【この記事の要約】
溺れている人を助けようとして、毎年多くの方が亡くなっています。警察庁の統計では、令和六年に水難救助活動中に亡くなった方は十四人。そのうち二人は中学生以下でした。飛び込んで助けに行くのは、専門の訓練を受けた人でも難しい行為です。この記事では、飛び込まずに助けるための四つの手順を整理しました。人を集める、浮くものを投げる、通報する、陸から届かせる。あわせて、溺れている人が「溺れているように見えない」理由、海の一一八番と一一九番の使い分け、投げるものとして何が使えるか、そして助け上げた後にすることをまとめました。子どもに何を教えるべきかについても書いています。
結論からお伝えします。溺れている人を見つけても、水に入らないでください。
冷たい言い方に聞こえるかもしれません。目の前で人が沈もうとしているのに、見ているだけでいろというのか、と思われるかもしれません。
そうではありません。飛び込まない方が、助かる確率が上がるのです。飛び込めば、助からない人が二人に増えます。この記事は、その理由と、代わりに何をするかについて書いています。
私は防災士として水辺の相談を受けることがありますが、この話題はいつも空気が重くなります。当然だと思います。誰かが溺れているのを黙って見ていられる人は、いません。だからこそ、飛び込む以外の選択肢を、あらかじめ知っておく必要があります。手が空いていれば、人はそちらを選べます。
統計が示していること
警察庁が公表している「令和六年における水難の概況等」に、行為別の内訳があります。そのなかに、水難救助活動という項目があります。
令和六年、水難救助活動中に亡くなった方は十四人でした。そのうち二人は、中学生以下です。
過去の数字も見ておきます。
| 年 | 水難救助活動中の死者・行方不明者 |
|---|---|
| 令和元年 | 10人 |
| 令和2年 | 5人 |
| 令和3年 | 11人 |
| 令和4年 | 12人 |
| 令和5年 | 5人 |
| 令和6年 | 14人 |
毎年、数人から十数人が、人を助けようとして命を落としています。
そして、この数字には表れないものがあります。助けに行った人だけが亡くなり、溺れた人は助かったという事例。逆に、二人とも亡くなったという事例。どちらも現実に起きています。
水難事故全体の統計は海難事故・水難事故はなぜ起きる?にまとめました。令和六年の死者・行方不明者は八百十六人で、水難に遭った人の四十六・五パーセントにあたります。
なぜ飛び込むと助けられないのか
理由は、いくつも重なっています。
溺れている人は、しがみつきます
これが最大の理由です。
溺れかけている人は、呼吸を求める本能に支配されています。理性的な判断はできません。近くに浮くものがあれば、何であれつかみ、体を持ち上げようとします。
助けに来た人は、その「浮くもの」になります。肩に手をかけ、頭を押し下げ、自分の顔を水面上に出そうとします。悪意はありません。反射です。
結果として、助けに来た人が水中に沈みます。振りほどこうとしても、力を抜くことはありません。生きようとする力は、想像以上に強いものです。
服を着たまま泳ぐのは、想像以上に難しい
水難事故を目撃するのは、たいてい水着でいるときではありません。服を着て、靴を履いている状態です。
濡れた服は重くなり、水の抵抗を増やします。ふだんプールで泳げる人でも、着衣のまま同じようには泳げません。まして、流れがあれば話は別です。靴を履いたままであれば、足を動かすこと自体が重労働になります。
助ける側もパニックになります
知っている人が溺れていれば、冷静ではいられません。距離の判断が甘くなり、自分の体力を過大に見積もります。
そして、水に入ってしまうと引き返せなくなります。途中で「無理だ」と判断して戻るという選択が、心理的にできなくなるのです。相手が目の前にいるほど、その傾向は強くなります。
プロは道具を持っています
ライフセーバーや救助隊は、素手で泳いで行きません。浮力のある器具を持ち、それを溺者との間に置きます。しがみつかれる位置に、自分の体を入れないためです。
訓練を受けた人ですら、直接つかまれない工夫をしている。これが、素手での救助がどれほど危険かを物語っています。
溺れている人は、溺れているように見えません
ここは、多くの方が驚く部分です。
映画やテレビでは、溺れている人は手を振り、大声で助けを呼びます。実際の溺水は、まったく違います。静かで、目立たず、短時間で終わります。
知られている特徴を挙げます。
声を出せません。呼吸が最優先になるため、話すための空気が回りません。叫ぶことができないのです。
手を振れません。本能的に、腕を横に広げて水面を押さえる動きになります。体を持ち上げようとする反射です。誰かに向かって手を振る余裕はありません。
時間が短い。水面にいられるのは、二十秒から六十秒程度とされています。その後は沈みます。気づいてから対応できる時間は、一分もありません。
姿勢が縦になります。泳ぐ姿勢ではなく、直立に近い形で、頭が水面すれすれの位置にあります。口が水面の上と下を行き来します。
ですから、見分けるときのポイントは次のようになります。
顔が水面から出たり沈んだりを繰り返している。目がうつろで、焦点が合っていない。あるいは目を閉じている。髪が顔にかかったまま、払おうとしない。はしごを登るような、上下方向の動きをしている。声をかけても返事がない。体は縦向きで、前に進んでいない。
逆に言えば、水しぶきを上げて騒いでいる子どもは、たいてい溺れていません。静かになったときこそ、確認してください。
プールや海水浴場で、家族のすぐそばで子どもが溺れていたのに気づかなかった、という事例があります。不注意ではありません。溺水が、注意を引く形をしていないからです。
ですから、水辺で子どもを見るときは、声が聞こえているかどうかを目安にしてください。にぎやかに話している間は、呼吸ができています。声が途切れたら、姿を確認する。この単純な基準は、遠くからでも使えます。
飛び込まずに助ける四つの手順
では、何をするか。順番に整理します。
一、大声で人を集める
まず、一人で対応しないことです。「誰か来てください」「人が溺れています」と叫びます。
人が集まれば、通報する人、浮くものを探す人、下流や岸で待つ人と、役割を分けられます。近くに監視員やライフセーバーがいれば、真っ先に知らせます。訓練を受けた人が一人いるだけで、状況はまったく変わります。
叫ぶときは、「助けて」ではなく「人が溺れています」と具体的に言ってください。何が起きているかが伝われば、聞いた人がすぐ動けます。そして、特定の誰かを指さして「あなたは一一九番へ」と役割を割り振ると、実行される確率が上がります。全体に向かって呼びかけると、その場にいる全員が「誰かがやるだろう」と考えてしまうためです。これは、水辺に限らず、あらゆる救助の場面に共通することです。
二、浮くものを投げる
溺れている人に必要なのは、引き上げてくれる人ではありません。つかまるものです。
つかまるものがあれば、その人は浮いていられます。浮いていられれば、呼吸ができます。呼吸ができれば、救助が間に合います。
投げられるものは、身の回りにたくさんあります。
| もの | 使い方のコツ |
|---|---|
| ペットボトル | 中身を少し残すと重みが出て、遠くへ投げやすい |
| クーラーボックス | 中身を出して蓋を閉める。浮力が大きい |
| 空のポリタンク | 蓋を閉めれば強力な浮き。取っ手もつかみやすい |
| ランドセル・リュック | 中身が入っていても浮くことがある |
| レジ袋 | 空気を入れて口を縛る。複数あるとよい |
| 浮き輪・ビート板 | そのまま投げられる |
| 発泡スチロールの箱 | 軽いので、風がある日は届きにくい |
ペットボトルは、空のままだと軽すぎて風に流されます。中身を三分の一ほど残すと、投げやすくなります。この一手間は覚えておく価値があります。
ロープが付けられるものがあれば、なお良いです。つかまった後で引き寄せられます。ただし、ロープを体に巻いて自分が入るのは危険です。流れのなかでは、巻いたロープが体を締めつけ、水中に引き込む力に変わります。
三、通報する
番号の使い分けを整理します。
| 場所 | 番号 | つながる先 |
|---|---|---|
| 海 | 118番 | 海上保安庁 |
| 川・湖・用水路・プール | 119番 | 消防 |
| 迷ったとき | 119番 | 消防(必要に応じて連携) |
一一八番は、海の事故の専用窓口です。海上保安庁につながります。ただ、この番号の認知度は高くありません。ご存じなかった方は、この機会に覚えていただければと思います。
とはいえ、緊急時に番号を思い出せないこともあります。その場合は一一九番でかまいません。連携されます。迷って通報が遅れることの方が、はるかに問題です。
伝えることは、場所、状況、人数です。場所が説明しにくい場合は、近くの建物や看板、電柱の表示を読み上げます。海水浴場であれば、その名前を伝えます。
四、陸から届かせる
溺れている人が岸の近くにいるなら、水に入らずに届かせる方法があります。
木の枝、竿、棒、タオル、ロープ。長さのあるものを差し出します。このとき、自分は必ず低い姿勢をとってください。腹ばいになるか、しゃがみます。立ったまま手を伸ばすと、引っ張られて自分が落ちます。
可能であれば、後ろから誰かに体を押さえてもらいます。あるいは、片手で手すりや木につかまります。
川の場合は、追いかけずに先回りしてください。岸を走る方が、流されている人より速く移動できます。流れがゆるむ場所へ先に着き、枝やロープを持って待ち構えます。川での対応は川の水難事故はなぜ多い?にまとめました。
投げるのは、思っているより難しい
浮くものを投げる、と書きました。実際にやってみると、これが簡単ではありません。
軽いものは、風に流されます。空のペットボトルを十メートル先へ正確に届けるのは、かなり難しいものです。だからこそ、中身を少し残すという工夫が効いてきます。
また、溺れている人は、飛んできたものを目で追って手を伸ばすという動作ができないことがあります。目の前、手の届く範囲に落とすのが理想ですが、そこまでの精度は期待できません。
ですから、次の点を意識してください。
複数投げる。一つが外れても、二つ目、三つ目があります。人が集まっていれば、手分けして次々に投げられます。
少し上流側、あるいは風上に投げる。流れや風で、ものは移動します。人のいる位置にぴったり投げると、届く頃には流されています。
紐が付けられるなら付ける。外れても引き戻して投げ直せます。ただし、紐を自分の体に巻きつけないでください。引き込まれます。
そして、投げる担当と通報する担当は分けます。一人で両方はできません。だから、最初の手順が「人を集める」なのです。
通報で伝えること
通報したとき、何を聞かれるかを知っておくと、慌てずに済みます。
場所。これが最も重要で、最も伝えにくい情報です。海水浴場や河川敷であれば、施設の名前を伝えます。名前が分からない場合は、近くの建物、橋、看板、駐車場、電柱に付いている表示を読み上げます。地図アプリで現在地を確認して伝えるのも確実です。
状況。何人が、どのあたりで、どうなっているか。「沖に流されている」「沈んで見えなくなった」「岸から二十メートルくらい」といった具合です。
人数と年齢。大人か子どもか。何人か。
いま何をしているか。浮き輪を投げた、まだ浮いている、といった情報です。
自分の連絡先。折り返しの連絡が来ることがあります。
そして、相手が切るまで電話を切らないでください。追加の指示や、到着までの間にできることを教えてもらえます。
助け上げた後にすること
無事に引き上げられたら、そこで終わりではありません。
まず、意識と呼吸を確認します。声をかけ、反応があるかを見ます。呼吸がない、あるいは普段どおりでない場合は、すぐに心肺蘇生を始め、周囲に一一九番と自動体外式除細動器の手配を頼みます。
心肺蘇生の手順は、消防署や日本赤十字社などが実施している救命講習で学べます。水辺へよく行く方は、一度受けておく価値が大きい講習です。
意識があっても、体を冷やさないようにします。濡れた服を脱がせ、乾いたタオルや衣類でくるみます。水から上がった後は、風で急速に体温が奪われます。
そして、これが重要です。意識があり、元気に見えても、必ず医療機関を受診してください。
水を飲み込んだり吸い込んだりした場合、その場では何ともなくても、後から呼吸の状態が悪くなることがあります。咳が続く、呼吸が苦しそう、ぐったりしている、顔色が悪い、いつもと様子が違う。こうした変化があれば、ためらわずに受診してください。「もう大丈夫そうだから」で帰宅させないことです。
救助の連鎖は、どう起きるのか
助けに行った人が次に溺れる。この連鎖には、いくつかの決まった型があります。知っておくと、自分がその型に入りかけたときに気づけます。
子どもが流され、親が飛び込む。最も多い型です。判断する余地はなく、体が先に動きます。二〇二六年八月に新潟市の角田浜海水浴場で起きた事故でも、沖へ流されたフロートに向かって、波打ち際にいたお子さんが泳いでいったと報じられています。中学一年の姉と小学三年の弟が亡くなり、父親が救助されました。三人ともライフジャケットを着用していなかったと報じられています。
一人目を助けた人が、体力を使い果たす。助けること自体には成功しても、そこで力尽きるという型です。溺者を支えながら泳ぐのは、単独で泳ぐより何倍も消耗します。
二人目、三人目と続く。最初の一人が戻ってこないので、次の人が入ります。そして同じことが起きます。集団で水辺にいるときに起こりやすい型です。
浅いと思って入る。「あそこは足がつくはずだ」という思い込みで入り、地形が違っていたという型です。川では、浅瀬のすぐ隣が深いことがあります。
これらに共通するのは、誰も無謀なことをしたつもりがないという点です。全員が、その場では合理的だと思って行動しています。
だからこそ、事前の取り決めが効きます。「うちは飛び込まない」と先に決めておく。その場の判断に任せると、人はほぼ確実に飛び込みます。
救命講習を受けておく
この記事に書いたことは、読んで知識にはなりますが、体は動きません。心肺蘇生も、浮くものを投げることも、実際にやってみるのとでは違います。
各地の消防署や日本赤十字社などが、救命講習を実施しています。数時間で、心肺蘇生と自動体外式除細動器の使い方を学べる講習が一般的です。多くは無料か、低額で受けられます。
また、着衣のまま水に浮く体験ができる講習が、学校やプールで行われていることもあります。服を着たまま水に入るとどうなるかを、一度でも体験しておくと、判断の質が変わります。「服が重い」という感覚を知っている人は、着衣で飛び込むことの危険を実感として理解できます。
水辺へよく出かけるご家庭、小さなお子さんがいるご家庭では、受けておく価値が大きいと思います。夏の前に、家族で申し込んでみてはいかがでしょうか。
監視員のいる場所を選ぶという判断
ここまでの話をひっくり返すようですが、最も効果的なのは、そもそも自分が救助する側に立たなくて済む場所を選ぶことです。
開設された海水浴場には、監視員やライフセーバーがいます。訓練を受け、器具を持ち、複数人で連携します。異変に気づく速さも、対応の確実さも、一般の人とは比べものになりません。
統計の数字を思い出してください。水難に遭った人のうち、四十六・五パーセントが亡くなっています。ところが、この数字には監視のない場所での事故が多く含まれます。見ている人がいるかどうかは、結果を大きく左右します。
人が少なくて快適に見える砂浜は、誰も見ていない砂浜でもあります。行き先を決める段階で、開設されているかどうかを確認してください。これは、当日の判断ではなく、計画の段階で決められることです。
子どもに教えておくこと
統計で、中学生以下が二人、水難救助活動中に亡くなっています。子どもが、誰かを助けようとして亡くなっているということです。
友達が溺れたら、助けに行く。それは、子どもとして自然で、まっすぐな反応です。責められることではありません。だからこそ、事前に伝えておく必要があります。
伝えるべきことは、三つに絞れます。
一、絶対に水に入らない。どんなに近くても、どんなに浅く見えても、入らない。
二、大人を呼ぶ。大声で叫んで、大人を連れてくる。走って呼びに行く。これが子どもにできる最も有効な行動です。
三、浮くものを投げる。ペットボトルでも、浮き輪でも、投げられるものを投げる。
伝えるときの言い方も、少し工夫していただきたいところです。「助けに行ってはいけません」だけだと、見捨てるように聞こえます。そうではなく、「入らないで大人を呼ぶのが、いちばん助かる方法だよ」と伝えてください。助ける方法を教えるのであって、助けるなと教えるのではありません。
この違いは、実際の場面で効いてきます。「してはいけないこと」だけを教わった子は、その瞬間に何をすればいいか分かりません。やるべきことを持っている子は、そちらを実行できます。
その前にできること
ここまでは、事故が起きた後の話でした。最後に、起きる前の話をさせてください。
救助の場面に立たされないためにできることが、いくつかあります。
監視員のいる海水浴場を選ぶ。開設された海水浴場には、訓練を受けた人がいます。異変に気づくのも、対応するのも、素人よりはるかに早くなります。
ライフジャケットを着せる。浮いていられれば、溺水そのものが起きません。救助が必要な状況にならないということです。選び方はライフジャケットの選び方にまとめています。
浮くものを手元に置く。クーラーボックスや浮き輪を、水辺の近くに置いておきます。いざというとき、探す時間がなくなります。
見る役を決める。「みんなで見ている」は、誰も見ていないのと同じです。時間で区切って交代します。
静かになったら確認する。溺水は静かに起こります。にぎやかなときより、静かになったときに目を向けてください。
よくある質問
どうしても飛び込みたくなったら、どう考えればよいですか
そう感じるのが普通です。そのうえで、ひとつだけ思い出してください。あなたが沈めば、助けられる人が一人減り、助けを必要とする人が一人増えます。浮くものを投げて通報する方が、結果として相手の生存確率を上げます。これは冷淡さではなく、確率の話です。
泳ぎに自信がありますが、それでも入らない方がよいですか
泳力があっても、しがみつかれる問題は解決しません。訓練を受けたライフセーバーですら、浮力器具を間に置いて、直接つかまれないようにしています。問題は泳げるかどうかではなく、相手の反射に対処できるかどうかです。どうしても入る場合は、必ず浮くものを持ち、相手には直接近づかず、浮くものだけを届けてください。
一一八番はどんなときに使いますか
海で起きた事故全般です。人が溺れている、船が転覆した、不審な船を見た、油が流出している、といった場合に海上保安庁につながります。海水浴場、堤防、磯、船上での事故が対象です。川や湖、用水路は一一九番です。迷ったら一一九番でかまいません。
投げるものが何もないときはどうすればよいですか
まず、探す前に通報してください。そのうえで周囲を見渡します。クーラーボックス、ペットボトル、リュック、レジ袋、ビーチボール。水辺には、意外と浮くものがあります。棒や枝で届く距離なら、腹ばいになって差し出します。何もない状態で飛び込むのが、最も避けたい選択です。
溺れている人が沈んでしまったら、もう助からないのですか
諦める必要はありません。冷たい水では、時間が経ってから救助されて回復した事例もあります。沈んだ位置の目印を覚え、通報し、救助を待ってください。目印は、岸の建物や木など、動かないものを二つ以上組み合わせると位置が特定しやすくなります。この情報は、救助隊にとって非常に価値があります。
助け上げた後、水を吐かせた方がよいですか
無理に吐かせようとする必要はありません。呼吸と意識の確認を優先してください。呼吸がなければ心肺蘇生を始めます。お腹を押して水を出そうとすると、かえって胃の内容物が気道に入る危険があります。手順に迷わないためにも、救命講習の受講をおすすめします。
助けようとして自分が亡くなったら、責任を問われますか
善意で救助にあたった人が、その結果について過度に責められることは一般的ではありません。ただ、この記事でお伝えしたいのは法的な話ではありません。助けに向かった方が亡くなると、残された家族には二重の悲しみが残ります。そして、助けようとした相手も助からないことが多いのです。あなたが浮いて生きていることが、救助にとって最も価値があります。
自分が流されている人と一緒に浮くことはできますか
訓練を受けていない人には、おすすめできません。相手はしがみついてきます。どうしても近づく場合は、必ず浮くものを間に置き、自分の体には触れさせないでください。浮き輪やクーラーボックスを押して届け、相手がつかまったのを確認してから、そのまま押して岸へ向かうという形です。相手の背後から近づく方が、しがみつかれにくくなります。それでも、可能なかぎり陸から対応する方が確実です。
夜や早朝に事故を見つけたらどうすればよいですか
暗い中での救助は、昼間よりさらに困難です。位置を見失いやすく、二次事故の危険も上がります。まず通報し、次に懐中電灯やスマートフォンのライトで水面を照らしてください。光は、溺れている人の位置を救助隊に知らせる役にも、本人に岸の方向を示す役にも立ちます。そのうえで、浮くものを投げます。暗いときこそ、水に入らない判断を徹底してください。
プールでも同じ考え方でよいですか
基本は同じですが、プールには監視員がいることが多く、水深も一定で、流れもありません。まず監視員を呼んでください。それが最も確実です。ただし、溺水が静かに起こるという性質は、プールでも変わりません。家族が近くにいても気づかない事例があります。静かになった子どもに目を向けてください。
まとめ
溺れている人を見つけたときの対応について、整理します。
令和六年、水難救助活動中に亡くなった方は十四人。そのうち二人は中学生以下でした。助けに向かった人が次に溺れるのが、水難事故の典型的な形です。
溺れている人は、声を出せず、手も振れません。姿勢は縦になり、水面にいられるのは二十秒から六十秒程度とされています。静かで、目立たず、短時間で終わります。水しぶきを上げて騒いでいる子より、静かになった子を確認してください。声が途切れたら、姿を見る。この基準を家族で共有してください。
助けるときの手順は四つです。大声で人を集める。浮くものを投げる。海なら一一八番、それ以外は一一九番へ通報する。そして、陸から低い姿勢で届かせる。川であれば、追いかけずに岸を走って下流へ先回りします。
投げるものは、ペットボトル、クーラーボックス、空のポリタンク、リュック、空気を入れたレジ袋。ペットボトルは中身を少し残すと投げやすくなります。
助け上げた後は、意識と呼吸を確認し、必要なら心肺蘇生を始めます。体を冷やさないようにし、元気に見えても必ず医療機関を受診してください。
子どもには、三つだけ伝えます。水に入らない。大人を呼ぶ。浮くものを投げる。「助けに行くな」ではなく、「これがいちばん助かる方法だよ」という伝え方をしてください。
最後にひとつ。この記事の内容を、水辺へ行く前に家族で一度話しておいてください。飛び込まないという判断は、その場で考えて出せるものではありません。あらかじめ決めてあるからこそ、実行できます。そして、その決めごとが、あなた自身の命を守ります。
最後に、この記事を書いた理由を書かせてください。水難事故の記事の多くは、溺れる側の視点で書かれています。どう泳ぐか、どう浮くか、どう備えるか。しかし現実には、多くの人は溺れる側ではなく、それを見つける側に立ちます。そのときに何をするかを知らないまま水辺へ行くと、善意がそのまま危険につながります。
飛び込まないという判断は、勇気がないからではありません。むしろ、その場で最も冷静さを要する判断です。そして、その冷静さは、あらかじめ知っていることからしか生まれません。知識が、そのまま二人分の命になる。水難事故という分野では、これが文字どおり成り立ちます。

