【この記事の要約】
林野火災は、自然に発生する災害ではありません。消防庁の統計では、令和五年の出火件数千二百九十九件のうち、原因の第一位はたき火で四百十六件、全体の三十二・〇パーセントを占めます。つまり、人が止められる災害です。発生が集中するのは三月で、次いで四月、二月。空気が乾き、枯れ草が広がり、強い風が吹く時期です。この記事では、実効湿度と乾燥注意報の意味、火の粉が遠くまで飛ぶ仕組み、消火がなぜ難しいのか、そして山に入る人と山のふもとに住む人がそれぞれ何をすべきかを整理しました。二〇二五年に岩手県大船渡市で起きた、平成以降で国内最大の林野火災も取り上げます。
結論からお伝えします。林野火災の原因の三分の一は、たき火です。落雷でも、自然発火でもありません。
この事実には、二つの意味があります。ひとつは、私たちの側に責任があるということ。もうひとつは、私たちの側で防げるということです。
地震も台風も、発生そのものは止められません。ところが林野火災は、火をつけなければ起きません。日本で起きる災害のなかで、これほど人の行動に直結しているものは、ほかにあまりありません。
私は防災士として北海道で暮らしていますが、春先の乾燥した時期には、山からの煙を心配する声を聞くことがあります。北海道も、決して他人事ではない地域です。
数字で見る林野火災
まず、規模を押さえておきます。消防庁の統計から引用します。
| 項目 | 令和5年 |
|---|---|
| 出火件数 | 1,299件 |
| 焼損面積 | 844ヘクタール |
| 最も多い出火原因 | たき火 416件(32.0%) |
| 最も多い月 | 3月(次いで4月、2月) |
年間で千三百件近く。一日あたり三件から四件のペースで、日本のどこかの山や林が燃えています。報道されるのは大規模なものだけなので、実感がないかもしれません。しかし、数としては珍しい災害ではありません。
なぜ三月に集中するのか
月別の分布には、はっきりした理由があります。四つの条件が、この時期に重なります。
一、空気が乾いています。冬から春にかけては降水量が少なく、湿度が下がります。とくに太平洋側では、この傾向が強く出ます。
二、枯れ草と落ち葉が地面を覆っています。冬を越した草木は乾ききっています。これが、火を運ぶ燃料になります。新緑が芽吹く前の時期は、山全体が乾いた燃料に覆われている状態です。
三、風が強い日が多くなります。春先は気圧配置の関係で、強い風が吹きやすい季節です。風は、火を広げ、飛び火を起こします。
四、人が山に入ります。農作業の準備、田畑の枯れ草を焼く火入れ、山菜採り、行楽。火を扱う機会が、この時期に増えます。
条件と行動が、同じ時期に重なる。これが三月の意味です。
ここでお伝えしておきたいのは、この時期が「火事の季節」だと意識されていないことです。冬は暖房を使うので火に気をつける、という感覚は多くの方が持っています。ところが三月は、暖房を片づけはじめる時期でもあり、気持ちのうえでは火から離れていきます。意識が緩む時期と、山が最も燃えやすい時期が一致している。ここに、この災害のやっかいさがあります。
実効湿度と乾燥注意報
火災の危険度を測る指標があります。ここを知っておくと、天気予報の見え方が変わります。
実効湿度とは何か
ふだん天気予報で聞く湿度は、そのときの空気の状態を表しています。ところが、木材や枯れ草がどれだけ乾いているかは、その日の湿度だけでは決まりません。
数日前から乾いた日が続いていれば、木はしっかり乾いています。逆に、前日まで雨が降っていれば、当日の湿度が低くても、木にはまだ水分が残っています。
この数日前からの湿度の履歴を織り込んで、木材の乾燥度合いを表した指標が、実効湿度です。
考え方は、土砂災害で使われる土壌雨量指数と似ています。今日の数字だけでなく、たまってきたものを見る。燃えやすさは、その日だけでは決まらないということです。
乾燥注意報
乾燥注意報は、実効湿度と、その日の最小湿度が基準を下回るときに発表されます。基準の数値は地域によって違います。もともと乾燥しやすい地域と、湿潤な地域では、同じ数字の意味が違うためです。
乾燥注意報が出ている日は、火災が起きやすく、そして広がりやすい日です。この日に山で火を使うのは、避けてください。
火災気象通報と火災警報
もうひとつ、知っておくと役に立つ仕組みがあります。
気象台は、火災の危険が高いと判断したとき、都道府県知事に対して火災気象通報を行います。これを受けて、市町村長が火災警報を発令することがあります。
火災警報が出ている間は、条例によって、たき火や火入れが制限されます。屋外での火の使用が禁止されることもあります。
ここは意外と知られていません。火災警報が出ている日のたき火は、条例違反になる場合があります。山や河川敷で火を使う予定があるなら、その日の警報の有無を確認してください。
火は、思っているより遠くへ飛びます
林野火災を特別なものにしているのが、飛び火です。
飛び火の仕組み
木が燃えると、燃えた葉や小枝の破片が舞い上がります。これが火の粉です。上昇気流に乗って高く上がり、風に流されて遠くへ運ばれます。
落ちた先に乾いた枯れ草があれば、そこから新しい火が生まれます。燃えている場所と、次に燃える場所が、つながっていないのです。
これが、消火を極端に難しくします。目の前の火を消しても、数百メートル先で新しい火が立ち上がる。防火帯をつくっても、火の粉はその上を越えていきます。火の勢いが強いほど上昇気流も強くなり、火の粉はより高く、より遠くへ運ばれます。大きくなるほど広がりやすくなるという、悪循環が起こります。
そして、飛び火は建物にも届きます。山のふもとの集落が被害を受けるのは、火が地面を伝って迫ってくるからだけではありません。空から降ってくるからです。
火炎旋風
大規模な火災では、炎の竜巻とも呼ばれる現象が発生することがあります。強い上昇気流が回転を伴い、渦を巻いて炎が立ち上がります。
この渦は、燃えているものを巻き上げて移動します。予測できない方向へ火を運び、消火にあたる人の退路を断つこともあります。二〇二五年の大船渡市の火災でも、被害を広げた要因のひとつとして指摘されています。
二〇二五年、大船渡市の林野火災
近年で最大の事例を振り返ります。
二〇二五年二月二十六日、岩手県大船渡市で林野火災が発生しました。鎮圧が宣言されたのは三月九日。出火から十二日目のことでした。
焼失面積は、当初およそ二千九百ヘクタールと発表され、その後の調査でおよそ三千三百七十ヘクタールへ修正されました。これは大船渡市の面積のおよそ九パーセントにあたります。市の一割近くが焼けた計算になります。
建物の被害は二百十棟にのぼり、このうち住宅は百二棟でした。焼失面積は、平成以降で国内最大の林野火災となりました。
この事例が示していることを、三つ挙げます。
一、消火に時間がかかります。十二日間です。地震や水害のように、数時間から数日で状況が固まる災害とは違います。避難生活も、それだけ長引きます。
二、住宅が燃えます。山だけの話ではありません。百二棟の住宅が被害を受けました。林野火災は、生活の場に届きます。
三、冬でも起きます。発生は二月末です。雪のイメージがある東北で、冬の終わりに大規模な火災が起きました。火災は夏の災害ではありません。
なぜ消すのが難しいのか
火事といえば消防車、というイメージがあります。しかし、山ではそれが通用しません。
水がありません。市街地には消火栓がありますが、山にはありません。水を運ぶだけで、膨大な手間と時間がかかります。
車が入れません。林道がなければ、消防車は近づけません。人が装備を背負い、急な斜面を歩いて入ることになります。
広すぎます。数百ヘクタール規模になると、境界線そのものが数キロに及びます。全周を同時に押さえることはできません。
夜は空から消せません。消防防災ヘリコプターによる散水は有効ですが、夜間や視界の悪い条件では飛べないことがあります。夜のあいだに火が広がるという展開が起こります。
地面の下でくすぶります。落ち葉が積もった層や、泥炭質の地面では、表面の火が消えた後も地中で燃え続けることがあります。数日後に再び炎が上がることもあります。鎮圧と鎮火は別のものだと理解してください。
火が消えた後に残るもの
ここは、あまり語られない論点です。林野火災の被害は、燃えた面積では終わりません。
焼けた斜面は、崩れやすくなります
森林には、雨を受け止める働きがあります。木の葉が雨粒の勢いを弱め、根が土をつなぎ止め、地面を覆う落ち葉の層が水を吸います。
火災は、この働きをまとめて奪います。木が焼け、根が枯れ、地表の落ち葉が燃え尽きた斜面には、雨がそのまま叩きつけます。
その結果、何が起きるか。土砂災害の危険が跳ね上がります。焼け跡では、これまでなら問題にならなかった雨量で、土砂が流れ出すことがあります。
そして、この状態は一度の雨で終わりません。植生が回復するまで、数年にわたって続きます。火事の翌年、翌々年の梅雨や台風で被害が出ることがあります。
土石流の前ぶれと逃げ方は土石流とは?前ぶれ・逃げる方向・危険な場所の調べ方にまとめました。山が焼けた地域にお住まいなら、その後の雨のたびに警戒を一段上げてください。
森林が戻るには、時間がかかります
焼けた森林が元の姿に戻るには、数十年という時間が必要です。植林をしても、木が育つには年月がかかります。
その間、水源としての働き、動物の住みか、木材としての価値。すべてが失われたままになります。一日の火が、数十年を奪うという言い方ができます。
生活への影響も長引きます
大船渡市の事例では、鎮圧まで十二日を要しました。その間、多くの住民が避難生活を続けています。
そして、電気や水道といった設備が焼けた場合、復旧にも時間がかかります。山間部では、電線が山を越えて引かれていることが多いためです。
日本の林野火災は、世界とどう違うか
大規模な山火事といえば、海外の映像を思い浮かべる方が多いかもしれません。日本の状況は、少し性格が違います。
件数は多く、一件あたりの規模は小さい。年間千三百件近く発生しますが、焼損面積の合計は八百ヘクタール台です。単純に割れば、一件あたりは一ヘクタール未満になります。多くは、小規模なうちに消し止められています。
これは、消防の体制と、地形と、そして人が住む場所と山が近いことによります。山が生活圏に近いということは、早く見つかるということでもあります。
一方で、同じ理由から、火が住宅に届きやすいという側面もあります。海外の大規模火災は広大な原野で起きることが多いのに対し、日本では山のすぐ下に集落があります。
そして、大船渡市の事例が示したように、条件がそろえば数千ヘクタール規模にもなります。「日本の山火事は小さい」という前提は、常に成り立つわけではありません。
地域で守るという考え方
林野火災の消火では、消防団の役割が大きくなります。地形を知り、水利を知り、地元の道を知っている人たちです。
ただ、近年は団員の減少と高齢化が課題になっています。山間部ほど、その傾向が強くなります。
住民としてできることは、いくつかあります。
火を出さない。これがいちばんの貢献です。地域の火災の多くは、地域の人の火から始まります。
早く通報する。煙を見つけたら、迷わず一一九番へ。誰かが通報しているだろう、と考えないでください。初期段階で消し止められるかどうかが、すべてを分けます。煙の量が少なく、まだ小さいうちの通報こそ、いちばん価値があります。
地域の取り決めを知っておく。火入れの届出、集落の連絡網、避難場所。慣習として続いてきたものが、今の世帯構成に合っているかを見直す機会も必要です。
山に入る人がやるべきこと
原因の第一位がたき火である以上、ここがいちばん効きます。
乾燥注意報と火災警報を確認する。出ている日は、屋外で火を使わないでください。条例で禁止されている場合もあります。
風の強い日は火を使わない。火の粉が飛びます。判断に迷うくらいの風なら、やめてください。
たき火は、燃えるものから離れた場所で。枯れ草の上、落ち葉の上は避けます。地面が土や砂で、周囲に燃えるものがない場所を選んでください。
水を用意してから火をつける。消すための水を先に確保します。火をつけてから探すのでは間に合いません。
完全に消してから離れる。ここが最も重要です。表面の炎が消えても、中で燃えていることがあります。水をかけ、かき混ぜ、また水をかける。手で触れる温度になるまで確認してください。土をかけて埋めるだけでは、消えていないことがあります。
たばこの吸い殻を捨てない。言うまでもないことですが、毎年起きています。
火入れは許可を得てから。田畑や山林で枯れ草を焼く行為は、市町村への届出や許可が必要な場合があります。慣習で続けている方も、一度確認してください。
山のふもとに住む人がやるべきこと
飛び火が届く可能性があるなら、備え方が変わります。
家の周りの燃えるものを減らす。薪、枯れ草、落ち葉、段ボール。家の外壁のそばに燃えるものがあると、飛び火が着火します。建物から数メートルの範囲を、燃えないもので保つという考え方が有効です。
雨どいの落ち葉を取る。屋根の上に乾いた落ち葉がたまっていると、そこに火の粉が落ちます。
避難の経路を複数持つ。山間部では、道が一本しかないことが珍しくありません。その道が煙や炎でふさがれたら、どうするか。火は風向きで進む方向が変わるため、避難先も複数必要です。
早めに動く。林野火災の避難は、水害と違って「いつ危なくなるか」が読みにくいものです。風向きが変われば、安全だった地区が数十分で危険になります。迷ったら早く動く。これに尽きます。
煙への備えを持つ。火が届かなくても、煙は広い範囲に流れます。防塵マスク、目を守るもの。呼吸器に持病のある方は、とくに注意が必要です。
登山やハイキングの前に
火を使わない人にも、確認しておいてほしいことがあります。
入山規制が出ていないかを見る。火災が発生している地域では、山への立入が制限されます。近隣の山であっても、当日の状況を確認してください。
登山届を出す。火災に限らず、誰がどこにいるかが分かっていることは、救助の速さを左右します。
下山ルートを二つ持つ。火や煙で一方が使えなくなる可能性があります。地図の上で、別の下り口を確かめておいてください。
風向きを意識する。山では、朝と昼で風向きが変わることがあります。谷から吹き上がる風、尾根を越える風。火災に遭遇したとき、風向きが分かっていれば逃げる方向を即座に決められます。
火災に遭遇したら
山にいるときに火災に気づいたら、次のように動いてください。
すぐに一一九番へ通報する。場所が説明しにくい場合は、登山道の名前、目印になる建物、地図アプリの位置情報を使ってください。
風上へ、そして下へ逃げる。火は、風に乗って進みます。そして、斜面を登る方向へ速く広がります。熱と炎は上へ向かうためです。ですから、山頂方向へ逃げるのは危険です。風上側で、なおかつ下る方向を選んでください。
谷を避ける。谷は煙と熱がたまりやすく、風の通り道にもなります。傾斜のきつい谷筋は、とくに火の進みが速くなります。
燃えるものがない場所へ。岩場、河原、すでに焼けた場所。草木のない場所は、火が入ってきません。広い駐車場や耕作地も、同じ理由で退避先になります。
自分で消そうとしない。初期のごく小さな段階を除いて、個人での消火は不可能です。通報と避難を優先してください。
たき火を安全に楽しむために
原因の第一位がたき火だと書きましたが、たき火をやめましょうという話ではありません。屋外で火を扱う楽しみには、代えがたいものがあります。
問題なのは、条件を確認せずに火をつけることと、始末をせずに立ち去ることです。ここを押さえれば、たき火は安全な行為になります。
火をつける前に確認する三つ
一、その日の乾燥注意報と火災警報。気象庁のサイトや天気アプリで確認できます。火災警報が出ている日は、条例で禁止されている可能性があります。
二、風速。天気予報の風速を見てください。数字で判断できると、迷いが減ります。旗がはためく、木の枝が揺れる。こうした様子が見えたら、その日はやめる。
三、その場所で火を使ってよいか。河川敷や公園、キャンプ場でも、火気の使用が禁止されている場所があります。管理者の掲示を確認してください。
場所のつくり方
たき火台を使うのが基本です。地面に直接火を置く方法は、地表の有機物に火が移りやすく、消えたように見えて内部で燃え続けます。
設置する場所は、周囲に燃えるものがない、土や砂の上を選んでください。落ち葉が積もっている場所は、たとえ台を使っていても危険です。落ちた火の粉が着火します。
そして、風上側に立たないでください。火の粉が自分と荷物に飛んできます。
持っていくもの
水。消火用に、飲み水とは別に確保します。バケツやウォータータンクがあると確実です。
火消し壺、あるいは金属の容器。燃え残った炭を入れて密閉すれば、酸素が断たれて確実に消えます。持ち帰ることもできます。
革手袋とトング。熱いものを扱うために必要です。
スコップ。灰を扱うときや、万一のときに土をかけるために使えます。
片づけ方
ここがいちばん重要です。完全に消えたと確認できるまで、その場を離れないでください。
手順としては、燃え残りに水をかけ、かき混ぜて、内部にも水を行き渡らせます。そしてもう一度水をかける。湯気が出なくなり、手を近づけても熱を感じなくなるまで続けてください。
灰を地面に埋めるのは、確実な方法ではありません。土の中に酸素が残っていれば、燃え続けることがあります。持ち帰るのが最も安全です。
そして、時間に余裕を持って火を落としてください。帰る時間が迫ってから消しはじめると、確認が甘くなります。撤収の一時間前には火を落とす、と決めておくと安心です。
住宅の火災についても知っておく
林野火災と住宅火災は、原因も広がり方も違います。住宅火災では、こんろが1位、次いで電気機器、たばこ、配線器具です。
逃げ方と初期消火の限界は火事から身を守る方法、電気が原因の火災は電気火災とは?にまとめました。
よくある質問
林野火災は自然に起きるのではないのですか
日本では、ほとんどが人の火によるものです。令和五年の統計では、原因の第一位がたき火で三十二・〇パーセントを占めます。落雷による自然発火もありますが、割合としては小さいものです。だからこそ、防げる災害だといえます。
乾燥注意報が出ている日でも、キャンプ場ならたき火をしてよいですか
施設のルールに従ってください。管理されたキャンプ場では、たき火台の使用や場所が定められていることが多く、それに従うのが基本です。ただし、火災警報が発令されている場合は、条例で屋外の火の使用が制限されることがあります。施設に確認してください。
火の始末は、どこまでやれば十分ですか
手で触れる温度になるまでです。表面の炎が消えても、内部でくすぶっています。水をかけて、かき混ぜて、また水をかける。これを繰り返してください。灰を土に埋めるだけでは、酸素が入り込む隙間があれば燃え続けることがあります。
飛び火はどれくらいの距離まで届きますか
条件によりますが、風が強ければ数百メートル、場合によってはそれ以上先まで火の粉が運ばれます。燃えている場所から離れているから安全、とは言えません。風下側では、自宅の周りに燃えるものを置かないことが重要になります。
鎮圧と鎮火は違うのですか
違います。鎮圧は、火の勢いが弱まり、これ以上の延焼のおそれがなくなった状態です。鎮火は、完全に消えたと確認された状態です。鎮圧の後も、地中でくすぶって再燃することがあります。報道で「鎮圧」と聞いても、終わったわけではありません。
山火事の煙は健康に影響しますか
影響します。細かい粒子や有害なガスを含むため、目や喉の痛み、咳を引き起こします。呼吸器や心臓に持病のある方、高齢の方、小さなお子さんはとくに注意が必要です。煙が流れてきたら、窓を閉め、屋内にとどまってください。症状が強い場合は医療機関を受診してください。
住宅が燃えた場合、保険は使えますか
火災保険の対象になるのが一般的です。ただし契約内容によって異なるため、証券を確認してください。被災後の手続きの流れは被災した後にやることの全体像にまとめています。罹災証明書の取得が、各種支援の起点になります。
電気自動車や充電池を山へ持ち込むときの注意はありますか
充電池は、強い衝撃や高温で発火することがあります。真夏の車内に放置しない、変形したものを使わない、という基本を守ってください。膨らんでいる、異常に熱い、異臭がする。この三つが見えたら使用をやめてください。山中で発火すれば、そのまま林野火災につながります。
液漏れしたものは処分し、充電池セットに替えてください。
火入れをする場合、どんな手続きが必要ですか
市町村への届出や許可が必要な場合があります。森林法や各自治体の条例で定められており、地域によって内容が異なります。長年の慣習で続けている方こそ、一度確認してください。ルールが変わっていることがあります。また、届出をしていても、風の強い日や乾燥注意報が出ている日は実施を見合わせるのが安全です。
山火事の跡地には近づかないほうがよいですか
近づかないでください。二つの理由があります。ひとつは、地中でくすぶっている可能性があること。もうひとつは、焼けた樹木が不安定になっていて、倒れてくる危険があることです。さらに、保水力を失った斜面は雨のたびに崩れやすくなっています。立入規制が出ている場合は、必ず従ってください。
住宅の火事とは、備え方が違うのですか
共通する部分と、違う部分があります。早く気づいて早く逃げるという原則は同じです。違うのは、林野火災では避難の判断がより早く必要になる点と、風向きによって危険な方向が変わる点です。住宅火災の対策は火事から身を守る方法にまとめました。
まとめ
林野火災について、整理します。
令和五年の出火件数は千二百九十九件、焼損面積は八百四十四ヘクタールでした。原因の第一位はたき火で四百十六件、三十二・〇パーセントを占めます。自然発火ではなく、人の火です。
発生が集中するのは三月、次いで四月と二月です。空気が乾き、枯れ草が広がり、風が強く、そして人が火を使う時期が重なります。
火災の危険度は、実効湿度という指標で測られます。その日の湿度だけでなく、数日前からの履歴を織り込んだ数値です。乾燥注意報や火災警報が出ている日は、屋外で火を使わないでください。火災警報中のたき火は、条例違反になる場合があります。
林野火災の厄介さは、飛び火にあります。火の粉が数百メートル先まで運ばれ、燃えている場所とつながっていない地点から新しい火が生まれます。住宅にも届きます。
二〇二五年の大船渡市の火災では、鎮圧まで十二日、焼失面積は市域の約九パーセントにあたる規模となり、住宅百二棟を含む二百十棟が被害を受けました。二月に、東北で起きています。
山に入る人がやるべきことは、明快です。乾燥注意報と火災警報を確認する。風の強い日は火を使わない。水を用意してから火をつける。そして、手で触れる温度になるまで消してから離れる。
山のふもとに住む人は、家の周りの燃えるものを減らし、雨どいの落ち葉を取り、避難経路を複数持ってください。風向きが変われば、安全だった地区が数十分で危険になります。
最後にひとつ。林野火災は、日本の災害のなかでめずらしく、私たちが火をつけなければ、ほとんど起きない災害です。地震も台風も止められませんが、これは止められます。春先に山へ出かける方は、そのことを思い出していただけたらと思います。
そして、この記事を読んだ後に、ひとつだけやっていただきたいことがあります。次に屋外で火を使う予定がある日を思い浮かべて、その日の乾燥注意報を確認する習慣をつくってください。天気予報を見るときに、降水確率と一緒に湿度を見る。それだけです。
私たちは、雨の予報は熱心に見ます。傘が必要かどうかを知りたいからです。ところが乾燥の予報は、たいてい聞き流しています。雨の日に困るのは自分ですが、乾いた日に火を出すと、困るのは地域全体になります。
大船渡市の事例では、市域の一割近くが焼け、二百十棟の建物が被害を受けました。始まりは、山のどこかの小さな火です。小さな火が、そこまで届いてしまう。それが、乾いた季節の山という場所の性質です。
火を使うことを恐れる必要はありません。条件を確かめて、水を用意して、最後まで消す。この三つを守れば、たき火は安全な行為として続けられます。

