに希釈されるからです。

頭痛が起きる理由

熱中症の頭痛は複数のメカニズムが重なって起きます。

脱水による血液の粘度上昇・脳血流の変化が頭痛を引き起こします。

また脳の温度上昇・脳血管の拡張・低ナトリウム血症による脳細胞の浮腫(脳細胞が水を吸い込んで腫れる)が頭痛の原因になります。

特に熱中症の頭痛は頭全体が締め付けられるような痛みとして現れることが多いです。

吐き気・嘔吐が起きる理由

吐き気・嘔吐は消化管への血流低下・低ナトリウム血症・体温上昇による消化管機能の障害によって起きます。

体温調節のために血液が皮膚・筋肉に集中すると、消化管への血液供給が低下します。

消化管の機能が低下すると胃の運動が乱れ、吐き気・嘔吐が起きます。

また体温上昇による脳の嘔吐中枢への刺激も吐き気の原因となります。

意識障害が起きる理由

意識障害は熱中症が脳にまで影響を与えている重症サインです。

脳は全身の臓器の中で最も体温変化に敏感で、かつ大量の酸素・血流を必要とします。

深部体温が39〜40℃を超えると、脳神経細胞の機能が障害され始めます。

さらに脱水による脳血流の低下・低ナトリウム血症による脳細胞の浮腫が重なることで、判断力低下・混乱・意識消失が起きます。

意識障害が現れた段階では、すでに脳細胞へのダメージが始まっている可能性があります。

これが意識障害を熱中症の緊急サインとして扱い、即座に119番通報すべき理由です。

発汗が止まる理由

熱射病(重症熱中症)では発汗が停止することがあります。

発汗が止まる原因は主に2つです。

1つ目は体液の枯渇です。大量発汗が続くことで体内の水分量が極限まで低下し、汗腺が分泌する水分が物理的になくなります。

2つ目は汗腺機能の障害です。高体温が続くことで汗腺細胞自体が機能不全を起こし、発汗指令に応答できなくなります。

発汗が停止した状態では、体温冷却の最も重要なメカニズムが失われています。

体温は急速に上昇し続け、多臓器障害が急加速します。

発汗が止まって皮膚が乾燥し熱を持つという状態は、体が体温調節を放棄した危機的状態のサインです。

熱中症の原理から導かれる予防の本質

熱中症のメカニズムを理解すると、なぜ各予防策が有効なのかが論理的に理解できます。

水分・塩分補給が有効な理由

脱水が発汗機能・皮膚血管拡張の両方を低下させる体温調節の大敵であることは、先に解説した通りです。

こまめな水分補給で体液量を維持することは、体温調節機能を正常に保つための最も直接的な対策です。

同時に塩分(ナトリウム)を補給することで、低ナトリウム血症による筋肉けいれん・意識障害を防ぎます。

のどが渇く前に飲む理由は、口渇感が現れる段階では既に体液量が1%以上低下しており、体温調節能力の低下が始まっているからです。

エアコン・室温管理が有効な理由

外気温が体温(約37℃)に近づくほど皮膚からの熱放散が困難になります。

エアコンで室温を28℃以下に保つことで、皮膚血管拡張による熱放散を効率よく機能させ続けることができます。

室温が下がることで体への熱入力が減り、体温調節に必要な発汗量も減少し、脱水の進行を遅らせることができます。

暑熱順化が有効な理由

暑熱順化が完成すると、発汗開始の体温閾値が下がり・発汗量が増加し・汗の塩分濃度が下がります。

これはまさに体温調節機能が高温環境に最適化された状態です。

未順化の体より、より低い体温で発汗が始まり、より多くの汗をかいて、かつ塩分のロスを抑えながら体温調節ができるようになります。

梅雨明け前の6月から段階的に体を暑さに慣らす理由は、このメカニズムにあります。

WBGTを確認する理由

WBGT(暑さ指数)は気温・湿度・輻射熱を組み合わせた指標であり、体温調節への実際の負荷を数値化したものです。

気温35℃・湿度80%という条件では、WBGT33〜35℃という警戒アラート・特別警戒アラート水準に達します。

気温だけを見て判断するのではなく、WBGTを確認することで体温調節への実際の負荷を正確に把握できます。

WBGTが高い日ほど、体温調節機能への負荷が高く・脱水の進行が速く・重症化リスクが高いことを意味します。

よくある疑問:熱中症の原理に関するQ&A

Q. 屋外だけでなく室内でも熱中症になる理由は何ですか?

室内でも外気温・日射の影響で室温が上昇し、エアコンがない・換気が不十分な環境ではWBGT危険水準(31℃以上)に達することがあります。

特に密閉された室内は輻射熱がこもりやすく、室温が外気温を超えることもあります。

また高齢者は暑さを感じにくいため、部屋が危険な温度になっていてもエアコンをつけずにいることがあります。

室内での熱中症は外出中と違って誰にも気づかれないまま重症化しやすいことが、死亡に至るケースが多い理由です。

Q. 水をたくさん飲めば飲むほど熱中症は予防できますか?

必ずしもそうではありません。

水(純粋な水)を大量に摂取すると、血中のナトリウム濃度が希釈されて低ナトリウム血症を引き起こすリスクがあります。

これは水中毒とも呼ばれ、頭痛・吐き気・けいれん・意識障害を引き起こします。

大量発汗時の水分補給には、スポーツドリンク・経口補水液など塩分も含む飲料を組み合わせることが重要です。

あるいは水を飲む際に塩飴・塩タブレットを同時に摂取することで、塩分の喪失を補うことができます。

Q. 汗をかかない人は熱中症にならないのですか?

逆です。

汗をかかない・汗をかきにくい人は、熱中症リスクが高くなります。

発汗による気化熱冷却が人体の最も強力な体温調節手段です。

発汗機能が低下している高齢者・無汗症(汗をかけない病態)の方・抗コリン薬を服用中の方は、体温調節の主要手段を失っています。

汗をあまりかかないからといって水分補給を怠ると、体液量の低下はじわじわ進み・発汗機能はさらに低下するという悪循環に陥ります。

Q. 若くて健康な人でも熱中症になりますか?

なります。

特に若年者・アスリートで多いのが労作型熱射病です。

激しい運動による体内の熱産生量が冷却能力を大幅に上回るために起きます。

若くて体力があるほど激しい運動ができるため、熱産生量も大きくなります。

また競争意識・根性論から無理をして限界を超えた運動を続けることが重症化の一因となります。

WBGT31℃以上での激しい運動は、年齢・体力に関係なく熱中症の重大なリスクです。

まとめ:熱中症の原理を知ることが最強の予防になる

熱中症は体温調節機能の破綻という明確なメカニズムによって起きる気象災害です。

高温・高湿度・脱水・暑熱未順化が重なることで体温調節が破綻し、脱水→塩分喪失→循環障害→体温上昇→多臓器障害という連鎖が起きます。

このメカニズムを理解すれば、水分・塩分補給・室温管理・暑熱順化・WBGT確認という予防策がなぜ有効かが論理的に理解できます。

そして熱中症の初期症状(めまい・こむら返り・頭痛)がなぜ起きるかを理解することで、早期発見・早期対処の重要性も身に染みて分かります。

熱中症は正しい知識と行動で防げます。

今日から実践してほしいことを5つ挙げます。

  • のどが渇く前に1〜1.5時間に1回・コップ1杯の水分をこまめに飲む
  • 室内に温湿度計を設置し、室温28℃を超えたらためらわずにエアコンをつける
  • 環境省熱中症予防情報サイト(wbgt.env.go.jp)を毎朝確認してWBGTと警戒アラートの発令状況を把握する
  • 6月から段階的な屋外ウォーキングで暑熱順化を進める
  • 高齢者の家族・近隣住民への見守り体制を夏前に整える(高齢者の古典型熱射病は気づかれないまま重症化する最多パターン)

気候変動の進行によりWBGT危険水準・警戒アラート水準に達する日は今後も増加し続けます。

熱中症を個人の体調管理の問題ではなく、地震・洪水と同じ気象災害として捉え、今から継続的に備えることが命を守る最も重要な防災行動です。

Image by Pixabay,Unsplash,Freepik,写真AC

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この記事を書いた人

北海道札幌市在住の防災・サバイバル情報発信者です。2018年の北海道胆振東部地震を機に「誰でも今日から始められる防災」をモットーに活動を開始し、実際に試した防災グッズのレビューや家族構成別の備え方をわかりやすくお伝えしています。実践的で信頼できる情報を提供できるよう、がんばっています!

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