石油確保困難が火力発電に与える影響——2026年、日本のエネルギーは今どうなっているか
2026年、日本のエネルギー事情は大きな転換点を迎えています。中東情勢の緊迫化により、石油の安定調達が極めて難しい状況に陥っています。
この問題は、単なる「燃料の値上がり」にとどまりません。私たちが毎日使っている電気を生み出す火力発電そのものが、深刻な危機にさらされています。
計画停電が現実の話として語られるようになった背景には、この「石油確保困難」という根本的な問題があります。
本セクションでは、石油確保の観点から火力発電の実態をひも解き、私たちが今何をすべきかを具体的に解説します。
なぜ今、石油確保が困難になっているのか
問題の発端は、ホルムズ海峡の情勢悪化です。ホルムズ海峡は、中東のペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ幅約50kmの海峡です。
世界の原油輸送量の約2割がここを通過します。日本にとっては、輸入する原油の9割以上がこの海峡を経由しています。
2026年に入り、イラン情勢の緊迫化がピークに達しました。ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態となり、石油タンカーの通行に支障が出始めました。
これにより、日本への原油供給は著しく不安定になっています。
高市早苗首相は2026年4月7日、「備蓄放出量を抑えながらも、年を越えて石油の供給を確保できるめどがついた」と国民に向けて発表しました。
この発言は、安心させるためのものと同時に、事態の深刻さを裏付けるものでもあります。
「年を越えて確保できた」という言葉の裏には、「それほど綱渡りの状況だった」という現実があります。
日本は現在、約8カ月分の石油備蓄を保有しています。しかし、備蓄はあくまでも緊急時の「保険」です。
新たな輸入が滞れば、この備蓄もいつかは底をつきます。
日本の発電構造における「石油」の位置づけ
まず、日本の電力がどのように作られているかを整理します。経済産業省の2024年度速報値によると、日本の発電量の内訳は以下のようになっています。
- LNG(液化天然ガス)火力:約32%(最大の割合)
- 石炭火力:約3分の1(約33%前後)
- 再生可能エネルギー:太陽光・風力・水力など合計で2割超
- 原子力:一部再稼働済みだが全体の1割以下
- 石油火力:わずか約7%
この数字を見ると、「石油火力は7%しかないなら影響は小さいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、実態はそう単純ではありません。石油火力の役割は「通常運転の主力」ではなく、「電力需要がピークに達したときの補完」にあります。
夏の猛暑や冬の厳寒期など、電力消費が急増する局面で石油火力は緊急的に稼働します。つまり、石油が確保できなければ、最も電力が必要な瞬間に供給できなくなるのです。
この「ピーク補完機能の喪失」が、計画停電のリスクを直接的に高めます。さらに見逃せないのが、LNG(液化天然ガス)との関係です。
LNG火力は日本の発電の32%を担う最大の柱ですが、LNGもまた中東産が多くを占めます。石油とLNGは、どちらもホルムズ海峡問題の影響を受けます。
つまり、石油が確保できない状況は、LNGの供給不安とセットで発生するのです。これが、日本の電力供給を二重に圧迫しています。
石油確保困難が火力発電に与える「連鎖的影響」
石油確保困難の影響は、石油火力発電だけにとどまりません。エネルギー調達の困難は、日本のエネルギーシステム全体に連鎖的な影響を与えます。
① LNG調達競争の激化
ホルムズ海峡の危機は、石油だけでなくLNGの調達にも影響します。欧州もアジアも、同時にLNGを必要とする夏が近づいています。
日本は世界市場でLNGを奪い合う競争に参加せざるを得ません。調達競争が激化すれば、価格は高騰します。
電力会社の燃料費が増大し、その結果として電気料金にも跳ね返ります。
環境エネルギー政策研究所(ISEP)の分析では、ホルムズ海峡危機の深刻度によっては、家庭用電気料金が大幅に上昇するシナリオが示されています。
② 電力需給の逼迫
石油とLNGの両方で供給不安が生じると、火力発電全体の稼働が制約されます。火力発電は現時点でも日本の電力の7割以上を支えています。
この「7割超」という数字が、化石燃料依存の深刻さを物語っています。G7各国と比較しても、日本の化石燃料依存率は突出して高い水準にあります。
再生可能エネルギーの拡大は進んでいますが、現時点では火力なしに電力供給は成立しません。石油確保困難は、この「火力依存の脆弱性」を直撃します。
③ 電力の安定供給に必要な「予備率」の低下
電力の安定供給には「予備率」が重要な指標になります。予備率とは、電力需要に対して余裕を持って供給できる割合のことです。
一般に、安定供給には最低3%の予備率が必要とされています。経済産業省の試算では、2026年度の需給は現時点で予備率3%を辛うじて維持できる見込みです。
「辛うじて」という言葉が示すとおり、これはギリギリの水準です。ここで石油・LNGの調達がさらに困難になれば、予備率は3%を下回ります。
予備率が不足すると、電力会社は計画停電の実施を余儀なくされます。
政府が打ち出した緊急策——石炭火力の「緊急活用」
こうした事態に対し、経済産業省は異例の政策対応を決定しました。それが「非効率な石炭火力発電所の稼働制限の一時解除」です。
本来、日本は脱炭素化の観点から、老朽化した非効率な石炭火力発電所の稼働を抑制する方針を取っていました。
CO2排出量削減のための国際的な取り組みの一環です。しかし2026年度に限り、この稼働抑制措置を「適用見合わせ」とする決定を下しました。
石油・LNGの代替として、石炭火力をフル活用することで電力不足を補おうという方針です。日本の発電の約3分の1を担う石炭火力は、この緊急時において「最後の砦」の役割を担っています。
石炭はLNGや石油と比べて、中東情勢の影響を受けにくい調達経路を持っています。オーストラリアやインドネシアなど、ホルムズ海峡を経由しない国からの調達が可能だからです。
この点で、石炭は「代替燃料としての緊急価値」を持っています。ただし、この措置には重大なトレードオフがあります。
非効率な石炭火力はCO2排出量が多く、環境負荷が高くなります。日本が国際社会に約束した脱炭素目標との矛盾が生じます。
政府はこれを「安定供給のためのやむを得ない緊急措置」と位置づけています。エネルギー安全保障と脱炭素化という、二つの重要な政策目標が衝突しているのです。
石油備蓄の実態と「8カ月」という数字の意味
前述のとおり、日本は約8カ月分の石油備蓄を保有しています。これは国家備蓄と民間備蓄を合わせた数字です。
一見すると「8カ月もあるなら安心」と感じるかもしれません。しかし、この数字には重要な前提があります。
8カ月という計算は、通常の消費ペースを前提としています。石油火力発電の稼働率が上がれば、消費ペースも速まります。
夏や冬のピーク時に石油火力を多く使えば、備蓄は予想より早く減少します。また、備蓄の放出は「切り札」であり、一度使うと補充には時間がかかります。
ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、8カ月という数字は安全圏とは言えなくなります。日本政府は国際エネルギー機関(IEA)とも連携し、協調備蓄放出の検討を進めています。
しかし、世界的な石油不足の局面では、どの国も自国の備蓄を守ることを優先します。国際協調には限界があることも、現実として理解しておく必要があります。
石油確保困難が「計画停電」につながるメカニズム
石油確保困難から計画停電に至るまでの流れを、順を追って整理します。
- 中東情勢の悪化によりホルムズ海峡の通行が制限される
- 日本への原油・LNGの輸入量が減少する
- 石油火力発電所の燃料確保が困難になる
- ピーク時の補完電力が得られなくなる
- LNG火力の燃料調達コストも上昇し、稼働に制約が生じる
- 電力の予備率が3%を下回る見通しとなる
- 電力会社が地域ごとに計画停電を実施する
このメカニズムの怖いところは、「どこかで誰かが対応すれば止まる」ものではない点です。ホルムズ海峡の問題は日本単独では解決できません。
中東の地政学的リスクが続く限り、このメカニズムは常に動き続けます。計画停電は「もしも」ではなく「いつ起きてもおかしくない」リスクとして、今まさに現実のものとなっています。
電気料金への影響——家計への直接的打撃
石油確保困難の影響は、停電リスクだけではありません。電気料金の大幅な値上がりという形でも、家計を直撃します。
火力発電の燃料費が増大すると、電力会社は「燃料費調整制度」を通じて電気料金に上乗せします。中東情勢の緊迫化以降、すでに電気料金は上昇傾向にあります。
ホルムズ海峡危機の長期化・深刻化シナリオでは、さらに大幅な値上げが予想されます。電気料金の上昇は、節電努力をしても全額は避けられません。
電力多消費型の産業(製造業・農業など)への打撃は特に深刻で、物価全体の上昇にも波及します。電気料金と物価上昇が同時に進むと、家庭の生活費は二重の圧力を受けます。
特に寒冷地・北海道(札幌を含む地域)では、暖房費への依存度が高いため影響が大きくなります。石油ストーブや灯油暖房を使う家庭も多く、電力だけでなく灯油価格の上昇も加わります。
石油確保困難に備えるための「個人レベルでの対策」
エネルギー安全保障は国家の課題ですが、私たち個人でできることも多くあります。計画停電や電力逼迫に備えるために、今すぐ取り組める対策を紹介します。
① 非常用電源の確保
計画停電が実施された場合、数時間から最大3時間程度の停電が想定されます。
ポータブル電源(蓄電池)を1台用意しておくと、停電時でも照明・スマートフォン・医療機器などを使い続けられます。
容量の目安は、家族構成や使用機器に応じて500Wh〜2,000Wh程度が実用的です。太陽光パネルとセットで使える製品を選ぶと、停電が長引いても充電が可能です。
② 灯油・ガスを使う暖房・調理器具の備え
停電中は電気を使う暖房機器(エアコン・電気ストーブなど)が使えなくなります。灯油ストーブやカセットガスコンロは、停電時でも使えるため非常に有効です。
ただし、灯油そのものも石油製品であるため、価格上昇・入手困難のリスクがあります。シーズン前に早めに購入・備蓄しておくことが賢明です。
目安として、18Lポリタンク2〜3本(約36〜54L)を余裕を持って確保しておきましょう。
③ 電力使用の「見える化」と省エネ習慣
電力逼迫時には、電力会社から「節電要請」が出ることがあります。
スマートメーターや電力モニターを活用して、自宅の電力使用状況をリアルタイムで把握する習慣を身につけましょう。
家電の「待機電力」を切るだけでも、家庭全体の消費電力を5〜10%削減できるとされています。節電は省エネだけでなく、電気料金の節約にも直結します。
④ 情報収集体制の整備
計画停電が実施される場合、電力会社から事前にアナウンスがあります。自分の地域がどのグループに属するかを事前に確認しておきましょう。
電力会社のウェブサイトや公式アプリに加え、NHKのラジオ・テレビも信頼性の高い情報源です。停電中はスマートフォンのバッテリーも限られるため、ラジオ(乾電池式)を1台備えておくと安心です。
⑤ 水・食料の備蓄
停電が起きると、電動ポンプを使う水道施設が機能しなくなることがあります。マンション・集合住宅の場合、停電で共用部のポンプが止まり、断水になるケースがあります。
飲料水は1人あたり1日3Lを目安に、最低3日分(9L)を備蓄しておきましょう。加熱不要で食べられる非常食(缶詰・レトルト・乾パンなど)も合わせて確保しておくと安心です。
再生可能エネルギーは「代替」になれるか
石油・化石燃料への依存を減らす根本的な解決策として、再生可能エネルギーへの移行が求められています。太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーは、中東情勢の影響を受けません。
燃料費が不要なため、長期的には電気料金の安定化にもつながります。しかし、現状では再生可能エネルギーだけで火力発電を完全代替することはできません。
太陽光は夜間・曇天時に発電できず、風力は風況に左右されます。
需要に応じて出力を調整できる「調整力」が再エネには乏しく、この弱点が火力発電への依存を続かせています。
蓄電池技術の進化やスマートグリッドの整備が進めば、将来的には変わる可能性があります。ただし、2026年現在においては、再エネの本格的な「化石燃料代替」はまだ実現していません。
キヤノングローバル戦略研究所の分析でも、「日本は石炭火力をフル活用しなければならない」という指摘がなされています。
日本の発電の3分の1を占める石炭火力の能力を最大限発揮することが、現時点での安定供給に不可欠とされています。
脱炭素化への移行は必要不可欠ですが、「今この瞬間の電力」は化石燃料なしには成り立たないのが現実です。
エネルギー安全保障の観点から見た「化石燃料多様化」の必要性
今回の石油確保困難は、日本のエネルギー調達の「脆弱性」をあらためて露わにしました。原油の9割以上をホルムズ海峡経由に依存するという構造は、長年にわたって指摘されてきた問題です。
今こそ、その解決を加速させる必要があります。専門家からは、化石燃料の調達先を「ホルムズ海峡依存」から多様化させることの重要性が強調されています。
米国産シェールオイル・LNG、西アフリカ産原油、北海油田など、中東以外の調達ルートを拡大することが課題です。
すでに日本はLNGについては調達先の多角化が一定程度進んでいます。しかし、原油については依然として中東依存が高く、抜本的な構造改革が求められています。
また、省エネ技術の向上と需要側の節電行動も、エネルギー安全保障の重要な柱です。使う電力を減らすことは、調達リスクを直接的に低減させます。
個人の節電が積み重なれば、国全体のエネルギー需給を改善させる力があります。
2026年、私たちが直面している「エネルギーの現実」
2026年現在、日本のエネルギー情勢は歴史的な岐路に立っています。ホルムズ海峡危機による石油・LNG確保困難は、火力発電の安定稼働を直撃しています。
政府は石炭火力の緊急活用という異例の対応を迫られました。電力の予備率は辛うじて3%を維持できる見通しですが、状況次第ではいつ崩れてもおかしくありません。
計画停電は「遠い過去の出来事」ではありません。東日本大震災後の2011年、関東各地で実施された計画停電を覚えている方も多いはずです。
あの時と同じように、今また私たちは電力不足の現実と向き合っています。
違うのは、原因が「震災による発電所の損傷」から「地政学的リスクによる燃料確保困難」に変わったことです。
石油確保困難という問題は、国家レベルで解決を目指すべき課題です。しかし同時に、私たち一人ひとりが「自分の電力は自分でも守る」意識を持つことが重要です。
ポータブル電源の準備、灯油の備蓄、節電習慣の定着——こうした地道な備えが、いざというときの「命綱」になります。
防災の基本は「自助・共助・公助」の組み合わせです。エネルギー安全保障においても、その原則は変わりません。
【参考情報・出典】
- 経済産業省「燃料調達をめぐる動向と電力・ガスの安定供給について」(2026年)
- 経済産業省「安定供給の現状と課題と火力の脱炭素化の在り方について」(2024年7月)
- 環境エネルギー政策研究所(ISEP)「ホルムズ海峡危機で日本の電気料金はどうなるか?」(2026年4月)
- キヤノングローバル戦略研究所「化石燃料の調達多様化断行せよ」(2026年4月)
- 高市早苗首相 記者団向け発言(2026年4月7日)
- 経済産業省2024年度発電量速報値

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