【この記事の要約】地震調査委員会とは、地震調査研究推進本部(地震本部)の中に置かれた、地震の専門的・科学的評価を担う組織です。1995年の阪神・淡路大震災を受けて同年制定された地震防災対策特別措置法に基づき、地震本部とともに設置されました。地震調査委員会の役割は大きく3つです。①全国の地震活動を毎月評価する「現状評価」、②主要な活断層・海溝型地震の発生確率と規模を予測する「長期評価」、③特定の地震が起きた場合の揺れの強さを地図化する「強震動評価」。この3つの評価結果は全国地震動予測地図(J-SHIS)として公開されており、南海トラフ地震(今後30年以内にM8〜9クラスが発生する確率70〜80%)や首都直下地震(今後30年以内にM7クラスが発生する確率約70%)という数字も、地震調査委員会の長期評価が根拠になっています。この記事では、地震調査委員会の役割・評価の仕組み・実際の防災への活かし方を、具体的な数字とともに整理します。
南海トラフ地震「30年以内に70〜80%」、首都直下地震「30年以内に約70%」。
ニュースや防災の記事で、この数字を目にしたことがある方は多いと思います。
この数字がどこから来ているのか、私は最初知りませんでした。実はこれ、地震調査委員会という一つの組織が、毎月の会議で継続的に評価・更新している数字です。
地震調査委員会が何を評価し、その情報をどう防災に使えるのかを知っておくと、ニュースで流れる地震予測の数字の見方が変わります。この記事では、地震調査委員会の役割・評価の仕組み・公開されている情報の使い方を具体的に解説します。
【この記事の信頼性について】本記事は地震調査研究推進本部(地震本部)の公式サイト(jishin.go.jp)・文部科学省・内閣府防災情報の公式データをもとに作成しています。最新の評価結果・確率の数値は地震本部公式サイトで必ずご確認ください。
地震調査委員会とは:地震本部の中の「評価専門チーム」
地震調査委員会は、地震調査研究推進本部(地震本部)という政府機関の中に設置された、地震の専門的な評価を専任で行う組織です。地震本部そのものが「調査研究を推進する司令塔」だとすれば、地震調査委員会は「集まったデータを科学的に評価する専門チーム」にあたります。
設置根拠は地震本部と同じく、1995年7月に施行された地震防災対策特別措置法です。同年1月17日に発生した阪神・淡路大震災(M7.3・死者行方不明者6,437名)を受けて、地震に関する調査研究の成果を防災に確実につなげる体制として作られました。
地震調査委員会が評価に使うデータは、自分たちで観測するのではなく、気象庁・国土地理院・防災科学技術研究所・大学など全国の関係機関から集められます。地震調査委員会の役割は、このバラバラに集まる観測データを一つの場に集約し、政府としての統一見解として評価・公表することです。
地震調査委員会の3つの評価活動
地震調査委員会の活動は、大きく3種類に分かれます。それぞれ扱う時間軸と目的が異なります。
| 評価の種類 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|
| 現状評価 | 毎月(定例会) | 直近1か月の全国の地震活動状況を評価・公表 |
| 長期評価 | 随時更新 | 主要な活断層・海溝型地震について、今後発生する確率と規模を予測 |
| 強震動評価 | 随時更新 | 特定の地震が発生した場合に、どの地域でどの程度揺れるかを予測 |
現状評価:毎月、全国の地震活動をチェックする
地震調査委員会は原則として毎月1回、定例会を開催しています。この定例会では、その月に発生した国内外の地震活動を専門家が確認し、通常と異なる活動が見られないかを評価します。
大きな地震が発生した場合は、定例会とは別に臨時会が開かれ、その地震の評価結果が発表されます。2024年の令和6年能登半島地震のように社会的な影響が大きい地震では、発生から短期間のうちに評価結果が公表される体制が取られています。
長期評価:主要な活断層と海溝型地震の「確率」を出す
長期評価は、特定の断層や震源域で、今後一定期間内にどの程度の規模の地震がどれくらいの確率で発生するかを予測する評価です。地震調査委員会はこれまでに、全国の主要な活断層帯や海溝型地震の想定震源域について、数十件規模の長期評価を公表・更新してきました。
代表的な公表数値は以下の通りです。
| 想定震源 | 規模 | 今後30年以内の発生確率 |
|---|---|---|
| 南海トラフ巨大地震 | M8〜9クラス | 70〜80% |
| 首都直下地震(南関東の断層帯) | M7クラス | 約70% |
| 千島海溝沿いの巨大地震 | M8.8程度以上 | 7〜40%(震源域により変動) |
| 日本海溝沿いの巨大地震(宮城県沖など) | M7〜8クラス | 震源域により数%〜90%程度 |
この確率は「必ず起きる時期」を示すものではなく、あくまで統計的な発生可能性です。70%という数字だけを見ると高いのか低いのか判断しづらいですが、地震調査委員会は「交通事故で負傷する生涯確率」など身近なリスクと比較できる資料もあわせて公表しており、一般の方が数字の意味を理解しやすいよう工夫しています。
強震動評価:起きたらどこがどれだけ揺れるか
強震動評価は、特定の断層で地震が発生したと仮定した場合に、周辺の地域がどの程度の震度で揺れるかをシミュレーションする評価です。震源となる断層の位置・向き・大きさに加えて、地盤の硬さや地形による揺れの増幅特性まで考慮してモデル化されます。
この強震動評価の結果は、自治体の被害想定・建築基準・都市計画の基礎資料として使われています。同じ地震でも、地盤が軟らかい地域は揺れが増幅されやすく、震度が1〜2段階大きくなることも珍しくありません。
3つの評価が集約される「全国地震動予測地図」
長期評価と強震動評価の結果を組み合わせて作られるのが、全国地震動予測地図です。地震調査委員会の公式サイト「J-SHIS(地震ハザードステーション)」で、日本全国どの地点でも、今後一定期間内に一定以上の揺れに見舞われる確率を地図上で確認できます。
J-SHISでは、住所や地図上の位置を指定するだけで、その地点の「今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」を数値で確認できます。全国平均で見ると、太平洋側のプレート境界に近い地域ほど確率が高く、内陸の一部地域でも活断層の近くでは相対的に高い数値が出ます。
この地図は、住宅の購入・引っ越し先の検討・耐震リフォームの優先順位づけといった具体的な判断に使える公的情報です。
地震調査委員会の情報を防災に活かす3つの方法
1. 自宅・職場周辺の長期評価を確認する
J-SHISで自宅の住所を検索すると、周辺の活断層の有無と、その活断層の長期評価(発生確率・想定規模)が確認できます。近くに活断層がある場合、耐震診断や家具の固定を優先的に検討する根拠になります。
長期評価が実際にどう示されるかは、布田川断層帯とは?2016年に動いた区間と、動いていない区間の違いをご覧ください。確率が「ほぼ0%」の区間と「不明」の区間が併存しており、読み方に注意が要ります。
2. 強震動評価を建物の耐震性判断の参考にする
自宅が想定される強震動評価でどの程度の震度域に入るかを確認しておくと、耐震基準(1981年6月以降の新耐震基準、2000年6月以降の現行基準)を満たしているかどうかの確認とあわせて、備えの優先度を判断しやすくなります。
3. 発生確率を「絶対に来ない」根拠にしない
長期評価の発生確率が低い地域であっても、地震が発生しないことを意味するわけではありません。2016年の熊本地震は、当時の長期評価で相対的に確率が低いとされていた断層で発生しました。地震調査委員会自身も、確率の数字はあくまで統計的な目安であり、確率の低さを根拠に備えを怠らないよう注意喚起しています。
地震調査委員会の3つの下部組織
地震調査委員会は、専門分野ごとに3つの部会・分科会を設けて評価作業を分担しています。
| 組織 | 主な役割 |
|---|---|
| 長期評価部会 | 活断層・海溝型地震の長期的な発生確率・規模を評価 |
| 強震動評価部会 | 特定の地震が発生した場合の揺れの強さをシミュレーション |
| 地震動予測地図高度化ワーキンググループ | 全国地震動予測地図の作成手法・データを継続的に改良 |
この3つの部会が出す評価結果を、毎月の定例会で地震調査委員会全体として審議・確定し、地震本部の名前で公表するという流れになっています。専門分野ごとに分業しつつ、最終的な公表は一つの組織としての統一見解にまとめる体制です。
過去の主要地震で長期評価はどう機能したか
長期評価の実際の的中率・限界を知るには、過去の主要地震を振り返るのが有効です。
2016年熊本地震:確率がやや低いとされていた断層で発生
2016年4月の熊本地震(前震M6.5・本震M7.3)は、布田川断層帯・日奈久断層帯で発生しました。この断層帯は当時の長期評価で、南海トラフや首都直下と比べて相対的に発生確率が低いグループに分類されていました。それでも震度7を2回観測する大地震が発生し、確率の数字だけで安全・危険を判断することの限界が改めて示されました。
令和8年に発生した熊本地震についても、2016年の地震との関係や命名の背景を整理した記事があります。あわせてご覧ください。
→ 令和8年熊本地震とは?命名の理由と2016年熊本地震との関係、今すぐの備えを解説
また、熊本地震では津波警報の発表を巡って混乱が生じた経緯もあります。緊急地震速報との違いとあわせて解説した記事です。
→ 熊本地震で津波警報はなぜ出た?緊急地震速報との違いと今すぐの避難行動
2011年東日本大震災:想定を超えた海溝型地震
2011年の東日本大震災(M9.0)は、日本海溝沿いで発生した海溝型地震です。当時の長期評価では、宮城県沖などの個別震源域ごとの評価は行われていたものの、複数の震源域が連動してM9クラスの巨大地震になる可能性については十分に想定されていませんでした。この教訓を受けて、地震調査委員会は長期評価の手法を見直し、複数震源域の連動発生も考慮した評価へと改善を進めています。
地震の仕組みを理解すると評価が読みやすくなる
長期評価や強震動評価を正しく理解するには、そもそも地震がプレート境界や断層でどのように発生するのかという基礎知識があると役立ちます。プレート・断層・震度・マグニチュードの違いを整理した記事です。
→ 地震の仕組みとメカニズムをわかりやすく解説【プレート・断層・震度・マグニチュードの違いまで】
後発地震にも地震調査委員会の知見が使われている
大きな地震の後、近隣で別の大地震が続けて発生する「後発地震」のリスクについても、地震調査委員会の評価が活用されています。北海道・三陸沖で運用されている「後発地震注意情報」は、この分野の代表的な取り組みです。
→ 北海道・三陸沖の「後発地震注意情報」とは?発表基準と取るべき行動を解説
評価結果を踏まえた備えの具体例
地震調査委員会の長期評価・強震動評価で自宅周辺のリスクが相対的に高いとわかった場合、実際にどんな備えを優先すべきかも押さえておきたいポイントです。地震向けの防災グッズを網羅的にまとめた記事もあわせてご確認ください。
→ 地震の防災グッズおすすめ完全ガイド【2026年最新版】本当に必要なものを徹底解説
地震調査委員会の情報発信で気をつけたいこと
地震調査委員会の評価は専門用語が多く、一般の方には読み解きにくい面があります。特に注意したいのが以下の3点です。
- 確率の数字は「絶対」ではない:熊本地震の例のように、確率が低くても発生することがあります
- 評価は震源域単位:自分の家がその震源域の想定エリアに含まれているかどうかは、個別に確認が必要です
- 更新される数字:新しい観測データにより確率や規模の想定が見直されることがあります。定期的に最新情報を確認することが重要です
地震調査委員会と気象庁の役割の違い
地震調査委員会と気象庁は、どちらも地震に関する情報を発信していますが、役割が異なります。気象庁は地震発生直後の緊急地震速報・震度速報・津波警報など、リアルタイムの防災情報を担当します。一方、地震調査委員会は、平時における中長期的な地震活動の評価・将来の発生確率の予測を担当します。
両者は連携しており、気象庁も地震調査委員会の評価結果を防災対応の基礎資料として活用しています。ニュースで「気象庁によると」「地震調査委員会によると」という情報源の違いが出てくるのは、この役割分担によるものです。
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長期評価の確率は、どうやって計算されているのか
三十年以内に何パーセント。この数字がどこから来ているのかを知っておくと、受け止め方が変わります。
単純な割り算ではありません
活断層の確率は、二つの情報から計算されます。その断層が平均して何年おきに動いてきたか。そして、最後に動いてから何年たっているか。この二つです。
たとえば、平均して二千年おきに動く断層があるとします。最後に動いたのが千九百年前なら、そろそろ次が来る時期にあたります。逆に、最後に動いたのが百年前なら、当分先だと考えられます。同じ断層でも、時期によって確率が変わるということです。
この考え方を、地震調査委員会では更新過程と呼んでいます。ひずみが少しずつたまり、限界に達すると動く。動いた直後はひずみがゼロに戻る。この物理的なイメージを、数式に置き換えたものです。
一方、海溝型の地震でも同じ考え方が使われますが、記録が多く残っているぶん、平均間隔の精度は活断層より高くなります。南海トラフの地震について比較的高い確率が示されているのは、過去の発生記録が古文書などから追えるためです。
だから「わからない」区間があります
この計算には、過去に動いた時期の情報が必要です。ところが、その情報が得られない断層があります。地層を掘って調べる調査が行われていない、あるいは調査しても年代を絞り込めなかった場合です。
その場合、確率は幅を持った形で示されるか、あるいは不明として扱われます。数字が出ていないことは、危険がないことを意味しません。むしろ、まだ調べきれていないという意味です。ここは、誤解されやすいところです。
ランク表示の読み方
活断層の評価には、確率の数字とあわせてランクが示されています。
| ランク | 30年以内の発生確率 | 位置づけ |
|---|---|---|
| Sランク | 3パーセント以上 | 活断層のなかで高い部類 |
| Aランク | 0.1パーセントから3パーセント | 高い部類に次ぐ |
| Zランク | 0.1パーセント未満 | 相対的に低い |
| Xランク | 不明 | 算定に必要な情報が不足 |
ここで注意していただきたいのが、いちばん下の行です。Xランクは、安全という意味ではありません。過去の活動時期が特定できず、確率を計算できなかった断層に付けられます。情報が足りないだけで、動く可能性がないわけではありません。
そして、Sランクの基準が三パーセントであることにも注目してください。三パーセントと聞くと低く感じますが、活断層の評価のなかでは高い部類に入ります。活断層の確率は、そもそも全体的に小さな数字になるという前提を持っておくと、数字の意味が正しくつかめます。
三パーセントをどう受け止めるか
三十年に三回ではありません
まず、読み方の確認です。「三十年以内に三パーセント」は、これから三十年のあいだに一度でも起きる可能性が三パーセントという意味です。三十年に三回起きるという意味ではありませんし、三十年後に起きるという意味でもありません。明日かもしれませんし、二百年後かもしれません。
低いと感じたときに思い出したいこと
三パーセントという数字を見て、多くの方は「まず起きない」と受け取ります。ここに落とし穴があります。
私たちは、日常のさまざまなリスクに対して、これより低い確率でも備えをしています。火災保険に入っている方は多いと思いますが、自分の家が火災に遭う確率は、数十年単位で見てもごく小さなものです。それでも保険に入るのは、起きたときの損害が大きすぎるからです。
地震の確率も、同じ枠組みで考えるべきものです。確率の大小ではなく、起きたときに何を失うかで判断する。長期評価の数字は、そのための材料として使ってください。
低い確率の断層でも起きています
これは、実際の記録が示しています。二〇一六年の熊本地震を起こした布田川断層帯の布田川区間は、事前の長期評価でほぼゼロパーセントから〇・九パーセントとされていました。それでも動きました。
確率が低い断層で起きた地震は、ほかにもあります。確率は、順番を示すものではありません。低い方が後に来るという保証は、どこにもないのです。
全国地震動予測地図を実際に使う
三つの評価が集約された地図は、誰でも無料で見られます。使い方を具体的に挙げます。
一、地震ハザードステーションのサイトを開く。防災科学技術研究所が運営しています。
二、住所を入力する。自宅、勤務先、子どもの学校、親の家。それぞれ調べておくと比較ができます。
三、確率で見る。今後三十年以内に震度六弱以上の揺れに見舞われる確率が、色で示されます。この数字は、周辺のあらゆる地震を合算したものです。特定の断層だけを見るより、その土地の総合的な危険度がつかめます。
四、揺れやすさを見る。表層の地盤がどれだけ揺れを増幅するかも表示できます。同じ市内でも、この値は場所によって変わります。硬い地盤の上か、柔らかい地盤の上か。これは、耐震にどれだけ費用をかけるかの判断材料になります。
五、近くの活断層を確認する。地図上で、周辺にどの断層帯があるかを見られます。名前を知っておくと、報道で出てきたときに内容が頭に入ります。
所要時間は十分ほどです。調べた結果を家族で共有するところまでを、一つの作業として済ませてください。知っているのが一人だけでは、いざというときに行動が揃いません。
毎月の評価も読めます
地震調査委員会は、原則として毎月、全国の地震活動を評価しています。大きな地震があったときには臨時の会合も開かれます。
その結果は、地震本部のサイトで公開されています。専門的な内容も含まれますが、その月にどこで地震活動が活発だったか、注目すべき動きがあったかを、公的な立場からまとめた文書です。
報道で断片的に伝わる情報より、こちらの方が全体像をつかめます。不安なニュースを見たときほど、一次情報にあたる価値があります。推測や憶測の入っていない記述が、そこにあります。
評価は更新されるものです
最後に、大事な前提をひとつ。長期評価の数字は、確定した予言ではありません。
新しい調査が行われれば、過去の活動時期の推定が変わります。大きな地震が起きれば、その断層の評価は当然変わります。計算の方法そのものが見直されることもあります。
ですから、以前調べた数字を覚えている方も、数年に一度は確認し直してください。数字が下がることもあれば、上がることもあります。そして、どちらに動いたとしても、家具を固定する、建物の耐震性を確かめる、備蓄を持つという行動そのものは変わりません。
評価の数字は、行動を起こすきっかけとして使うものです。行動を先延ばしにする理由として使うものではありません。ここが、この情報といちばん上手に付き合う方法だと私は考えています。
海溝型地震の評価は、活断層と何が違うのか
長期評価には、活断層のものと海溝型地震のものがあります。同じ確率という形で示されますが、成り立ちがかなり違います。
記録の量が違います
活断層が動く間隔は、数千年から数万年に一度というものが珍しくありません。人が文字を残しはじめてからの期間より長いため、過去の活動は地層を掘って調べるしかありません。当然、年代には幅が出ます。
一方、海溝型の地震は、百年から二百年ほどの間隔で繰り返すものがあります。この長さなら、古文書に記録が残ります。いつ揺れて、どこまで津波が来たかが、文字で残っているのです。海岸に残された津波の堆積物からも、過去の発生を読み取れます。
記録が多ければ、平均間隔の精度が上がります。南海トラフの地震について、今後三十年以内にマグニチュード八から九クラスが七十から八十パーセントという、活断層と比べて桁違いに高い確率が示されているのは、このためです。数字が高いのは、危険度が高いことに加えて、繰り返す間隔が短く、そのことが記録から確かめられているという事情もあります。
評価の単位が違います
活断層は、断層帯を区間に分けて評価します。それに対して海溝型は、海域を領域として区切って評価します。
ただし、次の地震がその領域のどこから始まり、どこまで広がるかまでは特定できません。過去の南海トラフの地震を見ても、東側と西側が同時に動いたことも、時間差で動いたこともあります。領域の評価は、その海域全体としての見通しであって、震源の位置を予告するものではありません。
被害の性質が違います
活断層による地震は、震源が浅く、揺れの被害が中心になります。範囲は限られますが、その範囲では激しく揺れます。
海溝型の地震は、規模が大きく、広い範囲が揺れます。そして津波を伴います。海岸線に近い地域では、揺れをしのいだ後に、避難という別の行動が必要になります。同じ確率の数字でも、備えるべき中身が変わるということです。
お住まいの地域がどちらのリスクを主に抱えているかで、優先順位が変わります。内陸であれば家具の固定と建物の耐震性が中心になりますし、沿岸部であればそこに避難経路の確認が加わります。長期評価を見るときは、確率の数字だけでなく、どの種類の地震についての数字なのかもあわせて確認してください。
評価を知らない人にどう伝えるか
調べた数字は、家族や職場で共有してはじめて意味を持ちます。ただ、確率の話をそのまま伝えても、たいてい「へえ」で終わります。
私が有効だと感じているのは、数字ではなく地図を見せることです。自宅の位置に色がついている地図を一緒に眺めると、話が具体的になります。そこから、家具をどうするか、寝室をどこにするかという相談に自然につながります。
もうひとつは、その場で一つだけ決めてしまうことです。今日は寝室の本棚を固定する、今週中に水を買い足す。地図を見た直後は、行動に移りやすいタイミングです。知った日に、何かを一つ動かす。評価という情報の、いちばん良い使い方だと思っています。数字を覚えておくことより、その日のうちに手を動かすことのほうが、はるかに確実に自分と家族を守ってくれます。
よくある質問
Q. 地震調査委員会と地震本部は何が違うのですか?
A. 地震本部(地震調査研究推進本部)は政府の司令塔にあたる組織で、予算調整や広報など全体の推進を担当します。地震調査委員会はその内部に置かれた専門組織で、実際の地震データを科学的に評価する役割を担います。
Q. 長期評価の発生確率はどのくらいの頻度で更新されますか?
A. 新しい観測データや研究成果が蓄積された段階で随時更新されます。更新頻度は震源域によって異なり、数年単位で見直されることが一般的です。最新の数値は地震本部公式サイト(jishin.go.jp)で確認できます。
Q. 発生確率が低い地域は地震の心配をしなくていいのですか?
A. いいえ。2016年の熊本地震のように、長期評価で相対的に確率が低いとされていた断層で大きな地震が発生した例があります。確率はあくまで統計的な目安であり、確率の低さを備えを怠る根拠にしないよう注意が必要です。
Q. J-SHISは誰でも無料で使えますか?
A. はい。J-SHIS(地震ハザードステーション)は地震本部・防災科学技術研究所が公開しているWebサービスで、誰でも無料で自宅周辺の地震動予測情報を確認できます。
まとめ
地震調査委員会は、全国の地震観測データを毎月評価し、主要な断層や海溝型地震の発生確率・想定される揺れの強さを継続的に公表している組織です。南海トラフ地震の「70〜80%」、首都直下地震の「約70%」という数字も、この地震調査委員会の長期評価がもとになっています。
J-SHISで自宅周辺の評価を一度確認しておくと、耐震対策や備蓄の優先順位を数字で判断しやすくなります。確率の数字を「安心材料」にも「無関心の言い訳」にもせず、備えの基礎資料として活用することをおすすめします。
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