【この記事の要約】
防災を意識している人は86.2%いるのに、避難のための「服の備え」をしている人は14.7%。ユニクロが2021年に2,400人へ行った調査の数字です。自治体の備蓄も、8割以上が衣類まで手が回っていません。それでいて、避難を経験した方の4人に1人が「足りなかったもの」に服を挙げています。この記事でお伝えしたい要点は二つです。ひとつは、綿の服は避けること。綿は濡れると乾かず、気化熱で体温を奪い続けます。もうひとつは、厚い一枚ではなく薄い三枚で組むこと。肌に触れる層、熱をためる層、風と雨を防ぐ層。この三層に分けると、暑さにも寒さにも一つの装備で対応できます。素材の選び方、季節と災害の種類ごとの考え方、避難所で本当に足りなくなるものまでまとめます。
防災リュックの中身を思い浮かべてください。
水、食料、ライト、モバイルバッテリー、ラジオ、常備薬。ここまでは、多くの方がすぐ出てくると思います。
では、服は何が入っていますか。
この問いに詰まる方が多いのだとしたら、それは個人の不注意ではありません。服は、備蓄品として語られてこなかっただけです。私自身、防災の話をするときに後回しにしてきた分野だと感じています。
結論|綿を避けて、薄い三枚で組む
長い記事になりますので、先に結論を書きます。
一、綿の服を、備えの主力にしないでください。Tシャツ、ジーンズ、スウェット。着心地はよいのですが、濡れると乾きません。そして濡れた布は、体温を奪い続けます。
二、厚い一枚より、薄い三枚です。肌に触れる層、熱をためる層、風と雨を防ぐ層。この三つに分けておくと、脱ぎ着で温度を調整できます。厚手のコート一枚では、暑いか寒いかの二択になります。
三、いちばん足りなくなるのは、下着と靴下です。上着ではありません。避難所では洗濯ができず、替えがないものから困っていきます。
四、履くものを忘れないでください。靴、靴下、そして室内で履くもの。避難所の床は硬く、冷たく、ガラス片が落ちていることもあります。
理由を、順に説明します。
数字で見る|服だけが、備えから抜け落ちています
まず、現状を数字で確認します。
ユニクロが2021年2月、全国の20代から60代の男女2,400人に行った調査があります。そこで示されたのが、次の数字です。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 日ごろから防災を意識している | 86.2% |
| 避難のための「服の備え」をしている | 14.7% |
| 避難を経験した方が「足りなかった・あったらよかった」に服を挙げた割合 | 4人に1人 |
| 避難時の衣類を備蓄できていない市区町村 | 8割以上 |
この並びを、じっくり見ていただきたいのです。
意識は86.2%。行動は14.7%。この差は、他の備蓄品ではあまり見ない開き方です。
なぜ、服だけが抜けるのか
理由は、いくつか思い当たります。
一、家にあるから、備えた気になるのです。水や食料は、備えなければ家にありません。しかし服は、タンスに入っています。「いざとなれば着ていけばいい」と考えてしまう。
ところが実際の避難は、そう進みません。夜中に起きることもあれば、寝間着のまま飛び出すこともあります。選んでいる時間はありません。
二、優先順位で負けるのです。自治体の備蓄も同じ構図でした。食料と飲料水、そして感染症の対策用品が優先され、衣類まで予算と保管場所が回らない。これが8割以上という数字の背景です。
つまり、避難所へ行けば服がもらえる、という前提は成り立ちません。ここは押さえておいてください。
三、命に関わると思われていないのです。これが最も大きいと私は考えています。服は快適さの問題であって、生死の問題ではない。多くの方がそう感じています。
しかし、濡れた服は人を死なせます。次に、その話を書きます。
綿を避ける理由|濡れた服は、体温を奪い続けます
ここが、この記事の核心です。
水は、空気の何倍もの速さで熱を奪います
体が濡れると、水が蒸発するときに熱を持っていきます。気化熱です。夏に汗をかくと涼しくなるのは、この仕組みのおかげです。
問題は、涼みたくない場面でも同じことが起きるということです。
雨に濡れた。汗をかいた。川の水に浸かった。そのまま風に当たれば、体温はどんどん下がります。気温が10℃を上回っていても、低体温症は起こります。夏の山でも起きています。
綿は、いちど濡れると乾きません
ここで素材の差が出ます。
綿は水をよく吸います。そして繊維そのものが水を抱え込むため、なかなか手放しません。体に貼りつき、濡れたまま長時間そこにあり続けます。
登山の世界では、綿の衣類について強い言い方で戒められることがあります。それくらい、濡れた綿は危険だと考えられているということです。
| 素材 | 濡れたときの挙動 | 防災での位置づけ |
|---|---|---|
| 綿 | 大量に吸い、乾きにくい。体に貼りつく | 肌に触れる層としては避けたい |
| ポリエステルなどの化学繊維 | 吸水しにくく、乾きが速い | 肌に触れる層の主力 |
| ウール(メリノウール) | 濡れても保温性が比較的残る。においが出にくい | 洗えない状況で有利 |
| ダウン | 濡れると膨らみが潰れ、保温力を失う | 雨のおそれがある場面では過信しない |
| 化繊の中綿 | 濡れても保温力が残りやすい | 雨と寒さが同時に来る場面向き |
ダウンについては、少し補足します。軽くて暖かく、冬の備えとして優秀な選択です。選び方は防災にダウンジャケットが最強な理由にまとめました。ただし濡れると弱い。雨や雪が想定される場面では、上に風雨を防ぐ層を重ねることが前提になります。
速乾素材は、夏にも効きます
吸水速乾の素材は、寒さ対策だけのものではありません。
夏の避難所は、高温で、湿度が高く、そして空調が十分とはかぎりません。汗をかいたまま乾かない服を着ていると、不快なだけでなく、あせもや皮膚のトラブルにつながります。
服の色によっても、体感は変わります。服の色で熱中症リスクは変わる|白と黒で表面温度20℃差にまとめました。
薄い三枚で組む|重ね着の考え方
次に、組み立て方です。
登山や屋外の仕事で使われている考え方が、そのまま防災に使えます。服を、役割の違う三つの層に分けます。
一枚目|肌に触れる層
役割は汗を肌から引き離すことです。ここが濡れたままだと、上に何を着ても寒くなります。
選ぶのは化学繊維か、ウール。綿の肌着は、ここでは避けてください。夏は吸水速乾のもの、冬は保温性のあるものになります。
二枚目|熱をためる層
役割は空気の層をつくって、体温を逃がさないことです。
フリース、薄手のダウン、化繊の中綿入り。ここは脱ぎ着で調整する層なので、厚い一枚より薄手を二枚のほうが融通が利きます。
三枚目|風と雨を防ぐ層
役割は外からの風雨を止めることです。
ウィンドブレーカーやレインウェアがこれにあたります。どれだけ中を暖かくしても、風が通れば熱は奪われます。薄くてかさばらないものが一枚あるだけで、備えの質が変わります。
雨具は傘ではなく、上下が分かれたものか、ポンチョをおすすめします。避難のときは両手が空いている必要があるからです。
この組み方の利点
三層に分けておくと、一つの装備で幅広い気温に対応できます。暑ければ脱ぐ。寒ければ着る。動くときは減らし、止まったら足す。
逆に、厚手のコート一枚しかない場合、暑いか寒いかしか選べません。そして汗をかけば、その汗で冷えます。
災害の種類で、必要な服は変わります
状況ごとに、押さえるべき点が違います。
水害のとき|濡れることが前提です
大雨や洪水では、濡れないようにするのではなく、濡れたあとをどうするかを考えてください。
いちばん大事なのは替えの一式を、防水した袋に入れて持つことです。ビニール袋で二重にするだけでも違います。着替えがなければ、濡れた服を着続けるしかありません。
そして、水が引いたあとの片づけです。ここには別の装備が要ります。長靴、厚手の手袋、マスク、長袖と長ズボン。泥には汚水や細菌が含まれるため、肌を出さないことが必要になります。
ところが、この装備は熱をこもらせます。感染を防ぐための格好が、そのまま熱中症の危険を高める。真夏の水害では、この矛盾が必ず起きます。
2026年8月の千葉県の豪雨でも、真夏の泥のかき出しが続きました。被災後の片付けと消毒に装備と手順を、令和8年8月千葉豪雨の記録に当時の状況をまとめています。
地震のとき|足元とガラスから身を守ります
地震で最初に問題になるのは、割れたガラスと、散乱した物です。
裸足やスリッパで動くと、足を切ります。怪我をすれば、避難そのものができなくなります。枕元に、底の厚い靴を置いておいてください。
倒壊した建物のそばでは、粉じんも出ます。長袖と手袋、そしてマスクが役に立ちます。
履くものの選び方は防災用折り畳みシューズの選び方、手を守るものは防災用手袋の選び方にまとめました。
冬の停電|着込むことが暖房になります
電気が止まれば、暖房も止まります。このとき、服がそのまま暖房器具になります。
ここでも三層の考え方が効きます。そして頭と首と足元を忘れないでください。帽子、ネックウォーマー、厚手の靴下。細いところから熱は逃げます。
燃やして暖を取ろうとするのは、最後の手段にしてください。屋内で炭や発電機を使うと、一酸化炭素中毒が起きます。詳しくは災害時の一酸化炭素中毒と停電対策【冬編】にまとめています。
夏の停電|着込むことでは解決しません
ここが冬と決定的に違うところです。
夏の停電に、服でしのぐ方法はありません。できるのは、吸水速乾の素材を選ぶこと、明るい色を選ぶこと、そして体を冷やす手段を別に持つことです。停電対策【夏編】をご覧ください。
避難所で、本当に足りなくなるもの
ここは、リストを作るときに見落とされやすい部分です。
下着と靴下が、最初に尽きます
上着は、同じものを何日か着られます。下着と靴下は、そうはいきません。
そして避難所では、洗濯ができません。水が止まっていることも、干す場所がないこともあります。替えの枚数が、そのまま生活の質になります。
目安として、三日分を考えてください。三日あれば、支援物資や給水が届き始めることが多いからです。
着替える場所が、ありません
これは、とくに女性の方から挙がる問題です。
体育館に仕切りがない。更衣室が用意されていない。結果として、着替えそのものを我慢することになります。
対策としては、大きめのポンチョや、丈の長い上着が役に立ちます。かぶったまま着替えられるからです。ひざ下まである薄手の羽織りものを一枚入れておくと、目隠しにも防寒にも使えます。
室内で履くものが、意外に効きます
避難所の床は硬く、冷たいです。土足の場所を歩いた靴のまま生活はできません。
薄手の室内履きを一足入れておくと、体感がかなり変わります。かさばらず、軽いものがあります。
同じ姿勢が続くという問題
避難所や車の中では、長時間同じ姿勢になります。締めつけの強い服は、血の巡りを妨げます。
これはエコノミークラス症候群の危険につながります。ゆったりした服と、着圧ソックス。この二つは方向が逆に見えますが、役割が違います。詳しくは災害時のエコノミークラス症候群にまとめました。
何を、どれだけ入れるか
ここまでを踏まえて、備える中身を整理します。
ユニクロが公開している「服の備えチェックリスト」では、長袖と半袖をそれぞれ3枚、下着と靴下とマスクをそれぞれ3枚、部屋着を1セット、室内履きを1足、上着を1枚、そして持ち運ぶバッグを1個としています。三日分という考え方が土台になっています。
これを、私なりに優先順位をつけて並べ直すと、次のようになります。
| 優先 | 品目 | 選び方の要点 |
|---|---|---|
| 最優先 | 下着 3日分 | 化学繊維の速乾素材。かさばらない |
| 最優先 | 靴下 3日分 | 厚手を1足含める。濡れたときの替えとして |
| 最優先 | 底の厚い靴 | 枕元に置く。ガラスと瓦礫から足を守る |
| 高 | 肌に触れる長袖 1〜2枚 | 速乾素材。夏でも一枚は長袖を |
| 高 | 薄手の羽織りもの 1枚 | フリースなど。脱ぎ着で調整する層 |
| 高 | 雨具(上下またはポンチョ) | 傘ではなく、両手が空くもの |
| 中 | 部屋着 1セット | 締めつけない。長時間の座位を想定 |
| 中 | 室内履き 1足 | 硬く冷たい床から足を守る |
| 中 | 厚手の手袋 | 片づけと瓦礫の作業に |
| 中 | 帽子 | 夏は日射、冬は放熱を防ぐ |
| 状況に応じて | 丈の長い上着かポンチョ | 着替えの目隠しを兼ねる |
| 状況に応じて | 防水した袋 | 替えの一式を濡らさないため |
枚数の考え方と、かさばらせないための収納は防災リュックの着替えは何枚必要?種類・選び方・コンパクトな収納方法にまとめています。圧縮袋を使うと、容積は大きく減らせます。
リュック全体の組み方は非常持ち出し袋の中身をご覧ください。
ご家族の分を考えるとき
お子さんは、成長します。ここが大人と違うところです。去年入れた服が、今年は着られません。年に一度、サイズを確かめる日を決めてください。9月1日の防災の日が使いやすいと思います。
高齢の方の場合は、着脱のしやすさが優先されます。かぶるより前開き、細かいボタンより大きめの留め具。手が思うように動かない状況を想定してください。
お金をかけずに始める方法
ここまで読んで、買い揃えなければと感じた方がいるかもしれません。
その必要はありません。いま持っている服から始められます。
一、タンスを見て、化学繊維のものを探してください。スポーツ用の下着やシャツ、運動着。すでに家にあることが多いはずです。
二、それを一式、袋にまとめてください。買い足すのではなく、移すだけです。これで備えの中心はできます。
三、足りないものだけ、少しずつ足してください。雨具、室内履き、厚手の手袋。この三つが抜けていることが多いと思います。
四、季節が変わるときに入れ替えてください。夏物が入ったまま冬を迎えると、いざというときに困ります。年に二回、衣替えのついでに見直すのが現実的です。
この四つなら、今日から取りかかれます。14.7%という数字は、難しいから低いのではなく、思いつかないから低いのだと私は考えています。
濡れてしまったとき、どうするか
備えていても、濡れるときは濡れます。そのあとの手順を書きます。
順番を間違えないでください
一、濡れた服を脱ぐ。これが最優先です。着たまま乾かそうとしないでください。体温を奪われ続けます。
二、体を拭く。肌が濡れたまま新しい服を着ると、その服も濡れます。タオルがなければ、乾いた布や紙でも構いません。
三、乾いた服を着る。ここで、防水した袋に入れておいた一式が生きます。
四、風を避ける。着替えても、風に当たれば冷えます。風を防ぐ層を一枚羽織ってください。
替えがないときの応急
着替えがない場面も想定しておきます。
大きなビニール袋が一枚あると、風を止められます。頭と腕を通す穴を開けて、かぶるだけです。見た目は悪いのですが、雨と風を防ぐという一点では機能します。非常持ち出し袋に、大きめのごみ袋を数枚入れておいてください。雨具にも、荷物の防水にも、床に敷くのにも使えます。
新聞紙も役に立ちます。服の下に入れると、空気の層ができて保温になります。濡れた靴に詰めておけば、水分を吸ってくれます。
アルミの保温シートの使い方
防災袋に入っている方も多いと思いますが、使い方に要点があります。
濡れた体に直接巻いても効果は限られます。あれは体から出る熱を反射して戻すものなので、まず体を拭き、乾いた服を着てから、その上に巻いてください。
詳しくはエマージェンシーシートの使い方にまとめています。
洗えないことを、前提に考える
避難生活で多くの方がつまずくのが、ここです。
水は、洗濯には回りません
断水していれば、当然洗えません。給水が始まっても、限られた水は飲む・体を拭く・手を洗うに優先して使われます。洗濯に回せる水は、しばらく出てきません。
2026年8月の千葉県の豪雨でも、断水が続きました。給水所での受け取り方は給水車・給水所の使い方にまとめています。
だから、においへの対策が効きます
洗えない前提に立つと、選ぶ素材が変わります。
ウールは、においが出にくい素材です。化学繊維は速く乾く一方で、においがこもりやすい傾向があります。何日も洗えない状況では、この差が効いてきます。肌に触れる層の一枚をウールにしておくと、選択肢が増えます。
あわせて、体を拭くものを用意してください。ボディシートやウェットティッシュは、服の消耗を減らします。体が清潔なら、同じ服を着られる日数が延びます。
干す場所も、考えておく
手洗いができるようになっても、干す場所という次の問題が出ます。避難所では、屋外に干すと盗難や紛失の心配があり、屋内では場所がありません。
物干し用のロープと洗濯ばさみを数個。かさばらないわりに、生活の質を大きく変える道具です。
靴について、もう少し
服の話をするとき、いちばん軽視されるのが足元です。しかし避難できるかどうかは、足の無事にかかっています。
選ぶときの要点
底が厚く、硬いこと。ガラス片や釘を踏み抜かないためです。踏み抜き防止の板が入ったものもあります。
紐でしっかり締められること。サンダルやかかとのないものは、走れません。水に入れば脱げます。
履き慣れていること。新品をそのまま備えると、いざというときに靴ずれを起こします。一度は履いて、足に合わせておいてください。
長靴は、万能ではありません
水害では長靴を思い浮かべますが、注意が必要です。
水が入ると、重くて歩けなくなります。そして脱げやすい。膝より深い水の中では、長靴はかえって危険になります。
浸水した場所を移動するなら、紐で締められる運動靴のほうが安全です。長靴が生きるのは、水が引いたあとの片づけの場面です。
選び方は防災用折り畳みシューズの選び方にまとめました。
タグを見る習慣をつけてください
最後に、実務的な話をひとつ。
店頭で服を選ぶとき、素材の表示を見る習慣をつけると、備えの質が上がります。難しいことではありません。
| 表示 | どう読むか |
|---|---|
| ポリエステル100% | 速乾性が高い。肌に触れる層に向く |
| 綿100% | 濡れると乾かない。避難用の主力には向かない |
| 綿混(綿60%・ポリエステル40%など) | 綿の比率が高いほど乾きにくい。比率を見る |
| ウール、メリノウール | 濡れても保温性が残り、においが出にくい |
| ナイロン | 丈夫で軽い。風を防ぐ層に多い |
| ダウン(羽毛) | 軽く暖かいが、濡れに弱い |
普段着として買うものを、少し選び方を変えるだけで、そのまま備えになります。防災用に特別なものを買う必要はありません。
年に二回、入れ替えてください
服の備えには、ほかの備蓄品にない特徴があります。季節で中身が変わるということです。
水や食料は、季節を問いません。しかし服は、真夏の装備のまま冬を迎えると、まったく役に立ちません。逆もまた同じです。
入れ替えの目安
春(3月から4月)。冬物を抜き、薄手の羽織りものに替えます。ただし朝晩の冷えは残るので、防寒を完全には抜かないでください。
秋(9月から10月)。ここで冬に備えます。9月1日の防災の日と重なるので、点検日として使いやすい時期です。厚手の靴下、手袋、帽子を戻してください。
あわせて確認したいこと
入れ替えのときに、次の三つも見てください。
一、サイズが合っているか。とくにお子さんの分です。体型は大人でも変わります。
二、傷んでいないか。ゴムが伸びた下着、穴の空いた靴下。長く袋に入れたままだと劣化します。
三、袋から取り出せる場所にあるか。押し入れの奥にしまい込むと、夜中には出せません。
防災の日の点検については防災の日にやる防災グッズ点検にまとめました。食料の期限を見るついでに、服も見てください。
夜中に起きたら、何を着て逃げますか
ここまで、袋に何を入れるかを書いてきました。最後に、いちばん現実的な場面を考えます。
災害は、日中に起きるとはかぎりません。2026年8月の千葉県の豪雨で特別警報が出たのも、未明でした。避難の判断を迫られるのは、寝ているときであることが多いのです。
寝間着のまま、外に出ることになります
そのとき、着替える時間はありません。袋に完璧な一式が入っていても、それを着る余裕はないのです。
だから、考え方を分けてください。袋の中身は「避難したあとに着るもの」。いま身につけているものは「逃げるときに着ているもの」。この二つは、別の話です。
枕元に置くもの
逃げるときに使うものは、袋の中ではなく枕元にあるべきです。
一、底の厚い靴。これがいちばん大事です。停電した部屋には、割れたガラスが散っているかもしれません。足を切れば、避難そのものができなくなります。
二、ライト。停電していれば、何も見えません。靴を探すためにも要ります。
三、羽織るもの一枚。薄手の上着でかまいません。冬でなくても、夜の屋外は冷えます。雨なら、なおさらです。
四、眼鏡を使う方は、眼鏡。これを忘れると、以降の判断がすべて難しくなります。
この四つを、手を伸ばせば届く場所に置いてください。寝室のどこかではなく、枕元です。暗闇の中で探せる範囲に。
寝るときの服装も、備えのうちです
あまり語られませんが、これも考える価値があります。
そのまま外に出られる寝間着かどうか。ここを一度、確かめてみてください。薄すぎないか。動きにくくないか。人前に出ることに抵抗がないか。
とくに冬の停電では、寝ているあいだに室温が下がります。眠るときに一枚多く着ておくことは、そのまま避難の備えになります。
家族で、置き場所を共有してください
自分の枕元だけ整えても、家族が動けなければ避難は遅れます。
どこに何があるかを、全員が知っている状態にしてください。お子さんの枕元にも、履けるものを一足。高齢のご家族の枕元にも、同じように。
非常持ち出し袋そのものの置き場所も同じです。玄関に近く、暗くても取れる場所へ。詳しくは非常持ち出し袋の中身と置き場所にまとめました。
夜の避難がどれほど難しいかは、警戒レベルとは?1から5の意味と取るべき行動にも書いています。暗くなる前に動くという判断が、いちばんの備えです。
よくある質問
なぜ綿の服はいけないのですか
濡れると乾かないからです。濡れた布は気化熱で体温を奪い続けます。気温が10℃を上回っていても低体温症は起こります。とくに肌に触れる層には、化学繊維かウールを選んでください。
ジーンズは避けたほうがよいですか
避難時の主力としては向きません。綿でできており、濡れると重く、乾きにくく、動きにくくなります。持ち出す一本としては、乾きやすい素材のものを選んでください。
ダウンジャケットは備えとして有効ですか
有効です。軽くて暖かく、圧縮すれば小さくなります。ただし濡れると膨らみが潰れて保温力を失います。雨や雪が想定される場面では、上から風雨を防ぐ層を重ねてください。
何日分を用意すればよいですか
まず三日分を目安にしてください。支援物資や給水が届き始めるまでの期間として考えられています。とくに下着と靴下は三日分を確保してください。
避難所で服はもらえないのですか
期待しないでください。8割以上の市区町村が、避難時の衣類を備蓄できていません。食料や飲料水、感染症の対策用品が優先されるためです。支援物資として届くこともありますが、時間がかかり、サイズも選べません。
着替える場所がないと聞きました
実際に問題になっています。大きめのポンチョや、丈の長い羽織りものがあると、かぶったまま着替えられます。目隠しにも防寒にも使えるため、一枚入れておく価値があります。
夏でも長袖を入れるべきですか
入れてください。理由は三つあります。冷房や夜間の冷え、日射しから肌を守ること、そして片づけ作業で肌を出さないこと。薄手で速乾のものを選べば、かさばりません。
子どもの分はどう考えればよいですか
サイズが変わることを前提にしてください。年に一度は確認し、入れ替えてください。9月1日の防災の日を点検日にすると忘れにくくなります。
収納がかさばって困ります
圧縮袋を使ってください。衣類は容積を大きく減らせます。詳しくは防災リュックの着替えの記事にまとめました。
車に置いておくのはどうですか
有効ですが、注意があります。夏の車内は高温になり、素材によっては傷みます。また、車で避難できない災害もあります。家のリュックと車の両方に分けて置くのが安全です。
まとめ
要点を整理します。
備えている人は14.7%です。防災を意識している人は86.2%いるのに、服だけが抜け落ちています。そして自治体の8割以上も、衣類までは備蓄できていません。
綿を避けてください。濡れると乾かず、体温を奪い続けます。肌に触れる層には、化学繊維かウールを選んでください。
厚い一枚より、薄い三枚です。肌に触れる層、熱をためる層、風と雨を防ぐ層。分けておけば、脱ぎ着で調整できます。
最初に尽きるのは、下着と靴下です。三日分を確保してください。上着は同じものを着られますが、これらは替えが要ります。
足元を忘れないでください。底の厚い靴を枕元に。室内履きを一足。避難できるかどうかは、足の無事にかかっています。
そして、いちばんお伝えしたいことを最後に書きます。
今日、タンスから一式を取り出して袋に入れるだけで、あなたは14.7%の側に移れます。買い物に行く必要はありません。持っているものを、取り出しやすい場所へ移すだけです。
それだけのことが、寒い夜や、濡れた体を守ります。どうか、今日のうちに。


