【この記事の要約】
脱水は夏だけのものではありません。冬にも起こります。しかも気づきにくいため「かくれ脱水」と呼ばれます。理由は4つあります。①汗をかかなくても、皮膚と呼気から水分が出ていきます。これを不感蒸泄といい、健康な成人で1日およそ900ミリリットルとされています。暖房で乾燥した部屋では、さらに増えます。②寒いと血管が縮み、尿が増えます。寒冷利尿と呼ばれる反応です。③寒いと、のどの渇きを感じにくくなります。汗をかかないので、身体が「足りている」と勘違いします。④トイレが近くなるのを嫌って、自分から水を控えてしまいます。これが高齢の方と避難所で、いちばん多く起きます。そして災害時には、この④が深刻になります。避難所のトイレが使いにくいと、水を飲まなくなる。血液が濃くなり、血栓ができやすくなります。過去の震災で問題になった、エコノミークラス症候群の入口がここです。対策は「渇く前に、少しずつ、温かいものを」です。
冬になると、水を飲む量が減ります。
意識していなくても、減ります。
私は札幌に住んでいて、防災士として活動しています。冬の防災の話をするとき、暖房や雪の話に比べて、水の話はほとんど出ません。
ですが避難所で最初に問題になるのは、たいてい水とトイレです。
結論|冬こそ、渇く前に飲んでください
先に、いちばん大事なことを書きます。
冬の脱水は、のどの渇きでは気づけません。寒さで渇きを感じる働きそのものが鈍るからです。
ですから「飲みたくなったら飲む」では遅くなります。時間を決めて、少しずつ飲んでください。
そして災害時にいちばん危ないのは、トイレを我慢するために水を控えることです。
熱中症の対策で「のどが渇く前に飲む」と言われます。
冬も、まったく同じです。むしろ冬のほうが、渇きの合図が来ません。
冬に脱水が起きる、4つの理由
①汗をかかなくても、水は出ていきます
不感蒸泄という言葉があります。
汗以外に、皮膚や粘膜、呼気から自然に失われる水分のことです。
健康な成人で、1日およそ900ミリリットルとされています。報告によっては700ミリリットルから1リットルという幅で示されます。
これは、じっとしていても失われる量です。
| どこから | 状況 |
|---|---|
| 皮膚から | 乾いた空気ほど、多く奪われます |
| 呼気から | 吐く息は水蒸気を含んでいます |
| 粘膜から | のどや鼻から |
冬は空気が乾いています。そこへ暖房が加わります。
湿度が下がるほど、皮膚と呼気からの水分は多く出ていきます。つまり冬の室内は、不感蒸泄が増える環境です。
寒い日に、吐く息が白く見えます。あれは、失われている水分が見えている状態です。
②寒いと、尿が増えます
寒冷利尿と呼ばれる反応があります。
寒さで手足の血管が縮むと、身体の中心を流れる血液の量が増えます。
身体はそれを「水分が多い」と受け取り、尿として出そうとします。
冬にトイレが近くなるのは、気のせいではありません。実際に、水分が出ていっています。
③のどの渇きを、感じにくくなります
ここが、いちばんの落とし穴です。
夏は汗をかきます。汗をかけば、身体は「減った」と分かります。
冬は汗をかきません。ですから身体は、減っていることに気づきません。
実際には不感蒸泄と寒冷利尿で失われているのに、渇きの合図だけが来ないのです。
④自分から、控えてしまいます
そして最後が、行動の問題です。
| よくある理由 | 誰に多いか |
|---|---|
| トイレが近くなるのが嫌 | 高齢の方に多く見られます |
| 夜中に起きたくない | 就寝前に控えます |
| 冷たいものを飲みたくない | 身体を冷やしたくない |
| トイレまで行くのが寒い・遠い | 避難所ではこれが決定的になります |
| 介助を頼むのが申し訳ない | 介助が必要な方 |
「トイレを我慢するために飲まない」という選択が、いちばん危険です。
かくれ脱水のサイン
のどの渇き以外の合図を、知っておいてください。
| サイン | 見方 |
|---|---|
| 尿の色が濃い | いちばん分かりやすい目安です |
| 尿の回数が減った | いつもより明らかに少ない |
| 口のなかが乾く | 舌が乾いている、話しにくい |
| 手の甲をつまむと、戻りが遅い | 皮膚の張りが落ちています |
| 頭が重い、だるい | はっきりしない不調として出ます |
| 便秘ぎみ | 腸の水分も減っています |
| 唇や皮膚が荒れる | 乾燥と重なります |
尿の色を、いちばん上に置きました。
数字を測らなくても、毎回見られるからです。濃い黄色や、色が濃くなってきたら、水分が足りていない可能性があります。
ただし薬やビタミン剤で色が変わることもあります。あくまで目安として使ってください。
脱水が進むと、何が起きるのか
ここは、少し踏み込んで書きます。
水分が減ると、血液が濃くなります。
濃くなった血液は、流れにくくなります。そして固まりやすくなります。
| 起きうること | 説明 |
|---|---|
| 血栓ができやすくなる | 血のかたまりが血管を詰まらせます |
| 脳梗塞・心筋梗塞 | 血栓が脳や心臓の血管を塞ぐ場合です |
| エコノミークラス症候群 | 足でできた血栓が肺へ飛ぶもの。避難所や車中泊で問題になりました |
| 立ちくらみ | 血液量が減るためです |
| 便秘 | 腸内の水分が減ります |
| 体温を保ちにくくなる | 血のめぐりが悪くなります |
冬は、もともと脳梗塞や心筋梗塞が増える季節です。
そこに脱水が重なります。ヒートショックと同じで、冬に条件がそろってしまうのです。
入浴中の急変についてはヒートショックは脱衣所で始まる|浴槽の死者5,824人と39〜41度の上限に書きました。入浴で汗をかいたあとの水分補給も、この話とつながります。
災害のときが、いちばん危ない
ここからが、防災の話です。
トイレが使えないと、人は水を飲まなくなります
これは、過去の災害でくり返し起きています。
避難所のトイレが汚い。数が足りない。行列ができる。夜は暗くて遠い。断水していれば、そもそも流せません。
その結果、多くの方が「トイレに行かなくて済むように、水を飲まない」という行動をとります。
そして足を動かさずに、狭い場所で長時間過ごします。
水を飲まない。動かない。この2つがそろうと、足に血栓ができやすくなります。
その血栓が肺へ飛ぶのが、エコノミークラス症候群です。車中泊で問題になったのも、同じ理由です。
ですから「トイレの備え」は、脱水対策そのものです。
携帯トイレを備えるのは、不便を減らすためだけではありません。水を飲める状態を保つためです。
冬の避難所は、条件が重なります
| 条件 | 影響 |
|---|---|
| 暖房で空気が乾く | 不感蒸泄が増えます |
| 寒くて動きたくない | 血のめぐりが悪くなります |
| トイレが遠い・寒い | 水を控える理由になります |
| 温かい飲み物がない | 冷たい水は飲む気になりません |
| 断水している | 飲む水そのものが限られます |
| 感染症が流行する | 発熱や下痢で、さらに水分を失います |
冬の避難所で何を優先するかは冬の避難所は床が最優先|2024年能登で起きた寒さと感染症を防ぐ3手当てに整理しました。
断水したときは、飲む水を最優先に
断水すると、水の使い道を選ばなければなりません。
優先順位は、飲む水が最上位です。
洗う水、流す水は、代わりの手段があります。飲む水には、代わりがありません。
この考え方は渇水の節水は何から減らすか|減らすのは洗う水と流す水だけ。飲む水は減らしませんに書きました。
どうやって飲むか
量について
ここは慎重に書きます。
「1日に何リットル飲むべきか」を、私は指定できません。
体格、活動量、季節、持病によって変わるからです。とくに心臓や腎臓の病気で水分の制限を受けている方は、必ず主治医の指示に従ってください。
そのうえで、一般に言われている考え方を書きます。
| 考え方 | 内容 |
|---|---|
| 一度にたくさん飲まない | 吸収できず、尿として出ていきます |
| 回数を分ける | コップ1杯を、日に何度も |
| 時間を決める | 渇きに頼らず、習慣で飲みます |
| 尿の色で確認する | 濃ければ足りていない可能性 |
飲むタイミングを、決めてしまう
渇きの合図があてにならない以上、時間で決めるのが確実です。
| タイミング | 理由 |
|---|---|
| 起きたとき | 寝ているあいだに、いちばん失っています |
| 食事のとき | 忘れにくい |
| 入浴の前と後 | 入浴では汗をかきます |
| 寝る前 | 控えたくなりますが、少量は飲んでください |
| 外の作業の前後 | 雪かきは汗をかきます |
| 暖房のきいた部屋にいるとき | 乾燥しています |
「寝る前」を控える方が非常に多いのですが、ここは考えどころです。
就寝中は何時間も飲めません。そのあいだも不感蒸泄は続きます。
夜中のトイレが心配なら、量を少なくしてでも飲んでください。コップ半分でも違います。
何を飲むか
| 飲み物 | 評価 |
|---|---|
| 水・白湯 | 基本です。温かいほうが飲みやすい |
| 麦茶・ほうじ茶 | カフェインが少ないものが向きます |
| 経口補水液 | 発熱や下痢で失ったときに。日常的な水代わりではありません |
| スープ・味噌汁 | 水分と塩分を一緒にとれます |
| コーヒー・緑茶 | 利尿作用があります。これだけに頼らない |
| アルコール | 水分補給になりません。むしろ失います |
お酒は、水分補給にはなりません。
利尿作用があるため、飲んだ量より多く出ていくことがあります。
そして寒い場所では、血管がひらいて体温も逃げます。冬の屋外や車中では、とくに避けてください。
温かいものにする工夫
冬は、冷たい水が飲みにくくなります。
白湯にするだけで、飲む量が変わります。
そして温かい飲み物には、身体を温める効果もあります。脱水対策と防寒を、同時にできます。
停電で湯が沸かせない場合に備えて、カセットコンロを用意しておくと、この両方を確保できます。
カセットボンベは寒いと使えなくなることがあります。その理由と対処はカセットボンベが寒いと使えない理由と対処法|湯せんは危険、正しい温め方に書きました。
とくに気をつけたい方
| 対象 | 理由 |
|---|---|
| 高齢の方 | 渇きを感じにくく、身体の水分量そのものも少なくなります |
| 小さなお子さん | 体重に対する水分の出入りが大きい |
| 介助が必要な方 | 自分でトイレに行けないと、遠慮して控えます |
| 利尿薬を飲んでいる方 | 主治医の指示に従ってください |
| 糖尿病のある方 | 尿量が増えることがあります |
| 発熱・下痢・嘔吐がある方 | 急速に失います。受診の判断も必要です |
「介助が必要な方」を、あえて入れました。
ご本人が遠慮されるためです。「迷惑をかけたくない」という理由で、水を飲まなくなります。
避難所でも、在宅でも起こります。周りから声をかけてください。
高齢のご家族については高齢の家族は寒さを感じにくい|冬の災害で先に守る首・頭・手・足の4か所もあわせてご覧ください。
エコノミークラス症候群を、もう少し詳しく
災害のたびに、この言葉が出てきます。
正式には深部静脈血栓症といいます。足の深いところにある静脈で、血のかたまりができる状態です。
どうやって起きるのか
| 順 | 起きること |
|---|---|
| 1 | 長時間、同じ姿勢で座り続ける |
| 2 | ふくらはぎの筋肉が動かず、血が足にたまる |
| 3 | 水分不足で、血液が濃くなっている |
| 4 | 足の静脈で血のかたまりができる |
| 5 | 立ち上がった拍子に、それが肺へ飛ぶ |
ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれます。
歩くたびに筋肉が縮み、足の血を心臓へ押し戻しているからです。
座りっぱなしだと、このポンプが止まります。そこへ脱水が重なると、条件がそろいます。
車中泊で問題になった理由
過去の地震で、車中泊をした方に多く発生しました。
理由は、条件が全部そろうからです。
- 座席で足を伸ばせない
- トイレが近くにないので、水を控える
- 寒くて外に出たくない
- 何日も同じ姿勢で過ごす
冬の車中泊は、とくに条件が悪くなります。寒さで動きたくないからです。
防ぐには
| やること | ひとこと |
|---|---|
| 水を飲む | そのためにトイレを確保する |
| 足首を回す、つま先を上下させる | 座ったままできます |
| 1時間に一度は立って歩く | 数歩でも違います |
| ふくらはぎをもむ | 強くもみすぎないでください |
| 足を伸ばせる姿勢を作る | 荷物を移して、足元を空けます |
| 締めつける服装を避ける | 血流を妨げます |
「足首を回す」だけでも意味があります。
車から出られない状況でも、これはできます。思い出したときに10回、と決めておいてください。
トイレの備えが、脱水対策になります
この記事で、いちばん伝えたい部分です。
水分補給の話をすると、たいてい「何を飲むか」で終わります。
ですが災害時に人が水を飲まなくなる理由は、飲み物の問題ではありません。出す場所がないからです。
| 備え | 目安 |
|---|---|
| 携帯トイレ | 1人1日5回 × 7日=35回分 |
| 凝固剤・防臭袋 | においは生活の質を左右します |
| 目隠しできるもの | 使いにくさは、我慢につながります |
| 照明 | 夜のトイレをためらわないために |
35回分という数字は、多く感じられると思います。
ですが断水したトイレは、1回で使えなくなります。そして「使えないトイレ」があるだけで、人は水を控え始めます。
乾燥そのものへの対策
不感蒸泄は、部屋が乾くほど増えます。
ですから加湿も、脱水対策の一部です。
| 方法 | ひとこと |
|---|---|
| 加湿器を使う | 電気が使えるときの基本です |
| 洗濯物を室内に干す | 停電中でもできます |
| 濡れタオルを掛ける | 手軽です |
| やかんで湯を沸かす | 暖房と加湿を同時に |
| 加湿しすぎない | 結露とカビのもとになります |
加湿のしすぎには注意してください。
窓に結露が出るようなら、湿度が高すぎます。結露はカビにつながり、別の健康問題になります。
結露の仕組みと対処は結露は拭いても解決しません|原因は水分量と冷たい面、カビを止める3手順に書きました。
まず、今日できること
読んで終わりにならないよう、最初の一歩を書いておきます。
| 今日やること | かかる時間 |
|---|---|
| 次にトイレへ行ったとき、尿の色を見る | 0分 |
| 起きたらコップ1杯、と決める | 0分 |
| 手の届く場所に水筒を置く | 1分 |
| 温湿度計を1つ注文する | 3分 |
| 携帯トイレの残数を数える | 5分 |
いちばん上から始めてください。今日から、費用もかかりません。
そしてご家族がいる方は、ひと言だけ聞いてみてください。「今日、水どれくらい飲んだ?」
たいてい、答えられません。答えられないこと自体が、この記事の要点です。
湿度は、40〜60パーセントを目安に
不感蒸泄を減らすには、部屋の乾燥を抑えるのが有効です。
目安として示されることが多いのは、湿度40〜60パーセントです。
| 湿度 | 状態 |
|---|---|
| 40パーセント未満 | 乾燥。不感蒸泄が増え、のどや肌も荒れます |
| 40〜60パーセント | 目安とされる範囲です |
| 60パーセント超 | 結露とカビが出やすくなります |
温度計と一緒に、湿度計も置いてください。
多くの温湿度計は、両方を1台で表示します。千円台で買えます。
そして暖房を入れると、湿度は下がります。暖かい空気は、より多くの水蒸気を含めるからです。同じ水分量でも、暖めると湿度の数字は下がります。
ですから暖房を強くするほど、部屋は乾きます。加湿とセットで考えてください。
備えとして、何を置いておくか
| もの | 役割 |
|---|---|
| 保存水(1人1日3リットル × 7日) | 飲む水。最優先です |
| カセットコンロとボンベ | 湯を作る。冬はこれが要ります |
| 携帯トイレ(1人1日5回 × 7日) | 飲める状態を保つための備えです |
| 経口補水液 | 胃腸炎や発熱のとき |
| 粉末のスープ・味噌汁 | 水分と塩分、そして温かさ |
| 魔法瓶(保温ボトル) | 一度沸かせば、長く温かいまま持てます |
| 紙コップ | 洗う水を使わずに済みます |
魔法瓶を入れました。
停電中、湯を沸かせる機会は限られます。一度に沸かして保温しておけば、燃料を節約できます。
そして温かい飲み物は、体温を保つことにも役立ちます。脱水と防寒を同時に扱えます。
ローリングストックで回す
保存水を買って置いておくだけでは、期限が切れます。
ふだん飲む水を少し多めに買い、古いものから使う。これがローリングストックです。
飲む習慣ができれば、備蓄も自然に回ります。冬の脱水対策と備蓄は、同じ行動でまかなえます。
「夏の熱中症」と、どう違うのか
脱水と聞くと、多くの方は熱中症を思い浮かべます。
失われるものは同じですが、気づき方がまったく違います。
| 夏(熱中症) | 冬(かくれ脱水) | |
|---|---|---|
| 失う経路 | 大量の発汗 | 不感蒸泄と寒冷利尿 |
| 気づきやすさ | 汗で分かる | ほとんど分かりません |
| のどの渇き | 強く感じます | 感じにくくなります |
| 進み方 | 数時間で急に | 数日かけて、じわじわと |
| 症状の出方 | めまい、けいれん | だるい、頭が重い、便秘 |
| 怖い結果 | 熱中症による重症化 | 血栓。脳梗塞や心筋梗塞 |
「数日かけて、じわじわと」が、冬の特徴です。
急に倒れるわけではありません。少しずつ足りない状態が続き、あるとき別の形で表面化します。
ですから「今日は飲まなかったな」で終わらせないでください。それが1週間続くと、状態が変わります。
夏の対策が、そのまま使えます
幸い、やることは夏と同じです。
渇く前に飲む。時間で区切る。一度に大量に飲まない。
夏に身についた習慣を、冬もやめないでください。やめてしまうのが、いちばんの問題です。
冬の感染症で、一気に失います
冬は、胃腸炎やインフルエンザが流行する季節です。
これらは、短時間で大量の水分を奪います。
| 症状 | 失われるもの |
|---|---|
| 嘔吐 | 水分と、胃液に含まれる電解質 |
| 下痢 | 短時間で大量に失います |
| 発熱 | 汗と、呼吸の増加によって |
| 食欲の低下 | 食事から得ていた水分が入りません |
見落とされるのが「食事から得ていた水分」です。
私たちは、飲み物だけで水分をとっているわけではありません。ご飯にも味噌汁にも、水分が含まれています。
食欲がなくなると、その分がまるごと失われます。
避難所では、流行しやすくなります
大勢が同じ空間で過ごすため、感染が広がりやすい環境です。
そして手を洗う水が限られています。
断水しているところに感染性の胃腸炎が入ると、水分を失う人が増え、水は足りず、トイレは足りないという状態になります。
経口補水液を備蓄に入れておく理由は、ここにあります。
ただし症状が強い場合、水分がとれない場合は、医療機関を受診してください。とくに小さなお子さんと高齢の方は、進行が早いことがあります。
雪かきは、汗をかきます
冬に汗をかかない、というのは正確ではありません。
雪かきは、かなりの運動量があります。
そして厚着をしているため、熱がこもって汗をかきます。
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 汗をかいた自覚がない | 寒いので、汗として感じません |
| 汗冷えする | 濡れた下着が、身体を冷やし続けます |
| 水を持って出ない | 「冬だから」と用意しません |
| 作業を中断しない | 飲む機会そのものがありません |
雪かきの前後に、コップ1杯ずつ飲んでください。
そして肌に触れる下着に、綿を選ばないでください。綿は汗を含んだまま乾きません。
これは凍傷の予防とも重なる話です。詳しくはしもやけと凍傷は別物|こすらず37〜39度のぬるま湯で15〜30分に書きました。
高齢のご家族がいる方へ
この記事で、いちばん心配なのはここです。
高齢の方は、脱水の条件をいくつも同時に持っています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 身体の水分量そのものが少ない | 余裕が小さいということです |
| のどの渇きを感じにくい | 合図が来ません |
| トイレを避けて控える | 意識的に飲みません |
| 薬を飲んでいることが多い | 利尿薬などの影響 |
| 寒さも感じにくい | 環境の悪さに気づけません |
声のかけ方
「水を飲んで」と言っても、たいてい飲みません。
私が勧めているのは、飲む場面を作ることです。
- お茶の時間を決める
- 自分も一緒に飲む
- 手の届く場所に、水筒を置いておく
- 温かいものを出す
- スープや味噌汁を1品足す
「一緒に飲む」が、いちばん効きます。
指示ではなく、習慣になるからです。
トイレを近づける
そして、根本の対策はこちらです。
トイレが遠い、寒い、行きにくい。この3つを減らしてください。
トイレに小さな暖房を置く。夜間の照明をつけておく。それだけで、水を控える理由がひとつ減ります。
寒いトイレは、ヒートショックの場所でもあります。ここを暖めることには、二重の意味があります。
私が、この記事を書いた理由
冬の防災というと、寒さと雪の話になります。
水の話は、まず出てきません。
ですが私は、避難所の記事を書くたびに同じ構図に行き当たりました。
トイレが足りない。だから水を飲まない。だから血が濃くなる。だから倒れる。
この連鎖は、冬にとくに強く働きます。寒くて動かず、乾燥していて、トイレが遠いからです。
そして対策は、水を用意することだけではありません。
携帯トイレを備えること。トイレを暖めること。「出す側」を整えることが、飲むことにつながります。
この順番は、あまり語られません。ですから記事にしました。
よくある質問
Q. 冬でも経口補水液を備えるべきですか?
備える価値はあります。ただし日常的に水代わりに飲むものではありません。
経口補水液は、発熱・下痢・嘔吐などで水分と塩分を大きく失ったときに使うものです。
冬の避難所では、感染性の胃腸炎が流行することがあります。そのときに役立ちます。
使い方に迷う場合は、薬剤師や医師にご相談ください。
Q. トイレが心配で、夜は飲みたくありません
お気持ちは分かります。
ですが、まったく飲まないのは勧められません。
量を減らす、就寝の少し前に済ませる、といった調整をしてください。コップ半分でも、何も飲まないよりは良いはずです。
夜間のトイレが頻繁で困っている場合は、別の原因があることもあります。気になるようなら、医師にご相談ください。
Q. 白湯とお茶、どちらがいいですか?
飲みやすいほうで構いません。
ただしコーヒーや緑茶には利尿作用があります。それだけで水分をまかなうのは避けてください。
麦茶やほうじ茶は、カフェインが少ないとされています。
Q. 断水したとき、水はどれくらい要りますか?
備蓄の目安としてよく示されるのは、1人1日3リットルです。
これは飲む水と、調理に使う水を含めた量です。
冬でもこの量は変えないでください。「冬は汗をかかないから少なくていい」という考え方は、この記事で書いてきたとおり成り立ちません。
Q. 停電で湯が沸かせません
常温の水でも構いません。飲まないより、はるかに良いです。
そのうえで、湯を作る手段があると生活が変わります。カセットコンロとボンベは、冬の停電で最も役に立つ備えのひとつです。
湯たんぽ代わりにもなり、温かい食事も作れます。
Q. 子どもの脱水は、どう見分けますか?
大人より進みやすいとされています。体重に対する水分の出入りが大きいためです。
見るのは次の点です。
- おむつが濡れる回数が減った
- 唇や舌が乾いている
- 泣いても涙が少ない
- 元気がない、機嫌が悪い
- 目がくぼんで見える
嘔吐や下痢が続く場合、水分がとれない場合は、早めに小児科を受診してください。子どもの脱水は進行が早いことがあります。
Q. スポーツドリンクでもいいですか?
水分補給としては使えます。
ただし糖分が多いものがあります。日常的に大量に飲むものではありません。
また、経口補水液とスポーツドリンクは別のものです。経口補水液は、失われた水分と電解質を補うために配合が調整されています。
使い分けに迷う場合は、薬剤師にご相談ください。
Q. お風呂上がりに飲んだほうがいいですか?
はい。入浴では汗をかいています。
そして入浴の前にも飲んでおくと、入浴中の血圧低下に対しても余裕ができます。
冬は「湯冷めするから」と控える方がいますが、温かいものを飲めば問題ありません。
Q. 備蓄の水は、冬でも同じ量ですか?
同じです。1人1日3リットルが目安です。
「冬は汗をかかないから少なくていい」は、この記事で書いたとおり成り立ちません。不感蒸泄と寒冷利尿で失われています。
むしろ冬は、湯を作るための水も必要になります。温かい飲み物と食事のためです。
Q. 停電中、ペットボトルの水が冷たくて飲めません
常温に戻すだけでも、だいぶ違います。
暖房のきいた部屋に移す。衣類でくるんでおく。湯たんぽの近くに置く。
カセットコンロがあれば、少量ずつ温められます。冬の停電では、コンロがあるかないかで生活の質が変わります。
まとめ|渇く前に、少しずつ、温かいものを
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 冬にも脱水は起きる | 気づきにくいので「かくれ脱水」と呼ばれます |
| 理由① | 不感蒸泄。成人で1日およそ900ミリリットル |
| 理由② | 寒冷利尿。寒さで尿が増えます |
| 理由③ | 寒いと、のどの渇きを感じにくくなります |
| 理由④ | トイレを避けるため、自分から控えてしまいます |
| サイン | 尿の色が濃い、回数が減った、口が乾く |
| 怖いこと | 血液が濃くなり、血栓ができやすくなります |
| 災害時 | トイレを我慢して水を控える。これが最大の危険 |
| 対策 | 時間を決めて、少しずつ、温かいものを |
| 備え | 携帯トイレは、水を飲める状態を保つための備えでもあります |
この記事でいちばんお伝えしたかったのは、最後の一行です。
携帯トイレを備えることは、不便を減らすためだけの話ではありません。
トイレが確保できていれば、人は水を飲めます。飲めれば、血栓のリスクが下がります。
この冬、水と一緒に、トイレの備えも見直してみてください。
【出典】
医療機関・製薬会社等の公開情報(不感蒸泄の量、寒冷利尿、かくれ脱水の考え方)
本記事は一般的な情報の提供を目的としています。1日に必要な水分量は、体格・活動量・持病によって異なります。とくに心臓や腎臓の病気で水分制限を受けている方は、必ず主治医の指示に従ってください。発熱や下痢が続く場合、症状が改善しない場合は医療機関にご相談ください。




