【この記事の要約】
火山灰は、燃えかすの灰ではありません。マグマが砕けてできた、細かいガラスの破片です。角張っていて、水に溶けず、雪のように消えることもありません。そして厚さによって、起きることが段階的に変わります。微量でも鉄道の地上路線は止まり、三ミリ積もって雨が降れば停電が起こり、三十センチを超えて雨が降れば木造家屋が倒壊するおそれがあります。この記事では、火山灰の性質、厚さごとに何が起きるか、停電や断水が起こる仕組み、健康への影響、そして家庭でできる備えと掃除の方法をまとめました。火山から遠く離れた場所でも、灰は降ります。
結論からお伝えします。火山灰への備えでいちばん大事なのは、外に出ないで済む状態をつくっておくことです。
灰が降っているあいだ、外での活動はほぼできません。目を開けているのがつらく、呼吸も苦しくなります。車は走れず、電車も止まります。買い物にも行けません。
つまり、数日から場合によっては数週間、家にこもる事態になります。停電と断水が加われば、なおさらです。ですから、備えの中身は水害や地震のときとよく似てきます。
私は防災士として北海道で暮らしていますが、道内にも活火山は多く、有珠山や樽前山、十勝岳を身近に感じている方は少なくありません。それでも、火山灰の話をすると「灰が降るだけでしょう」という反応を受けることがあります。その「だけ」が、生活を止めます。この記事では、その中身を具体的に説明していきます。
火山灰は、灰ではありません
まず、名前が誤解を生んでいます。
私たちが「灰」と聞いて思い浮かべるのは、紙や木が燃えた後に残る、ふわふわした軽いものです。ところが火山灰は、まったく別のものです。
火山灰の正体は、マグマが噴火の勢いで砕けてできた、微細な岩石やガラスの粒子です。このうち、直径が二ミリ未満のものを火山灰と呼びます。
三つの性質
一、角張っています。丸い砂粒とは違い、破片としてとがっています。だから、目に入れば角膜を傷つけ、吸い込めば気道を刺激します。機械の内部に入れば、部品を削っていきます。
二、水に溶けません。雪や霜は溶けて消えますが、火山灰は消えません。降った分は、そのまま残ります。誰かが取り除かないかぎり、なくならないということです。
三、重いです。見た目より、はるかに重い。そして雨に濡れると、さらに重くなります。屋根に積もった灰が家を押し潰すのは、この性質によるものです。
この三つが、これから説明するすべての被害につながっていきます。
厚さによって、起きることが変わります
ここが、この記事でいちばん実用的な部分です。降灰の厚さと、そのときに起きることを整理します。
| 降灰の厚さ | 起きること |
|---|---|
| 0.1ミリ以上 | 火山灰注意報の基準として検討されている水準 |
| 微量でも | 鉄道の地上路線が運行停止 |
| 3ミリ以上+雨 | 碍子の絶縁が低下し、停電が発生 |
| 3センチ以上 | 火山灰警報の基準として検討されている水準 |
| 3センチ以上+雨 | 自動車の走行に支障 |
| 10センチ以上(乾燥時) | 二輪駆動の車が通行不能 |
| 30センチ以上+雨 | 木造家屋が倒壊するおそれ |
この表を眺めていただくと、あることに気づきます。「雨」という条件が、繰り返し出てきます。
乾いた灰と、濡れた灰は、まったく違う物質だと考えてください。濡れると重くなり、電気を通すようになり、そして固まります。噴火の後に雨が降るかどうかで、被害の大きさが変わります。
国が定めた四つの段階
内閣府は、広域に灰が降る事態への対策として、降灰の量に応じた段階を示しています。
| 段階 | 降灰の量 | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| ステージ1 | 3センチ未満 | 屋内での退避が中心 |
| ステージ2 | 3センチ以上30センチ未満 | 状況に応じた対応 |
| ステージ3 | 2と同じ量でも被害が比較的大きい場合 | より慎重な判断 |
| ステージ4 | 30センチ以上 | 原則として避難 |
覚えておいていただきたいのは、三十センチが避難の境界だということです。それ未満であれば、基本的には家にとどまることになります。だからこそ、家にこもる備えが必要になります。
屋根に積もる重さを、計算してみる
三十センチで家が潰れると聞いても、実感しにくいと思います。数字にしてみます。
乾いた火山灰は、厚さ一センチあたり、一平方メートルにつきおよそ十キロの重さになります。濡れると、これが一・五倍ほどに増えます。
屋根の面積を百平方メートルとして、計算してみます。
| 降灰の厚さ | 乾いた状態 | 濡れた状態 |
|---|---|---|
| 1センチ | 約1トン | 約1.5トン |
| 3センチ | 約3トン | 約4.5トン |
| 10センチ | 約10トン | 約15トン |
| 30センチ | 約30トン | 約45トン |
三十センチで四十五トンです。大型のトラック数台分が、屋根の上に乗っている状態だと考えてください。木造家屋が耐えられないのは、当然のことです。
そして、この表を見ていただくと、もうひとつ気づくことがあります。十センチでも十五トンです。三十センチという避難の基準に達していなくても、古い建物や、屋根の傷んだ建物では影響が出る可能性があります。
雪との違いも、ここにあります。新雪であれば、同じ厚さでも重さは火山灰の十分の一程度です。雪かきの感覚で灰を考えると、判断を誤ります。
なぜ停電するのか
火山灰による停電は、意外に思われるかもしれません。仕組みを説明します。
電線を鉄塔や電柱に取り付ける部分には、碍子という部品が使われています。陶器やガラスでできた、あの傘のような形をしたものです。役割は、電気を漏らさないことです。
ここに火山灰が付着します。乾いているあいだは、大きな問題になりません。ところが雨が降って灰が濡れると、電気を通すようになります。
すると、本来なら絶縁されているはずの場所を電気が流れ、火花が飛びます。設備を守るために送電が止められ、停電が起こります。
この現象は、三ミリ程度の降灰に雨が加わるだけでも起こりうるとされています。三ミリです。数センチではありません。降灰による停電は、思っているよりずっと低い水準で発生します。
なぜ断水するのか
水道にも影響が出ます。理由はいくつか重なります。
浄水場に灰が入ります。屋外に開いた施設であれば、直接降り込みます。処理能力を超えれば、供給が止まります。
水質が変わります。火山灰には、さまざまな成分が含まれています。水源に大量に入れば、水質への影響が出ます。
そして、停電が断水を引き起こします。浄水場やポンプは電気で動いています。停電すれば、水を送れません。マンションの高置水槽への給水も止まります。
つまり、停電と断水は連動して起こります。片方だけを想定した備えでは足りません。マンションでの断水対策はマンションの断水対策にまとめています。
なぜ鉄道が止まるのか
降灰による交通の停止は、ごく少量から始まります。
レールの上の灰が、車輪を空転させます。鉄道は、金属の車輪と金属のレールが接することで走り、また止まります。あいだに粉が挟まると、加速も減速もできなくなります。
信号やポイントが動かなくなります。細かい灰が可動部に入り込みます。
電気系統に影響が出ます。架線や信号設備でも、碍子と同じ問題が起こります。
そして、地下鉄も無関係ではありません。地上を走る区間があること、地上路線が止まったぶんの乗客が流れ込むこと、そして車両や作業員が足りなくなること。これらによって、地下路線でも運行の縮小や停止が起こりえます。
体への影響
火山灰は、角張った微細な粒子です。体に入れば、当然のことが起こります。
目。角膜を傷つけます。こすると悪化します。コンタクトレンズは外してください。レンズと角膜のあいだに粒子が入ると、深刻な傷になります。
のどと気管。咳やのどの痛みが出ます。喘息や慢性の呼吸器疾患をお持ちの方は、症状が悪化することがあります。
皮膚。細かい粒子が汗と混ざると、かゆみやかぶれの原因になります。
外出が避けられない場合は、防じんマスク、ゴーグル、長袖、帽子を着用してください。
ここで大事な点があります。布マスクや、一般的な不織布マスクでは十分ではありません。火山灰の粒子は非常に細かく、隙間から入ります。国家検定に合格した防じんマスクを、事前に用意しておいてください。花粉症用のゴーグルも、目を守るのに役立ちます。
車をどうするか
灰が降っているときの運転は、避けるのが原則です。それでも動かす必要がある場合の注意点を挙げます。
フロントガラスを、乾いたまま拭かないでください。火山灰は研磨剤と同じです。ワイパーを動かすと、ガラスに無数の傷がつきます。大量の水で流してから拭いてください。
路面が滑ります。乾いた灰の上はもちろん、濡れた灰はさらに滑ります。急ブレーキと急ハンドルは避けてください。
視界が悪くなります。前の車が巻き上げた灰で、前方が見えなくなります。車間距離を大きく取ってください。
エンジンに影響します。空気の取り入れ口から灰を吸い込むと、フィルターが詰まります。長時間走れば、エンジンそのものを傷めます。
暮らしと仕事は、どうなるのか
灰が降ると、生活のあらゆる場面が止まります。想像しにくい部分を、具体的に挙げておきます。
買い物ができません
道路が使えず、鉄道も止まれば、物流が止まります。店に商品が届きません。そして、店員も出勤できません。灰が降りはじめてから買いに走っても、棚は空になっています。備蓄が意味を持つのは、この時間差のためです。
停電すれば、レジも冷蔵設備も動きません。営業していても、買えるものが限られます。これが数日から数週間続く可能性があります。
学校と仕事が止まります
子どもを外へ出せませんから、学校は休みになります。在宅で仕事ができる方も、停電と通信障害があれば作業できません。
そして、灰が収まった後もすぐには戻りません。除灰が終わるまで、道路も鉄道も本調子にはなりません。
農業と畜産への影響
作物の葉に灰が積もれば、光合成ができなくなります。実や葉に付着すれば、商品として出荷できません。ビニールハウスは、灰の重みで潰れることがあります。
家畜も、灰の混じった草を食べれば体調を崩します。牧草地に灰が積もれば、その年の飼料が失われます。
精密な機械が壊れます
細かい粒子は、あらゆる隙間に入ります。パソコン、通信機器、工場の設備、医療機器。空気を吸い込んで動くものは、すべて影響を受けます。
復旧に時間がかかるのは、この点が大きいとされています。灰を取り除いても、内部に入り込んだものは残ります。
除灰は、誰がやるのか
降った灰は、誰かが片づけないかぎり消えません。ここが、雪と決定的に違うところです。
自治体が道路の除灰を行いますが、順番があります。まず緊急車両が通る幹線道路、次に主要な道路、そして生活道路。住宅街の細い道は、後回しにならざるを得ません。
そして、集めた灰をどこへ持っていくかという問題があります。量が膨大なため、置き場所の確保が課題になります。災害廃棄物の仮置き場と同じ問題です。この考え方は災害ごみの出し方でも扱っています。
自宅の敷地内の灰は、原則として自分で片づけることになります。ただし、出し方や回収の方法は自治体が決めます。勝手に道路へ掃き出さないでください。除灰作業の妨げになりますし、また風で舞い上がります。
過去に、何が起きたか
火山灰の被害は、想像の産物ではありません。日本では実際に繰り返されてきました。
桜島とともに暮らす鹿児島
鹿児島市では、桜島の噴火による降灰が日常の一部になっています。灰を集めるための専用の袋が配られ、決められた場所に出す仕組みが整っています。道路の除灰も定期的に行われています。
ここから学べることがあります。降灰は、仕組みさえあれば対処できる災害でもあるということです。問題は、経験のない地域に大量に降ったときです。袋もなく、回収の仕組みもなく、誰も扱い方を知らない。そこで混乱が起きます。
一七〇七年、宝永噴火
富士山の最後の大規模な噴火です。十二月に始まり、二週間以上にわたって続きました。
このとき、当時の江戸、つまり現在の東京にも灰が降ったことが記録に残っています。百キロ離れた場所まで、灰は届きました。農地が埋まり、その後の復旧に長い年月がかかっています。
近年の噴火
二〇一一年の霧島連山の噴火では、宮崎県と鹿児島県で農作物への被害が出ました。日常生活への影響も広範囲に及んでいます。
そして、噴火の危険は灰だけではありません。一九九一年の雲仙普賢岳では、火砕流によって多くの方が亡くなりました。火口に近い場所の危険と、遠方の降灰の被害は、まったく別のものとして考える必要があります。
家庭でできる備え
火山の近くにお住まいの方だけでなく、風下になりうる地域の方も対象です。
まず、自分の地域が風下になるかを知る
備える前に、確認しておきたいことがあります。灰は、風下に流れます。火山からの距離だけでなく、風向きが結果を決めます。
日本の上空では、西から東へ向かう強い風が吹いています。ですから、火山の東側に位置する地域は、灰が届きやすくなります。富士山の東に東京があるという位置関係は、この意味で重要です。
ただし、季節や高度によって風向きは変わります。市町村が作成している火山ハザードマップには、想定される降灰の範囲が示されていることがあります。地図の読み方はハザードマップの見方・読み方を徹底解説にまとめました。
そして、火山ハザードマップは、その火山の近くの自治体だけが作るものではありません。広域の降灰想定は、国や都県の資料として公表されています。自分の地域が対象に含まれているかを、一度調べてみてください。
そろえておくもの
防じんマスクとゴーグル。家族の人数分です。子ども用のサイズも忘れないでください。
水と食料。数日から一週間分。停電と断水が同時に起こる前提です。備蓄の考え方は非常食の比較データが参考になります。
ラップと養生テープ。窓やドアのすき間をふさぐために使います。換気口や通気口も対象です。
ポリ袋。灰を集めるために使います。丈夫なものを多めに。
電池式のラジオ。停電と通信障害が起こる可能性があります。選び方は防災ラジオの選び方にまとめました。
ブルーシート。屋外の機械や車を覆うために使えます。エアコンの室外機や給湯器を守るのにも役立ちます。
携帯トイレ。断水したときに、水の消費を大きく減らせます。灰が降っているあいだは外へ出られないため、屋外での用足しという選択肢もありません。
常備薬の予備。受診も薬局も、しばらく利用できなくなる前提で考えてください。
灰が降りはじめたら
窓とドアを閉め、すき間をふさぐ。細かい灰は、わずかな隙間から入ってきます。
換気扇とエアコンを止める。外の空気を室内へ引き込んでしまいます。二十四時間換気の設備がある住宅では、その停止方法も確認しておいてください。
洗濯物と、屋外の物を取り込む。
雨どいを気にする。灰が詰まり、雨が降ったときにあふれます。
浴槽に水をためる。断水に備えます。停電で給水が止まる可能性もあるため、灰が降りはじめた時点で早めにためておいてください。
車を屋根のある場所へ移す。難しければ、シートで覆います。
灰の掃除の仕方
ここは、間違えやすいところです。
水で流さないでください。いちばんやってしまいがちな方法ですが、最も避けるべきものです。
火山灰は水に溶けません。排水口へ流せば、下水管の中で沈殿し、固まって詰まります。個人の家だけの問題では済まず、地域の下水機能を止めることにつながります。
正しい手順は、次のとおりです。
一、装備を整える。防じんマスク、ゴーグル、長袖、手袋、帽子。
二、乾いた状態で集める。ほうきやスコップで、袋に入れます。舞い上がるので、少量ずつ静かに扱ってください。霧吹きで軽く湿らせると、舞い上がりを抑えられます。
三、袋に入れて口を縛る。そして、自治体の指示に従って出してください。通常のごみとは扱いが違います。回収の方法が発表されるまで、庭や敷地内に保管することになる場合もあります。
四、屋根に上らない。灰の上は滑ります。落下事故が起きています。屋根の除灰は、可能なら業者に依頼してください。ただし、三十センチを超える降灰があった場合は、倒壊のおそれがあるため、専門家の判断が必要です。
五、雨どいと排水溝を確認する。屋根から流れ落ちた灰が、雨どいにたまります。詰まれば雨水があふれ、外壁を傷めます。ここも、水で流さずに取り除いてください。敷地内の側溝も同じです。
六、集めた灰を風で飛ばさない。袋の口を縛り、屋外に置く場合はシートで覆います。乾いた灰は、少しの風で再び舞い上がります。一度片づけた灰が、また家の中に入ってくる。これを防ぐだけでも、作業の回数が減ります。
灰が降っているあいだの過ごし方
家の中にとどまることになった場合、どう過ごすかを整理しておきます。
空気を守る
窓とドアを閉め、すき間をふさぎます。それでも、細かい灰は少しずつ入ってきます。
ですから、家の中に「特に守る一部屋」をつくるという考え方が有効です。すき間の少ない部屋を選び、そこを重点的に目張りします。寝るのも、過ごすのも、その部屋にします。家全体を完璧にふさぐより、現実的です。
換気については、判断が難しいところです。密閉し続ければ空気がこもります。降灰が弱まった時間帯を見て、短時間だけ風上側の窓を開ける。そうした調整が必要になります。
停電に備える
照明、情報、そして暑さ寒さ。この三つが問題になります。
照明は、懐中電灯とランタン。ろうそくは、灰とは無関係に火災の危険があるため避けてください。
情報は、電池式のラジオが確実です。スマートフォンは電池を消耗します。
そして、エアコンが使えなくなります。夏なら熱中症、冬なら低体温症の危険が出ます。密閉した部屋にこもるという条件は、夏の停電と相性が悪いことを覚えておいてください。
水を計画的に使う
断水すれば、トイレも問題になります。浴槽にためた水は、飲用ではなく生活用として使います。携帯トイレを備えておくと、水の消費を大きく減らせます。
健康状態に気を配る
呼吸器や心臓に持病のある方、高齢の方、小さなお子さんは、症状が悪化することがあります。常備薬を切らさないでください。受診が必要になっても、交通が止まっていれば病院へ行けません。
気分の面でも、閉じこもりが長引くと負担がかかります。窓の外がずっと灰色というのは、想像以上に応えるものです。数日で終わらない前提で、過ごし方を考えておいてください。
よくある質問
火山から遠ければ関係ありませんか
いいえ。火山灰は風に乗って、数十キロから数百キロ運ばれます。噴石や火砕流が届かない距離でも、灰は届きます。むしろ、灰の影響を受ける人の数でいえば、遠方に住む人のほうが圧倒的に多くなります。
マスクは普通のもので大丈夫ですか
十分ではありません。火山灰の粒子は非常に細かく、布マスクや一般的な不織布マスクの隙間から入ります。国家検定に合格した防じんマスクを、噴火の前に用意しておいてください。降灰が始まってからでは、まず手に入りません。
洗濯物はどうすればよいですか
降灰中と降灰後しばらくは、屋外に干さないでください。室内干しにします。灰がついた衣類は、屋外ではたいてから洗ってください。そのまま洗濯機に入れると、排水口が詰まる原因になります。
雨が降れば灰は流れますか
一部は流れますが、多くは残ります。そして、雨は状況を悪くする方向に働きます。灰が重くなって屋根に負担がかかり、電気を通すようになって停電を招き、路面はさらに滑ります。さらに、灰が積もった斜面では雨によって土石流が発生しやすくなります。詳しくは土石流とは?前ぶれ・逃げる方向・危険な場所の調べ方をご覧ください。
ペットはどうすればよいですか
屋内に入れてください。散歩は控えます。やむを得ず外に出した場合は、帰宅後にブラッシングで灰を落としてから室内に入れてください。体をなめて灰を飲み込むことがあります。飲み水にも灰が入らないよう、容器に蓋をするか室内に置いてください。
降灰の情報はどこで確認できますか
気象庁が、降灰の予報を発表しています。噴火が起きた場合に、どの範囲にどれだけ灰が降るかの見通しが示されます。また、火山灰警報と火山灰注意報という新しい仕組みの導入も検討されています。基準としては、警報が三センチ以上、注意報が〇・一ミリ以上が想定されています。
火山灰は健康に長期的な影響がありますか
短期間の吸入では、目やのどの刺激、咳といった症状が中心です。ただし、大量の灰に長期間さらされる環境では、呼吸器への影響が懸念されます。とくに、除灰作業を繰り返す方は注意が必要です。作業のたびに防じんマスクを着用し、休憩を取ってください。持病のある方は、無理をせず人に頼んでください。
灰が積もった屋根の雪おろしのように、除灰すべきですか
判断が難しいところです。三十センチを超えて雨が降れば倒壊のおそれがあるため、除灰が必要になります。ところが、灰の上は非常に滑りやすく、屋根からの転落事故が起きています。雪おろしと同じ感覚では危険です。可能なかぎり業者に依頼し、自分で行う場合は必ず二人以上で、命綱を使ってください。そして、屋根が傷んでいる建物では、上ること自体が危険です。
降灰後、庭の土や畑はどうなりますか
火山灰は水を通しにくく、地表を覆うと雨水が浸透しなくなります。畑では、作物が育ちにくくなります。厚く積もった場合は、取り除くか、深く耕して土と混ぜる必要があります。ただし、これも量によります。農地の扱いは自治体や農業関係の機関から指示が出ることが多いので、独自の判断で処理する前に確認してください。
噴火警戒レベルとの関係は
噴火警戒レベルは、火口周辺と居住地域の危険を示すもので、遠方の降灰は直接の対象ではありません。レベルが低くても、噴火すれば灰は広範囲に降ります。レベルの意味は噴火警戒レベル1〜5とは?にまとめました。
火山灰の影響がどこまで及ぶかは、富士山が噴火したらどうなる?で具体的に見ています。
まとめ
火山灰への備えについて、整理します。
火山灰は、燃えかすの灰ではありません。マグマが砕けてできた、直径二ミリ未満の岩石やガラスの粒子です。角張っていて、水に溶けず、雨に濡れると重くなります。
厚さによって、起きることが段階的に変わります。微量でも鉄道の地上路線は止まります。三ミリ積もって雨が降れば、碍子の絶縁が低下して停電します。三センチ以上で自動車に支障が出はじめ、乾いた状態でも十センチを超えれば二輪駆動車は走れません。そして三十センチを超えて雨が降れば、木造家屋が倒壊するおそれがあります。
国の対策では、三十センチが原則避難の境界とされています。裏を返せば、それ未満では家にとどまることになります。停電と断水が同時に起こる前提で、数日から一週間分の水と食料を備えてください。
体を守るには、国家検定に合格した防じんマスクとゴーグルが必要です。布マスクでは足りません。コンタクトレンズは外してください。
掃除では、絶対に水で流さないでください。下水管の中で固まり、詰まります。乾いた状態で袋に集め、自治体の指示に従って出します。屋根には上らないでください。
最後にひとつ。火山灰は、火山から遠く離れた地域にこそ、多くの人へ影響を及ぼします。噴石や火砕流は数キロの話ですが、灰は数百キロ届きます。「うちの近くに火山はないから」という理由で備えを見送るのは、この災害に関しては当てはまりません。防じんマスクを家族分そろえる。それだけでも、始める価値があります。
もうひとつ、この災害の性格について書き添えておきます。火山灰の被害は、命を奪う形では現れにくいものです。噴石や火砕流のように、その場で人を殺す現象ではありません。
その代わり、生活のすべてをじわじわと止めます。電気が止まり、水が止まり、電車が止まり、店が閉まり、学校が休みになり、仕事ができなくなる。そして、それが数日では終わりません。
ですから、備えの形も変わります。逃げるための備えではなく、その場にとどまり続けるための備えです。水、食料、電池、常備薬、携帯トイレ。これは、地震や水害で在宅避難をするときの備えと、ほとんど同じ中身になります。
言い方を変えれば、火山灰のための特別な備えは、防じんマスクとゴーグル、そしてラップと養生テープくらいです。残りは、すでに持っているものが役に立ちます。だからこそ、始めるハードルは高くありません。
富士山を含め、日本には百十一の活火山があります。そのすべてが、いつか噴火する可能性を持っています。いつかは分かりませんが、備えの中身は今日そろえられます。そこだけは、はっきりしています。

