【この記事の要約】
地すべりは、斜面の土の塊がまとまって、ゆっくりと下方向へ移動する現象です。一日に数ミリという、見ていてもわからない速さで動くことがあります。土石流やがけ崩れが一瞬で襲ってくるのに対し、地すべりには気づくための時間があります。だからこそ、前ぶれを知っておく価値が最も高い土砂災害だといえます。この記事では、地すべりの仕組み、土石流やがけ崩れとの違い、起きやすい地域と季節、家の中で気づけるサイン、地すべり防止区域の調べ方、そして気づいたときの連絡先までをまとめました。雨が降っていないのに起きた事例も取り上げます。
結論からお伝えします。地すべりは、三つの土砂災害のなかで唯一、事前に気づける可能性が高い災害です。そして気づくきっかけの多くは、山の中ではなく、日常生活のなかにあります。
ドアが閉まりにくくなった。庭のブロック塀に、去年はなかった細いひびが入っている。井戸の水が急に濁った。こうした変化が、地すべりの入口であることがあります。
私は防災士として、知人から土砂災害の相談を受けることがあります。土石流やがけ崩れの相談は「うちは危険な場所か」という問いが中心ですが、地すべりの場合は少し違います。「家の様子がおかしいのだが、これは何だろう」という形で持ち込まれることがあるのです。
それが地すべりという災害の性格をよく表しています。土石流は音とともに突然来ますが、地すべりは、静かに、生活の側から近づいてきます。
地すべりとは何か
地すべりとは、斜面を構成する土や岩の塊が、ある面を境にして、まとまったまま下方向へ移動する現象です。
ここで大事なのが、「まとまったまま」という部分です。土がばらばらに崩れ落ちるのではありません。地面の塊が、その形を保ったまま、そっくり動きます。だから、その上に建っていた家や、通っていた道路、植えられていた木も、いっしょに移動します。
家が壊れずに、位置だけがずれている。道路が原形をとどめたまま、数メートル下がっている。地すべりの現場では、こうした独特の光景が見られます。
すべり面と地下水
地すべりが起きるには、地中に「すべりやすい面」が必要です。これをすべり面と呼びます。
典型的なのは、粘土のような、水を通しにくくて滑りやすい層です。この層の上に、水を通しやすい土や岩が乗っている。そういう構造の斜面が、地すべりの素地になります。
そこへ雨が降ると、水は上の層にしみ込んでいきます。しかし粘土の層でせき止められ、その上にたまります。地下水位が上がるわけです。
すると、二つのことが起きます。ひとつは、土が水を含んで重くなること。もうひとつは、水の圧力によって、上の塊が下の面から浮き上がるような力が働くこと。重くなった塊が、滑りやすくなった面の上に乗っている状態です。こうなると、斜面がゆるやかでも動き出します。
地すべりが、傾斜五度から二十度程度のなだらかな斜面でも起きるのは、このためです。がけ崩れのように急な斜面である必要はありません。「ここは坂がゆるいから安全だろう」という直感が、地すべりに関しては通用しないのです。
土石流・がけ崩れとの違い
土砂災害という言葉は、土石流、がけ崩れ、地すべりの三つをまとめた総称です。地すべりの位置づけを、比較で確認します。
| 地すべり | 土石流 | がけ崩れ | |
|---|---|---|---|
| 斜面の傾き | ゆるやか(5度から20度程度) | 渓流の勾配15度以上 | 急傾斜(30度以上) |
| 動く速さ | 1日に数ミリから数メートル | 時速20から40キロ | 一瞬で崩落 |
| 動くもの | 地面の塊がまとまって | 土砂と水と岩の混合物 | 斜面の表層の土 |
| 規模 | 幅数十から数百メートル | 渓流沿いに数キロ流下 | がけの高さの2倍程度 |
| 前ぶれ | 数日から数年前から出ることも | 直前に出ることがある | ほとんど出ないことが多い |
| 主なきっかけ | 長雨・融雪・地下水位の上昇 | 集中豪雨・融雪 | 豪雨・地震 |
| 主な被害 | 家屋や道路の変形・田畑の損壊 | 家屋の流失・人的被害 | 家屋の倒壊・人的被害 |
三つのなかで、地すべりは「遅くて、大きい」災害です。動きは遅いので、人が逃げる時間はあります。その代わり、動く土の量が桁違いに多く、幅が数百メートルに及ぶこともあります。
そして、いったん動き出した地すべりを止めるのは、非常に難しい。井戸を掘って地下水を抜く、杭を打って押さえるといった対策工事が行われますが、時間も費用もかかります。動きが何年も続くこともあります。
人的被害という点では、土石流やがけ崩れの方が危険です。しかし、生活や財産への影響という点では、地すべりが最も長く尾を引きます。命の危険は小さくても、住み続けられなくなるのが地すべりです。
土石流については土石流とは?前ぶれ・逃げる方向・危険な場所の調べ方で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。
雨がやんでから動き出す理由
地すべりには、覚えておきたい厄介な性質があります。雨のピークと、動きのピークがずれるということです。
土石流やがけ崩れは、激しい雨が降っている最中に起きます。ところが地すべりは、雨がやんでから、あるいは数日たってから動き出すことがあります。
理由は、地下水にあります。地表に降った雨が地中を移動し、すべり面のあたりまで届いて地下水位を押し上げるには、時間がかかるからです。地質や深さによっては、その時間差が数日に及ぶこともあります。
これは、避難の判断に直結します。土砂災害警戒情報は、雨の量から土石流とがけ崩れの危険を判断する仕組みで、地すべりは対象に含まれていません。地すべりの発生と雨量の対応関係が、土石流やがけ崩れとは異なるからです。土砂災害警戒情報の仕組みは土砂災害警戒情報とは?大雨警報との違いと避難の判断にまとめました。
つまり、地すべりについては「情報が出たら逃げる」という枠組みが使えません。だからこそ、自分で兆候に気づく力が必要になります。
融雪期は要注意
もうひとつ、季節の話をさせてください。地すべりは、春先の融雪期に多く発生します。
雪解け水は、豪雨と違って一気に流れ去りません。じわじわと、長い時間をかけて地中にしみ込んでいきます。これが、地下水位を押し上げるにはむしろ効率的なのです。
豪雨の場合、多くの水は地表を流れて川に出ていきます。ところが融雪水は、少しずつ確実に地中へ入っていく。だから、雪の多い地域では、雨のない春に地すべりが動き出します。
北海道や東北、北陸にお住まいの方は、この点を意識していただきたいと思います。土砂災害は夏の災害だ、という思い込みは、地すべりには当てはまりません。三月から五月にかけて、斜面の様子を見ておく習慣があると安心です。
地すべりが起きやすい場所
地すべりには、はっきりとした地域的な偏りがあります。地質の条件に左右されるためです。
とくに多いのが、日本海側です。新潟県や長野県、富山県、秋田県、山形県といった地域には、地すべりの危険箇所が多く分布しています。第三紀層と呼ばれる、比較的新しくて軟らかい地層が広がっていること、そして雪が多いことが重なっています。
四国や九州にも、破砕帯と呼ばれる、断層の周辺で岩が細かく砕けた地帯に沿って地すべり地形が分布しています。
また、温泉地の周辺も注意が必要な場所です。熱水の作用で岩石が変質し、粘土質になっている場所があるためです。粘土は、すべり面になります。景色がよく、地形が独特な温泉地は、その独特さ自体が地すべりの跡である場合があります。
地形から読み取る
地すべりが起きた場所には、特徴的な地形が残ります。慣れると、地図や航空写真から読み取れます。
斜面の途中に、馬のひづめのような弧を描いた急な斜面がある。その下に、周囲より平らな土地が広がっている。ゆるやかな斜面の中に、不自然に湿った場所や池がある。斜面なのに、田んぼが作れるほど平坦な段がある。
こうした地形は、過去に地すべりが動いた跡である可能性があります。そして地すべりは、同じ場所で繰り返すという性質があります。地質の条件が変わらないからです。昔動いた場所は、また動きます。
皮肉なことに、地すべりでできた平坦地は、山間部では貴重な平地でもあります。集落や棚田が、地すべり地形の上に築かれている例は少なくありません。人はそこに住みやすいから住み、その土地はもともと動いた土地だった、という関係です。
地すべりのどこが、どう危ないのか
地すべりは、斜面全体が同じように動くわけではありません。場所によって、現れる変化が違います。ここを知っておくと、目の前の異変が何を意味するのかが読めるようになります。
動いている土の塊を、上から下へ三つに分けて考えます。
いちばん上の部分では、塊が下へ引っ張られるため、地面が引き裂かれます。ここに現れるのが、弧を描いたひび割れと段差です。地すべりの上端は、こうして崖のような形になります。塀が割れる、道路に亀裂が走るといった変化は、この部分で目立ちます。
真ん中の部分は、塊がまとまったまま移動します。地面そのものは大きく壊れないので、建物が形を保ったままずれていきます。この場所では、家の傾きや建具の不具合といった、ゆがみとして変化が出ます。
いちばん下の部分では、上から押されてきた土が行き場を失い、盛り上がります。地面が隆起する、水路が押しつぶされる、樹木が谷側へ倒れ込むといった変化が出ます。ここは、土が押し出される側なので、斜面の下にいる人ほど、直接の被害を受けやすい場所になります。
つまり、地すべりの被害は、動いている土地の上だけではありません。その下流にも及びます。自分の家が斜面の上にあるのか、下にあるのかで、意味が変わってくるということです。
斜面で見かける構造物の意味
山間部を歩いていると、斜面に設置されたさまざまな構造物を見かけます。あれが何のためのものかを知っておくと、その土地の履歴が読めます。
地すべりの対策工事は、大きく二つの考え方に分かれます。
ひとつは、動く原因を減らすという方針です。地すべりの主犯は地下水ですから、水を抜けば力が弱まります。
斜面に埋め込まれた大きな円筒形のコンクリート構造物を見たことがあるでしょうか。井戸のような形をしたあれは、集水井と呼ばれるものです。地中に井戸を掘り、そこへ地下水を集めて外へ排出します。斜面から突き出た管から水が流れ続けている場所もあります。地中へ横向きに穴を開け、水を抜くためのものです。
地表の水を素早く流すための水路も、同じ目的です。雨水を地面にしみ込ませず、まとめて外へ出してしまう。地味ですが、効果の高い方法です。
もうひとつは、動きを物理的に押さえるという方針です。すべり面を貫くように太い杭を打ち込む、あるいは地中深くまでケーブルを通して斜面を締めつける。斜面に規則正しく並んだコンクリートの頭のようなものが見えたら、それがこの工法によるものです。
ここでお伝えしたいのは、工法の名前ではありません。こうした構造物がある場所は、過去に地すべりが確認された場所だということです。対策が施されているのは安心材料ですが、同時に、そこが地すべり地であることの証拠でもあります。引っ越し先の下見で見かけたら、その土地の履歴を調べるきっかけにしてください。
前ぶれとして現れる現象
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。地すべりの前ぶれは、数日前どころか、数か月から数年前から現れることがあります。
地面に現れるサイン
地面のひび割れ。斜面や庭に、線状の割れ目ができます。とくに、斜面の上部を横切るように弧を描いたひび割れは、地すべりの頭部で起きる典型的な変化です。
地面の段差や陥没。ひび割れが進むと、片側が沈み込んで段差になります。逆に、斜面の下の方では土が押されて盛り上がることがあります。
斜面から水が噴き出す。これまで水気のなかった場所から湧き水が出はじめたら、地下水位が上がっている証拠です。
沢や井戸の水が濁る。地中で土が動き、水に混ざっています。
井戸の水位が急に変わる。上がるのも下がるのも、どちらも地下水の流れが変化したサインです。
構造物に現れるサイン
擁壁やブロック塀のひび割れ。とくに、これまでなかったひびが入り、少しずつ広がっている場合は注意が必要です。
電柱や樹木、墓石が傾く。複数のものが同じ方向へ傾いていたら、地面ごと動いている可能性があります。一本だけなら別の理由かもしれませんが、そろって傾くのは地面が原因です。
道路にひび割れや波打ちが出る。アスファルトは動きに敏感で、変化が見えやすい素材です。
水路や側溝がずれる。まっすぐだったものが折れ曲がっていたら、地盤が動いています。
家の中で気づけるサイン
そして、これが見落とされがちなものです。地すべりは、家の中からも気づけます。
ドアや窓が閉まりにくくなる。建物がわずかにゆがむと、建具が引っかかります。「家が古くなったから」で片づけられがちですが、ある時期から急に閉まりにくくなったのなら、原因を疑う価値があります。
壁や基礎に、これまでなかったひびが入る。
床が傾いた感じがする。ビー玉を置くと転がる、といった変化です。
家がきしむ音がするようになった。
これらは、地震や経年劣化でも起こります。ですから、これだけで地すべりだと断定はできません。ただ、斜面のそばに住んでいて、なおかつ複数のサインが同じ時期に重なったのなら、一度専門の目で見てもらう価値があります。
気づいたときにどうするか
兆候に気づいたら、まず記録してください。
ひび割れの写真を撮り、日付を残します。できれば、割れ目の幅がわかるように、定規や硬貨を並べて撮ります。そして、一週間後、一か月後に同じ場所を同じ角度から撮る。大事なのは、変化しているかどうかです。止まっているひび割れと、広がり続けているひび割れは、意味がまったく違います。
ひび割れに紙を貼っておく、印をつけておくといった簡単な方法でも、進行の有無はわかります。
そのうえで、連絡してください。連絡先は、市町村の防災担当か建設担当の窓口です。都道府県の砂防を担当する部署でも受け付けています。
ここで、ためらわないでいただきたいのです。「大したことではないかもしれない」「勘違いだったら恥ずかしい」と思う気持ちはよくわかります。ですが、地すべりは自分の敷地だけの問題では終わりません。斜面の下には、他の家や道路があります。あなたの通報が、他の人の避難につながります。空振りを気にする必要はありません。
避難の判断
地すべりは動きが遅いので、避難の時間はあります。ただし、油断はできません。
ゆっくり動いていた地すべりが、ある時点で急激に加速することがあります。すべり面全体が滑り出す段階に入ると、動きが一気に速くなります。「今までゆっくりだったから、これからもゆっくり」とは限らないのです。
動きが確認されている場所では、自治体が観測機器を設置し、変位を監視することがあります。その結果にもとづいて避難の呼びかけが行われるので、指示があれば従ってください。
そして、大雨や融雪の時期には、判断を前倒しします。地下水位が上がる条件がそろっているからです。
地すべりに関わる制度
地すべりには、二つの異なる法律にもとづく指定があります。ここは少し複雑なので、整理します。
ひとつが土砂災害警戒区域です。土砂災害防止法にもとづくもので、土石流、がけ崩れ、地すべりの三つが対象になります。危険を周知し、警戒避難の体制を整えるための指定です。ハザードマップに載るのはこちらです。
もうひとつが地すべり防止区域です。こちらは地すべり等防止法という別の法律にもとづきます。目的も違い、地すべりを防止するための工事を行い、地すべりを助長する行為を規制するための指定です。この区域内では、地下水を増やすような行為や、斜面を切り取る行為などに許可が必要になります。
簡単に言えば、土砂災害警戒区域は「逃げるための指定」、地すべり防止区域は「工事と規制のための指定」です。目的が違うので、両方を確認する意味があります。
調べ方
土砂災害警戒区域は、都道府県が公開しているマップか、国土交通省の重ねるハザードマップで確認できます。住所を入力すれば、自宅が該当するかがわかります。詳しい手順はハザードマップの見方・読み方を徹底解説にまとめています。
地すべり防止区域については、都道府県の砂防担当部署が情報を公開しています。「県名 地すべり防止区域」で検索するか、窓口に問い合わせてください。
そして、家を買う、あるいは借りるときの話をひとつ。土砂災害警戒区域や特別警戒区域に該当する物件については、宅地建物取引業者に重要事項として説明する義務があります。契約前の説明で確認できます。ただ、説明を待つのではなく、内見の段階で自分でも地図を見ておくことをおすすめします。判断の材料は、多いほどよいものです。
雨がなくても起きた事例
地すべりを含む斜面の崩壊は、雨がなくても起きることがあります。象徴的な事例を挙げます。
二〇一八年四月、大分県中津市耶馬渓町で山の斜面が大規模に崩れ、住宅が巻き込まれて六人が亡くなりました。この災害で問題になったのは、直前に大雨も地震もなかったことです。天気は穏やかで、避難のきっかけになる情報は何も出ていませんでした。
後の調査では、地下水や地質の条件が長い時間をかけて崩壊の素地をつくっていたと考えられています。つまり、雨をきっかけにする土砂災害の枠組みでは、とらえきれない災害でした。
もうひとつ、二〇〇四年の新潟県中越地震では、地震によって多数の地すべりが発生しました。崩れた土砂が川をせき止め、天然のダムができた場所もあります。この天然ダムは、決壊すれば下流に大量の水と土砂を流す危険があるため、緊急の対策が行われました。
この二つの事例が示すのは、地すべりのきっかけは雨だけではないということです。地震、そして時間そのもの。だからこそ、雨の情報に頼りきらず、自分の目で足元の変化を見ておく意味があります。
集落や地域で共有しておきたいこと
地すべりは、一軒の家の中で完結しない災害です。動く範囲が広いため、気づくのも、備えるのも、地域単位の方が確実になります。
まず、気づいたことを共有する場をつくっておくことです。自治会の集まりでも、回覧でもかまいません。「うちの塀にひびが入った」という話が、隣家の「うちも去年から井戸が濁っている」という話とつながったとき、はじめて意味を持ちます。ひとつの家の変化は偶然に見えますが、複数が重なると偶然ではなくなります。
次に、集落の中で誰が先に動くのかを決めておくことです。地すべりの動きが速まったとき、避難に時間がかかる方から先に移動していただく必要があります。高齢の方、体の不自由な方がどこにお住まいかを、平常時に把握しておく。これは土砂災害に限らず有効な備えです。
そして、迂回路を確認しておくこと。地すべりは道路をゆがめ、通行止めにします。山間部では出入りの道が一本しかないことが珍しくありません。その道が使えなくなったとき、どこを通るのか。歩いてなら通れる経路があるのか。地図を広げて確かめておくと、いざというときの判断が速くなります。
よくある質問
地すべりは、どのくらいの速さで動くのですか
多くの場合、一日に数ミリから数センチという、目で見てもわからない速さです。ただし、活発化すると一日に数メートル動くこともあります。速さは一定ではなく、雨や融雪の時期に加速し、乾いた時期には止まる、という動き方をすることもあります。
地すべりが土石流になることはありますか
あります。崩れた土砂が水を多く含んで流動化すれば、土石流として流れ下ることがあります。また、崩れた土砂が川をせき止めて天然ダムをつくり、それが決壊して大量の土砂と水が流れ出す、という経路もあります。ゆっくりした災害が、急激な災害に変わりうるということです。
家の壁にひびが入りましたが、地すべりでしょうか
それだけでは判断できません。経年劣化や乾燥収縮、地震の影響でもひびは入ります。判断の材料になるのは、ひびが広がり続けているかどうか、そして他のサインが同時に出ているかどうかです。斜面のそばにお住まいで、庭の地面や擁壁にも変化があるなら、市町村へ相談してください。
地すべり防止区域に指定されていれば、対策済みということですか
いいえ。指定は、対策工事を行うための前提であって、工事が完了したことを意味しません。また、工事が行われていても、想定を超える条件では動くことがあります。指定されている地域にお住まいなら、むしろ地すべりの素地がある土地だと理解しておく方が実際的です。
賃貸物件でも気にする必要はありますか
あります。建物の損害は所有者の問題ですが、そこで暮らす人の安全は別の話です。土砂災害警戒区域に該当する物件なら、重要事項として説明されます。契約前に確認し、避難先と経路を決めておいてください。
地すべりの被害は保険で補償されますか
火災保険の水災補償が対象になる場合があります。ただし、契約内容によっては水災を外していることもありますし、被害の程度によって支払いの条件が定められています。該当する地域にお住まいなら、証券を一度確認しておく価値があります。被災後の手続きの流れは被災した後にやることの全体像にまとめました。
自分の敷地の造成が、地すべりの原因になることはありますか
あります。斜面の下部を削り取ると、上の土を支えていた部分がなくなり、動きやすくなります。逆に斜面の上部に盛り土をすれば、押す力が増えます。庭に水をためる、浄化槽や排水を地面へ浸透させるといった行為も、地下水を増やす方向に働きます。地すべり防止区域で一定の行為に許可が必要とされているのは、こうした理由からです。斜面のそばで造成や擁壁工事を考えているなら、着手前に市町村へ相談してください。
近所で地すべりの兆候を見つけたら、他人の土地でも連絡してよいですか
連絡してください。地すべりは敷地の境界とは無関係に広がりますし、動く範囲は数十から数百メートルに及びます。他人の土地で始まった動きが、自分の家に届くことは十分にあります。市町村へ伝えるのは、告発ではなく情報提供です。所有者が気づいていないことも珍しくありません。集落単位で気づいて共有する方が、結果として全員の安全につながります。
雪国では、いつごろ注意すればよいですか
雪解けが本格化する三月から五月が中心です。融雪水は時間をかけて地中にしみ込むため、雨より地下水位を上げやすい面があります。雪が消えた後、庭や擁壁、道路に新しいひび割れが出ていないかを見てまわる。この習慣が有効です。
まとめ
地すべりについて、押さえておきたい点を整理します。
地すべりは、地面の塊がすべり面を境にまとまって移動する現象です。動きは遅く、一日に数ミリということもあります。傾斜五度から二十度程度のゆるやかな斜面でも起きるため、「坂がゆるいから安全」という直感は通用しません。
きっかけは、地下水位の上昇です。だから、雨のピークと動きのピークがずれます。雨がやんでから、あるいは数日たってから動き出すことがあります。雪の多い地域では、融雪期の春に発生が集中します。
土砂災害警戒情報の対象は土石流とがけ崩れであり、地すべりは含まれていません。情報を待つ枠組みが使えないぶん、自分で兆候に気づく力が必要になります。
前ぶれは、数日どころか数年前から現れることがあります。地面のひび割れ、段差、湧き水の変化、井戸水の濁り。擁壁のひび、電柱や樹木の傾き。そして、ドアが閉まりにくくなる、床が傾く、といった家の中の変化です。
気づいたら、日付入りで写真を残し、変化しているかどうかを確かめてください。そして、市町村や都道府県の砂防担当へ連絡してください。空振りを気にする必要はありません。
地すべりは、命を奪う危険という点では土石流やがけ崩れより低い災害です。しかし、住み続けられなくなるという意味では、最も重い災害になりえます。そして、唯一、早い段階で気づける災害でもあります。
斜面のそばにお住まいなら、季節の変わり目に一度、庭と塀と道路を見てまわってみてください。去年の写真と見比べるだけでも、変化はわかります。それが、地すべりに対していちばん効く備えです。
難しく考える必要はありません。庭の隅、擁壁の継ぎ目、門柱の足元。毎回同じ場所を、同じ角度から撮っておく。それだけで、来年の自分に判断材料を渡せます。気づける災害であるということは、気づかなければ進んでしまう災害だということでもあります。今年の写真を、今日撮っておいてください。

