【この記事の要約】
避難所での盗難対策は、貴重品を体から離さないことに尽きます。財布・スマートフォン・現金・通帳・印鑑・薬は、小さめのポーチにまとめて肩から斜めがけにし、寝るときも身につけたままにしてください。これが最も確実で、いちばん費用がかからない方法です。内閣府の避難所運営ガイドラインは、防犯対策の項目で「被災地外から窃盗団が入り込むことも珍しくない」と明記しています。数字にも表れています。石川県警のまとめでは、能登半島地震の被災地である奥能登4市町の窃盗犯認知件数は、2025年に242件で、地震前年である2023年の84件の2.9倍になりました。刑法犯全体では315件で2.4倍です。ただし、避難所で起きるトラブルの多くは盗難ではなく「取り違え」です。同じ支援物資が配られるため、同じ毛布・同じ水・同じ靴が並びます。名前を書くだけで防げるものと、名前では防げないものを分けて考えてください。偽ボランティアへの対策は、受付を通したかどうかで判断できます。災害ボランティアは社会福祉協議会の災害ボランティアセンターを経由するのが原則で、個人が突然訪ねてきて作業を申し出ることはありません。この記事では、実際に何が起きているのか、貴重品をどう持つか、誰にどう相談するかを、公的な資料をもとに整理します。
避難所に行くことになったとき、多くの人が心配するのは食べ物と寝る場所です。
ところが実際に避難所に入った人から聞く話で、意外に多いのが別の悩みです。
「持ち物を置いて、その場を離れられない」
トイレに行きたい。物資を取りに行きたい。でも荷物をどうするか。誰も見ていないところに置いていいものか。
この不安は、大げさなものではありません。
私は防災士として札幌で活動していて、知人から相談を受けることがあります。そのなかで「避難所の防犯って、どこにも書いていない」という声を何度か聞きました。
調べてみると、確かにそうでした。備蓄の話、避難のタイミングの話は山ほどあります。しかし避難所という空間の中で、自分の持ち物と身をどう守るかという話は、驚くほど少ないのです。
ですから、この記事を書きます。
先に断っておきます。私は避難所で盗難の被害に遭ったことはありませんし、避難所運営の研究をしているわけでもありません。ここに書くのは、公的機関が公表している資料と統計から確認できることです。
結論|貴重品は体から離さない。これが答えです
先に結論を書きます。
避難所での盗難対策で、いちばん効果があって、いちばん費用がかからない方法は「貴重品を体から離さないこと」です。
鍵付きのロッカーが避難所にあるとは限りません。むしろ、ないほうが普通です。
間仕切りも、初期の段階では設置されていないことが多いです。出入りも自由です。つまり避難所は、構造として物を守りにくい空間です。
その前提に立つと、対策はひとつに絞られます。
| やること | 具体的に |
|---|---|
| 貴重品を1か所にまとめる | 財布・現金・スマートフォン・通帳・印鑑・健康保険証・常用薬・車の鍵 |
| 小さめのポーチに入れる | 体の前に回せる大きさ。大きいと身につけていられません |
| 肩から斜めがけにする | 置き忘れが起きません。立ち上がれば必ず一緒に動きます |
| 寝るときも外さない | 就寝中がいちばん無防備な時間です |
| トイレにも持って入る | 「少しだけ」の置きっぱなしが、いちばん危ない |
これだけです。特別な道具は要りません。
そして、これを避難所に着いてから考えるのでは遅いのです。
非常持ち出し袋のなかに、貴重品用の小さなポーチをひとつ入れておいてください。今日できます。
避難所は、なぜ物を守りにくいのか
盗む人が悪い。それは間違いありません。
ただ、そこで止めてしまうと対策になりません。なぜ避難所という場所で被害が起きやすいのか、構造として理解しておくほうが役に立ちます。
理由①:出入りが自由で、誰が誰だか分からない
避難所は、原則として拒みません。
指定避難所は住民登録の有無で入場を制限する場所ではありませんし、災害時に身分を確認して入れるかどうかを判断するような運用はしません。助けを求めてきた人を入れる。それが避難所の役割です。
これは正しい設計です。しかし同時に、「そこにいる人が誰なのか、互いに分からない」という状態を生みます。
近所づきあいのある地域でも、災害の規模が大きければ他地区からの避難者が入ります。支援者・行政職員・報道関係者・ボランティアも出入りします。
理由②:仕切りがなく、持ち物が見える
初期の避難所には、間仕切りがありません。
体育館の床に毛布を敷いて並ぶ形が基本です。つまり、誰が何を持っているかが見えます。
間仕切りは支援が入ってから設置されます。設置されても、上部が開いた簡易的なものが多く、施錠はできません。
理由③:全員が疲れていて、注意が続かない
これが見落とされがちな点です。
被災した直後は、眠れていません。情報も足りません。家族の安否や家の状態が気になって、注意力が持ちません。
普段なら絶対に置き忘れないものを、置き忘れます。被害の一部は、この状態のときに起きています。
理由④:物資が配られるため、同じ物が並ぶ
そして、これが取り違えの温床になります。詳しくは後の章で書きます。
数字で見る|被災地では、窃盗が実際に増えます
感覚の話ではありません。統計に出ています。
石川県警のまとめによると、能登半島地震の被災地である奥能登4市町(輪島市・珠洲市・能登町・穴水町)の窃盗犯認知件数は、次のように推移しました。
| 年 | 窃盗犯の認知件数 | 地震前との比較 |
|---|---|---|
| 2023年(地震の前年) | 84件 | ― |
| 2024年(地震の年) | 178件 | 前年比 2.1倍 |
| 2025年 | 242件 | 2023年比 2.9倍 |
注目すべきは、2年目のほうが多いことです。
地震の年より、その翌年のほうが増えています。「揺れが収まれば終わり」ではないということです。
2025年の内訳も公表されています。
| 種類 | 件数 |
|---|---|
| 侵入窃盗(住宅などへの侵入) | 110件 |
| 非侵入窃盗(万引きなど) | 121件 |
| 乗り物盗 | 11件 |
| 市町 | 件数 |
|---|---|
| 輪島市 | 130件 |
| 珠洲市 | 51件 |
| 能登町 | 42件 |
| 穴水町 | 19件 |
刑法犯全体では、4市町で315件。2023年の131件の2.4倍でした。このうち検挙は162件です。
この数字は、2026年2月10日に公表されたものです。
ここで正確に言っておきます。この統計は市町全体の数字であり、避難所の中で起きた件数ではありません。避難所内の被害だけを取り出した公式統計は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。
ですから「避難所で何件起きた」とは書けません。
言えるのは、被災地全体として窃盗が明確に増えるという事実です。そして避難所は、その被災地の中にあります。
国のガイドラインは、何と書いているか
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分かもしれません。
内閣府の「避難所運営ガイドライン」には、防犯対策の項目があります。
17.防犯対策
ポイント:災害後の治安悪化の傾向の把握に努める
解説:被災地外から窃盗団が入り込むことも珍しくない
「窃盗団が入り込むことも珍しくない」と、国のガイドラインが書いているのです。
これは私の推測でも、誰かの体験談でもありません。避難所を運営する自治体に向けて、国が示している認識です。
同じガイドラインは、対策として次のような項目を挙げています。
| ガイドラインが挙げる対策 | 誰がやることか |
|---|---|
| 避難者同士の見守り体制を確保する | 避難者と運営者 |
| 警察の巡回・派遣体制を確保する | 運営者・行政 |
| 自警団等の結成を実施する | 運営者・地域 |
| 仮設トイレ・マンホールトイレの防犯対策(施錠、防犯ブザー等) | 運営者 |
| トイレの中と外に照明を確保する | 運営者 |
| トイレ・入浴施設付近での性犯罪発生の防止 | 運営者・行政 |
見ていただきたいのは、これらのほとんどが「運営する側」のやることだという点です。
避難する側が個人でできることは、ここにはあまり書かれていません。
だからこそ、個人でできることは「貴重品を体から離さない」に集約されるのです。それ以外は、運営側に働きかけるか、みんなで取り組むしかありません。
盗難と「取り違え」は、まったく別の問題です
ここを混同すると、対策を間違えます。
避難所で「なくなった」と言われるものの多くは、盗まれたのではなく取り違えられています。
なぜ取り違えが起きるのか
支援物資は、全員に同じものが配られます。
同じ毛布。同じ水のペットボトル。同じタオル。同じ紙皿。同じ歯ブラシ。
そして避難所では、みんな靴を脱ぎます。
体育館の入口に、同じような靴が並びます。似た色の、似た形の靴です。暗がりで、疲れた状態で、自分の靴を正しく選べるでしょうか。
雨具、傘、スリッパ、タオル、水筒、充電ケーブル。これらは全部、取り違えの起きる物です。
名前で防げるもの、防げないもの
| 種類 | 名前を書けば | 対策 |
|---|---|---|
| 毛布・タオル・水筒・靴・傘・充電器 | ほぼ防げる | 油性ペンで名字を大きく書く |
| 現金・スマートフォン・通帳・印鑑 | 防げない | 体から離さない |
この線引きが重要です。
名前を書けば戻ってくる物と、名前を書いても戻らない物があります。
現金に名前は書けません。スマートフォンに名前を書いても、盗む人には関係ありません。
だから「名前を書く」と「体から離さない」は、両方やる必要があります。どちらか一方では足りません。
油性ペンは、防災グッズです
意外に思われるかもしれませんが、避難所で最も役に立つ道具のひとつが油性ペンです。
持ち物への記名だけではありません。伝言を書く。物資に日付を書く。子どもの服に名前と連絡先を書く。掲示物を作る。
非常持ち出し袋に、太字の油性ペンを1本入れておいてください。数百円で、多くのトラブルが減ります。
スマートフォンを、どう守るか
いまの避難生活で、スマートフォンは最重要の持ち物です。
安否確認、情報収集、支援の申請、家族との連絡。これを失うと、生活の再建そのものが止まります。
物理的に守る
| 対策 | 理由 |
|---|---|
| ストラップやネックホルダーをつける | 置き忘れが激減します。落としても体につながっています |
| 充電中も目の届く場所で | 共用の充電スペースは、置きっぱなしになりやすい場所です |
| モバイルバッテリーを持つ | 自分で充電できれば、共用スペースに置く時間が減ります |
| ケースの色を目立たせる | 同じ機種が並んだときの取り違えを防げます |
共用の充電スペースは、避難所で物が動きやすい場所のひとつです。
コンセントは限られていますから、順番待ちで置きっぱなしにする状況が生まれます。ここは意識してください。
中身を守る
端末を取られた場合に備える設定は、災害が起きる前にしかできません。
| いまやっておく設定 | 効果 |
|---|---|
| 画面ロックをかける | これが基本です。かけていない人が、いまでもいます |
| 端末を探す機能を有効にする | 位置の確認と、遠隔でのロック・消去ができます |
| 連絡先や写真をバックアップする | 端末を失っても、データは残ります |
| 決済アプリにもロックをかける | 端末のロックだけでは足りません |
特に「端末を探す」機能は、いま確認してください。被災してからでは設定できません。
女性・子ども・高齢者の安全について
ここは、慎重に書きます。
内閣府のガイドラインは、トイレ・入浴施設付近での性犯罪の防止を明記しています。国が、避難所でそのリスクを想定しているということです。
内閣府男女共同参画局も、防災・復興のガイドラインのなかで、女性や子どもへの暴力の防止と安全確保を項目として立てています。
ただし、私はここで「こうすれば防げる」という書き方をしません。
理由があります。被害者側の心がけだけを並べると、被害に遭った人に落ち度があったかのように読めてしまうからです。そうではありません。
その上で、公的なガイドラインが挙げている環境面の対策を書きます。これは運営側に求めてよいことです。
| ガイドラインが挙げる環境の整備 |
|---|
| トイレの中と外に照明を確保する |
| 仮設トイレに施錠と防犯ブザーを備える |
| 女性用トイレを男性用より多く確保する |
| 更衣室・授乳スペースを別に設ける |
| 警察の巡回体制を確保する |
| 避難者同士の見守り体制をつくる |
これらが整っていない避難所なら、運営者に言ってよいのです。わがままではありません。国がガイドラインで示している水準です。
そして個人としては、次の点を頭に置いてください。
夜間にトイレへ行くときは、できるだけ一人で行かない。家族や知人と一緒に行く。それが難しければ、運営スタッフに一声かける。
子どもを一人でトイレに行かせない。これは平時の防犯と同じ考え方です。
そして何かあったら、迷わず声を上げてください。我慢する理由はひとつもありません。
偽ボランティア・偽業者を、どう見分けるか
ここは仕組みを知っていれば、かなり防げます。
本物のボランティアは、どう来るか
災害ボランティアは、社会福祉協議会が設置する「災害ボランティアセンター」を経由するのが原則です。
流れはこうです。
| 順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 被災した人が、災害ボランティアセンターに支援を依頼する |
| 2 | センターが内容を聞き取り、必要な人数と作業を決める |
| 3 | センターがボランティアを募集し、受付・登録する |
| 4 | センターがボランティアを現場に割り当てる |
| 5 | ボランティアが現場へ向かう |
つまり、依頼していないのにボランティアが訪ねてくることは、基本的にありません。
ここが最大の見分け方です。
頼んでいないのに来た人は、まず疑ってよい。
実際に起きたこと
能登半島地震のあと、富山県高岡市で、国から依頼されて家屋の損壊状況を調査していると名乗った人物が、ブルーシートを高額で売りつけようとした事案が報告されています。
羽咋市は公式サイトで、県外ナンバーの車で来た人物が「ボランティアで不用品を整理する」と申し出て、あとから有料だと言い出したという不審な事案を注意喚起しています。
東日本大震災でも、ボランティアを装った窃盗が問題になりました。
確認すべきこと
| 確認する項目 | 本物なら |
|---|---|
| どこから来たか | 災害ボランティアセンターの名前を答えられる |
| 誰の依頼か | 依頼者(あなた自身か、自治体)の名前が出てくる |
| 身分を示すもの | センターが発行するビブスや名札・受付票がある |
| 費用はかかるか | ボランティアは無償です。お金を求められたら違います |
お金の話が出た時点で、それはボランティアではありません。
ここは単純です。迷う必要がありません。
その場で決めない
訪問してきた相手に、その場で答える必要はありません。
「社会福祉協議会に確認します」と言ってください。本物なら、確認されて困ることは何もありません。嫌がるなら、それが答えです。
公費解体、罹災証明、屋根の応急処置。これらはすべて自治体の窓口を通す手続きです。業者が個別に訪ねてきて即決を求めることはありません。
ボランティアの仕組みそのものは災害ボランティアの始め方に、被災後の詐欺の手口は震災詐欺の手口と対策に整理しています。
自宅も、同時に狙われています
避難所にいるということは、自宅が留守だということです。
先ほどの奥能登の統計を思い出してください。2025年の窃盗犯242件のうち、110件が侵入窃盗でした。4割以上が、建物への侵入です。
避難するときは慌てています。鍵をかけ忘れることがあります。しかし、かけてください。
災害で壊れた家であっても同じです。壊れているから盗まれないということはありません。むしろ入りやすくなっています。
自宅を空けるときの対策は洪水時に強盗・空き巣が急増する理由と今すぐできる防犯対策に詳しく書きました。洪水を例にしていますが、考え方はどの災害でも同じです。
何かあったら、誰に言うか
被害に気づいたとき、順番があります。
| 順番 | 相手 | 言うこと |
|---|---|---|
| 1 | 避難所の運営スタッフ | 何がいつ頃なくなったか。まず取り違えを疑って探してもらう |
| 2 | 警察 | 取り違えではないと判断できるとき。特に現金・スマートフォン |
| 3 | カード会社・携帯会社・銀行 | カードやスマートフォンなら、利用停止をすぐに |
①を飛ばさないでください。多くの場合、取り違えです。
そして②をためらわないでください。「こんなときに警察を呼ぶのは悪い」と考える人がいます。そんなことはありません。
ガイドラインは、避難所に対して警察の巡回体制の確保を求めています。警察は、被災地に来ることを想定している立場です。
被害を届けないと、統計にも残りません。統計に残らなければ、次の災害への備えも進みません。
準備しておくもの一覧
この記事に出てきた物を、まとめます。全部合わせても、数千円です。
| 物 | 用途 | 優先度 |
|---|---|---|
| 小さめの斜めがけポーチ | 貴重品をまとめて身につける | 最優先 |
| 太字の油性ペン | 持ち物への記名・伝言・掲示 | 最優先 |
| スマートフォンのストラップ | 置き忘れと落下の防止 | 高 |
| モバイルバッテリー | 共用スペースに置く時間を減らす | 高 |
| 南京錠 | リュックのファスナーを留める | 中 |
| 防犯ブザー | 夜間の移動時。子どもにも | 中 |
| 養生テープ | 記名の下地。壁への掲示にも | 中 |
| 小型のライト | 夜間のトイレ移動 | 中 |
南京錠について、ひとつ補足します。
リュックのファスナーに小さな南京錠をかけると、「開けるのに手間がかかる」状態を作れます。本気の窃盗を防ぐ強度はありません。しかし、その場の出来心を思いとどまらせる効果はあります。
あくまで補助です。貴重品を体から離さないことの代わりにはなりません。
在宅避難という選択肢もあります
ここまで避難所の話を書いてきましたが、避難所に行くことだけが避難ではありません。
家が無事で、周辺の危険がないのなら、自宅にとどまる在宅避難という選択があります。
在宅避難なら、盗難のリスクは大きく下がります。留守にしないからです。プライバシーもあります。
ただし、条件があります。家が構造的に無事であること。土砂災害や浸水の危険がないこと。そして水と食料の備蓄があることです。
この判断については避難所へ行くべきか自宅に残るべきかに基準を整理しました。
備蓄があるかどうかで、選べる選択肢の数が変わります。防犯という観点からも、備蓄には意味があるということです。
疑うことと、支え合うことは矛盾しません
ここまで読んで、気が重くなった方がいるかもしれません。
避難所で、まわりの人を疑わなければならないのか。
そうではありません。私が書きたいのは逆のことです。
避難所で助け合いが生まれるのは、本当のことです。物を分け合い、子どもを見て、高齢の方に声をかける。そういう光景は、どの災害でも報告されています。
そして、被災地外から窃盗団が入り込むことも、同時に事実なのです。
この2つは、両立します。
大事なのは、疑う相手を間違えないことです。
隣で寝ている避難者を疑う必要はありません。疑うべきなのは、頼んでいないのに来た人であり、お金の話をする人であり、その場で決めろと迫る人です。
そして貴重品を身につけておくことは、誰かを疑う行為ではありません。自分で自分の面倒を見る、という当たり前のことです。
むしろ、自分の持ち物を心配せずに済む状態のほうが、周りを助ける余裕が生まれます。
北海道から見ていて、思うこと
私は札幌にいます。
北海道の避難所には、他の地域にはない事情があります。冬の避難所は、屋内から出られません。
外は氷点下で、雪です。日照時間も短く、夕方には暗くなります。つまり、避難所という閉じた空間で過ごす時間が、他の季節・他の地域より長くなります。
その分、持ち物の管理も、人との距離の問題も、長く続きます。
2018年の北海道胆振東部地震は9月でした。あれが1月だったら、まったく違う話になっていたはずです。
冬の避難所については冬の避難所は床が最優先に書きました。寒さと感染症が最優先である点は変わりません。その上に、この記事の防犯を重ねてください。
高齢の家族がいる場合に、気をつけること
ここは、見落とされやすい点です。
高齢の方は、貴重品を身につけ続けることが難しい場合があります。
斜めがけのポーチは、肩や首に負担がかかります。長時間つけていると痛みが出ます。認知症のある方なら、外したことを忘れてしまうこともあります。
ですから、高齢の家族がいる場合は、家族の誰かがまとめて管理するほうが現実的です。
| やること | 理由 |
|---|---|
| 現金や通帳は、動ける家族がまとめて持つ | 本人に持たせ続けるのは負担が大きい |
| 常用薬は本人と家族の両方が把握する | 薬は代えがきかず、失うと健康に直結します |
| お薬手帳の写真をスマートフォンに残す | 薬をなくしても、内容を医師や薬剤師に伝えられます |
| 杖・補聴器・眼鏡に名前を書く | 取り違えると生活が止まります。高価でもあります |
杖・補聴器・眼鏡・入れ歯。これらは代わりがききません。
避難所で見失うと、その方の生活が一気に不自由になります。油性ペンで名前を書き、置き場所を決めておいてください。
なお、薬の内容や服用については、必ず医師や薬剤師に相談してください。手持ちが足りなくなりそうなときも同じです。避難所には保健師や医療チームが入ることがあります。遠慮せず声をかけてください。
避難生活が長引いたときのこと
先ほどの奥能登の統計で、地震の翌年のほうが窃盗が多かったことを書きました。
これは、避難生活が長期化する局面でこそ注意が要る、ということを示しています。
時間がたつと、緊張がゆるみます。顔なじみが増え、安心感も出てきます。その一方で、出入りする人の数は増えていきます。支援者、業者、報道、視察。
「もう大丈夫だろう」と思ったころが、いちばん隙が生まれます。
避難所から仮設住宅へ移る時期も注意が必要です。荷物をまとめて運ぶ場面が増え、物の所在があいまいになります。
そして、この時期は公費解体・修繕・保険金の話が動き出すころでもあります。業者を名乗る訪問が増えるのは、まさにこのタイミングです。
よくある質問
Q. 避難所に貴重品を預かってくれる仕組みはありますか?
原則として、ありません。
運営スタッフも被災者であり、行政職員も手が足りていません。貴重品を預かる責任を負える体制は、通常ありません。
鍵付きのロッカーがある施設もありますが、あることを前提にしないでください。自分で持つのが基本です。
Q. 現金はいくら持っていくべきですか?
停電すると、カードも電子決済も使えなくなります。現金は必要です。
金額については、私は具体的な数字を書きません。家族構成や状況で必要額が変わりますし、多く持てば盗難時の損失も大きくなるからです。
言えるのは「小銭と千円札を混ぜておく」ということです。停電時は釣り銭が出せない店があります。公衆電話にも小銭が要ります。
Q. 荷物を置いて場所取りをしてもいいですか?
運営のルールに従ってください。
ただし場所取りに使う荷物と、貴重品は分けてください。毛布やタオルなど、なくなっても困らない物で場所を示し、貴重品は身につける。この使い分けです。
Q. 疑われるのが嫌で、なくなったと言い出せません
言ってください。
多くの場合は取り違えです。運営スタッフに伝えれば、掲示や呼びかけで見つかることがあります。黙っていると、取り違えた相手も気づけません。
言い出しにくいなら、「取り違えかもしれないのですが」という切り出し方があります。誰も責めない形で伝えられます。
Q. 車中泊のほうが安全ですか?
防犯の面だけを見れば、施錠できる分の利点はあります。
ただし車中泊にはエコノミークラス症候群のリスクがあります。長時間同じ姿勢でいることで血栓ができ、命に関わることがあります。
実際、過去の災害では車中泊による死亡例が報告されています。防犯を理由に車中泊を選ぶのは、勧められません。
車中泊をする場合は、こまめに体を動かし、水分を取ってください。体調に異変を感じたら、我慢せず医師に相談してください。
Q. 盗難に遭った場合、補償はありますか?
これは個別性が高く、契約内容によります。
火災保険や家財保険に盗難の補償が含まれている場合がありますが、避難所での被害が対象になるかは契約次第です。加入している保険会社に直接確認してください。
いずれにしても、警察への被害届が必要になるのが一般的です。まず届け出てください。
まとめ|今日できることは、2つです
長く書きましたので、整理します。
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| いちばんの対策 | 貴重品を斜めがけポーチに入れ、寝るときも外さない |
| 統計の事実 | 奥能登4市町の窃盗犯は2025年に242件。2023年の84件の2.9倍 |
| 国の認識 | 内閣府ガイドラインは「被災地外から窃盗団が入り込むことも珍しくない」と明記 |
| 多くは取り違え | 油性ペンで名前を書けば防げる物と、書いても防げない物を分ける |
| 偽ボランティア | 頼んでいないのに来た人・お金を求める人は違う |
| 自宅も狙われる | 2025年の窃盗242件のうち110件が侵入窃盗 |
| 被害に遭ったら | 運営スタッフ → 警察 → カード会社の順に |
そして、今日できることは2つだけです。
ひとつ目。非常持ち出し袋に、小さめの斜めがけポーチと太字の油性ペンを入れる。これで数百円です。
ふたつ目。スマートフォンの「端末を探す」機能が有効になっているか、いま確認する。これは無料で、1分で終わります。
災害が起きてからでは、どちらもできません。
避難所は、助けを求めて行く場所です。そこで持ち物の心配に気を取られるのは、あまりにもったいない。
だからこそ、いま準備しておいてください。準備した人だけが、避難所で人を助ける側に回れます。
【この記事の出典】
内閣府(防災担当)「避難所運営ガイドライン」17.防犯対策/内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」/石川県警のまとめによる奥能登4市町の刑法犯認知件数(2026年2月10日公表)/全国社会福祉協議会「災害ボランティアをお考えの方へ」/羽咋市「地震に便乗した詐欺的トラブルに注意」/国民生活センター「災害に便乗した悪質商法」。統計は公表時点のものです。制度や運用は変わることがありますので、最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。


