海難事故・水難事故はなぜ起きる?死者816人の統計と、波30センチでも溺れる理由を防災士が解説【2026年最新】

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【この記事の要約】
海や川の事故は、荒れた日ではなく、穏やかに見える日に起きています。警察庁の統計では、令和六年の水難は発生件数千五百三十五件、水難者千七百五十三人で、いずれも過去十年で最多でした。亡くなった方と行方不明の方は八百十六人にのぼります。この記事では、その統計を読み解きながら、水難事故が起きる仕組みを整理しました。波の高さと危険度が一致しない理由、浮き具が沖へ流れる理由、そして助けに向かった人が巻き込まれる連鎖について書いています。あわせて、ライフジャケットの考え方、溺れたときの背浮き、家族で出かける前に決めておくことをまとめました。二〇二六年八月に新潟市で起きた事故も取り上げます。

結論からお伝えします。水難事故は、危険に見える日ではなく、安全に見える日に起きています。

波が高い日、風が強い日には、人は海に入りません。入っても、警戒しています。事故が集中するのは、その逆です。空が晴れ、波が穏やかで、誰もが「今日は大丈夫」と判断する日。そういう日に、人は油断したまま水に入り、油断したまま流されます。

私は防災士として、知人から相談を受けることがあります。夏になると増えるのが、子どもを連れて海や川へ行くときの相談です。そのとき私が最初にお伝えするのは、天気予報の見方ではありません。「浮き具は安全装備ではありません」ということです。

理由は、この後の統計と事例で説明していきます。

目次

二〇二六年八月、新潟市で起きた事故

まず、記憶に新しい事例から入らせてください。報道されている事実の範囲で整理します。

二〇二六年八月十日の正午ごろ、新潟市西蒲区の角田浜海水浴場で事故が起きました。父親と二人のお子さんの三人が、午前十時半ごろに海水浴場を訪れていました。

父親と長女は、水上に浮かべて遊ぶフロート遊具に乗っていました。長男は、波打ち際で一人で遊んでいたと報じられています。

そのフロートが、沖の側へ流されました。それを見た長男が、泳いでフロートの方向へ向かいます。父親が長男をフロートに乗せようとしたとき、フロートが波にあおられて転覆し、三人が水に落ちました。

中学一年の長女と、小学三年の長男が亡くなりました。父親は救助され、意識のある状態でした。

そして、報じられている二つの事実があります。三人ともライフジャケットを着用していませんでした。そして、当時の波の高さは三十センチほどで、うねりを伴っていました。

波の高さ三十センチです。数字だけを見れば、これは穏やかな海です。膝にも届きません。

ご家族の判断を責めるためにこの事故を取り上げるのではありません。むしろ逆です。この状況で危険を感じ取れる人は、ほとんどいないと思うからです。だからこそ、仕組みとして知っておく価値があります。

とくに夏の2か月に事故が集中する理由は、「お盆は溺れるから泳ぐな」は迷信?でくわしく扱いました。言い伝えの由来と、実際に危険が高まる条件を分けて整理しています。

統計が示していること

感覚の話をする前に、数字を見ておきます。警察庁が公表している「令和六年における水難の概況等」から、主な数値を引用します。

件数は過去十年で最多

項目 令和6年 前年比
発生件数 1,535件 +143件
水難者 1,753人 +86人
うち死者・行方不明者 816人 +73人
負傷者 304人 +14人
無事救出 633人 -1人

発生件数と水難者は、いずれも過去十年で最も多い数字です。減っていません。増えています。

ここで、私が計算した数字をひとつ挙げます。水難に遭った千七百五十三人のうち、亡くなった方と行方不明の方は八百十六人。割合にすると四十六・五パーセントです。

これは、かなり異常な数字だと思っています。交通事故であれば、負傷して助かる方が圧倒的多数です。ところが水難では、事故に遭った人の半数近くが命を落としています。水の事故は、起きた時点でほぼ助からない。統計はそう語っています。

どこで起きているか

亡くなった方と行方不明の方、八百十六人の場所別の内訳です。

場所 人数 構成比 令和元年
372人 45.6% 378人
河川 288人 35.3% 225人
用水路 100人 12.3% 57人
湖沼池 39人 4.8% 23人
その他 14人 1.7% 6人
プール 3人 0.4% 6人

海と河川で、八割を占めます。ここは想像どおりだと思います。

目を引くのは、用水路です。令和元年に五十七人だったものが、令和六年には百人。五年で倍近くに増えています。用水路は、レジャーの場所ではありません。生活の場のすぐそばにあります。この増加の背景には、高齢化や、大雨で増水した用水路への転落といった要因が考えられます。水難事故は、海水浴場だけの話ではないということです。

何をしていて亡くなっているか

次に、行為別の内訳です。ここで、多くの方の予想が裏切られます。

行為 人数 構成比
魚とり・釣り 191人 23.4%
作業中 65人 8.0%
水遊び 45人 5.5%
水泳 41人 5.0%
通行中 41人 5.0%
シュノーケリング 20人 2.5%
サーフィン 18人 2.2%
スキューバダイビング 16人 2.0%
水難救助活動 14人 1.7%
ボート遊び 7人 0.9%

最も多いのは、魚とり・釣りです。百九十一人。水泳中の四十一人の、四倍以上にあたります。

水難事故というと、泳いでいて溺れる姿を思い浮かべます。しかし実際には、泳ぐつもりのなかった人が、圧倒的に多く亡くなっています。釣りをしていて、作業をしていて、あるいはただ通りかかって。水着を着ていない人が、水で死んでいるのです。

そしてもうひとつ。表の下の方に、水難救助活動という項目があります。十四人。これは、溺れた人を助けようとして亡くなった方の数です。この項目については、後でもう一度触れます。

年齢によって、結果が大きく違う

ここが、この統計でいちばん重い部分だと私は思っています。

水難に遭った人の数と、亡くなった人の数を、年齢層ごとに並べてみます。右端の割合は、私が計算したものです。

年齢層 水難者 死者・行方不明者 割合(筆者算出)
中学生以下 191人 28人 14.7%
高校生相当 44人 9人 20.5%
高校卒業相当から65歳未満 850人 286人 33.6%
65歳以上 599人 429人 71.6%
全体 1,753人 816人 46.5%

六十五歳以上の方は、水難に遭うと、七割以上が亡くなっています。中学生以下の十四・七パーセントと比べると、五倍近い差です。

体力の差、心疾患などの持病、そして水温の影響が重なると考えられます。冷たい水に落ちたときの体への負担は、年齢とともに大きくなります。

この数字は、ご高齢のご家族がいる方にこそ知っていただきたいものです。釣りが趣味の親御さんがいらっしゃるなら、なおさらです。釣りは、統計上、最も人が亡くなっている水辺の行為です。そして高齢者は、落ちたときに助かる確率が最も低い年齢層です。この二つが重なる状況が、実際にあります。

子どもは、海より川で亡くなっている

中学生以下に絞ると、様子がまた変わります。亡くなった中学生以下は二十八人。その場所別の内訳です。

場所 人数 構成比
河川 18人 64.3%
5人 17.9%
用水路 3人 10.7%
プール 1人 3.6%
その他 1人 3.6%

大人を含めた全体では海が最多でしたが、子どもでは河川が六割を超えます。海の三倍以上です。

行為別で見ると、水遊びが十五人で五十三・六パーセント。泳ぐつもりではなく、水辺で遊んでいて亡くなっています。

川が危険な理由は、いくつもあります。流れがあること。水温が場所によって急に変わること。上流の雨で急に増水すること。そして、浅く見える場所のすぐ隣が深いことです。川底は平らではありません。一歩踏み出した先が、急に胸まで来ることがあります。川の危険については川の防災 完全ガイドでも扱っています。

子どもの水難がなぜ川に集中するのかは、川の水難事故はなぜ多い?で詳しく扱っています。流されたときの姿勢が海とは違う点も、そちらで説明しました。

どの都道府県で多いのか

発生件数を都道府県別に見ると、上位は次のようになっています。

順位 都道府県 発生件数
1 沖縄県 128件
2 東京都 107件
3 岐阜県 68件

沖縄県が最多なのは、海に囲まれ、観光で訪れる方が多いことを考えれば理解しやすいと思います。

意外なのは、二位が東京都である点です。そして三位の岐阜県は、海に面していません。

この二つが上位に入るという事実は、水難事故の地理的なイメージを修正してくれます。海水浴場のある県だけの問題ではないのです。都市部の河川、内陸の川や用水路でも、同じだけ人が水難に遭っています。「うちは海が遠いから関係ない」は、統計に照らすと成り立ちません。

波三十センチで、なぜ流されるのか

ここから、統計の話を離れて、仕組みの話をします。角田浜の事故で報じられた「波の高さ三十センチ、うねりを伴う」という条件が、なぜ危険だったのかという話です。

波の高さは、危険度を表さない

波の高さは、水面の上下の幅を表す数字です。しかし、人を沖へ運ぶ力は、上下の動きではなく、水平方向の流れが生みます。この二つは、必ずしも一致しません。

とくに注意が必要なのが、うねりです。うねりは、遠くの海で発生した風の影響が、波となって伝わってきたものです。発生源は、数百キロ、ときには千キロ以上離れた場所にあります。

つまり、その場所が晴れていて、風もなくても、うねりは届きます。遠くの台風が生んだうねりが、快晴の海岸に打ち寄せる。これは珍しいことではありません。

うねりの特徴は、周期が長いことです。ふつうの風波よりも、波と波の間隔が長い。見た目には、ゆったりとした穏やかな波に見えます。ところが、長い周期の波はエネルギーを深いところまで持っており、水を動かす力が大きい。見た目がいちばん当てにならないタイプの波です。

いま台風が日本に近づいているときも、同じことが起きます。台風の位置から遠く離れた海岸に、先回りしてうねりが届きます。台風の最新の状況は台風15号の進路と対策にまとめています。海へ出かける予定があるなら、行き先の天気だけでなく、日本の周辺に台風があるかどうかを確認してください。

沖へ向かう流れがある

岸に打ち寄せた水は、どこかへ戻らなければなりません。その戻り道が、局所的に強い流れになることがあります。これが、岸から沖へ向かう流れです。

速いところでは、人が泳いで戻れる速さを超えます。一般に、この流れの速さは秒速二メートルに達することがあるとされています。競泳の選手でも、これに正面から逆らって泳ぎ続けるのは困難です。ましてや一般の人が、パニックの状態で逆らうことはできません。

この流れは、堤防や突堤の脇、消波ブロックの周辺、砂浜の中で波が立っていない帯状の場所などにできやすいとされます。波が立っていない場所は、穏やかなのではなく、水が沖へ出ていく通り道である場合があります。「あそこは波がなくて安全そうだ」という判断が、まさに逆になることがあるのです。

この流れに巻き込まれたときの原則は、はっきりしています。岸に向かって泳がないこと。流れは岸と直角に沖へ向かうので、岸と平行の方向へ泳いで、流れの帯から横に外れます。あるいは、逆らわずに浮いて待ちます。流れは沖のどこかで弱まります。

ただし、これは知識として知っていても、実行は難しいものです。溺れかけている人間が、岸に背を向けて横方向へ泳ぐという判断をするのは、相当に困難です。だからこそ、そもそも入らない、そして浮くものを身につけておくという手前の対策が効いてきます。

この流れの正体が離岸流です。できやすい場所、砂浜から見分ける4つのサイン、巻き込まれたときの手順は離岸流とは?見分け方と脱出方法にまとめました。海へ行く前に読んでおいていただきたい内容です。

浮き具は、沖へ運ぶ道具でもある

ここが、私が最初にお伝えしたいと書いた点です。

浮き輪、エアマット、ボート型のフロート。これらは水に浮かびます。だから、安全装備のように見えます。ところが、水難事故の観点では、性格がまったく違います。

浮き具は、水面から上に大きく出ています。ということは、風を受けます。しかも軽い。人が乗っていても、水中に沈んでいる部分はわずかです。だから、風と流れの両方に押されて、簡単に沖へ動きます。

そして、動きはじめたときに問題が起きます。フロートに乗ったまま岸へ戻ろうとしても、手でかく力では風に勝てません。飛び降りて泳ごうとすれば、今度は浮くものを失います。乗っていても戻れず、降りても戻れない。この状態に、静かに入り込んでいきます。

岸から見ていると、この状況は事故に見えません。ただ、少しずつ遠ざかっているだけに見えます。異変に気づいたときには、すでに距離が開いています。

浮き具を使うなとは申しません。使うのであれば、次の三つを守っていただきたいと思います。

ひとつ、ライフジャケットを併用する。浮き具から落ちた瞬間に、体が浮く状態を確保しておきます。

ふたつ、大人が付き添う。それも、岸から見ているのではなく、水の中で一緒にいる形です。

みっつ、岸との距離を決めておく。「あの旗より沖には出ない」というように、目印で決めます。距離の感覚は、水の上ではあてになりません。

助けに行くと、助けられない

ここは、書くのがつらい部分です。しかし、最も重要な部分でもあります。

統計に「水難救助活動」という項目がありました。令和六年に十四人が、人を助けようとして亡くなっています。中学生以下でも二人です。

溺れている人を見つけたとき、飛び込んで助けに行くのは自然な行動です。それが家族なら、なおさらです。ためらう人はいないと思います。

しかし、水の中の救助は、専門の訓練を受けた人でも難しい行為です。溺れている人は、パニックの状態にあります。近づいた人にしがみつき、その人を沈めます。悪意ではありません。呼吸を求める反射です。結果として、二人とも沈みます。

これが、水難事故が一人で終わらない理由です。一人が溺れると、助けに向かった人が次に溺れます。

ですから、覚えておいていただきたいことがあります。

飛び込まない。まず、これです。

浮くものを投げる。クーラーボックス、ペットボトル、空のポリタンク、ランドセル。浮くものなら何でもかまいません。溺れている人に必要なのは、引き上げてくれる人ではなく、つかまるものです。

すぐに通報する。海であれば海上保安庁の一一八番、川やそれ以外であれば一一九番です。一一八番という番号は、知らない方が多いので、この機会に覚えていただければと思います。

大声で人を集める。一人で対応しないことです。

飛び込まずに助けるための手順は、溺れている人を見つけたら?にまとめました。投げるものの選び方や、溺れている人が「溺れているように見えない」理由も扱っています。

角田浜の事故では、沖へ流されたフロートに向かって、お子さんが泳いでいったと報じられています。誰かが困っているのを見たら助けに行く。それは、人として当たり前の反応です。だからこそ、当たり前の反応が危険につながる場面があるということを、あらかじめ家族で話しておく意味があります。

自分が溺れたとき

次に、自分が水に落ちたときの話です。

原則は、泳ごうとしないことです。泳げば体力を消耗し、そのぶん早く沈みます。目指すのは、岸ではなく、浮いたままでいる状態です。救助が来るまで浮いていられれば、助かります。

そのための姿勢が、あおむけに浮く方法です。

やり方は、力を抜いて、あおむけになり、体を大の字に広げます。あごを上げ、耳を水につけます。手足は、水面近くで静かに。動かすとしても最小限です。呼吸だけを意識します。

ここで、多くの方が意外に思う点をひとつ。靴は脱がないでください。とくにスニーカーは中に空気を含み、足を浮かせる助けになります。服も同じで、脱ぐために暴れるより、着たまま浮く方が体温も保てます。

そして、声を出そうとしないことです。叫ぶと肺の空気が抜け、体が沈みます。手を振ろうとして腕を水面から出すのも、同じ理由で不利になります。助けを求める動作が、沈む動作になる。これも水の事故の残酷なところです。

この浮き方は、頭で知っているだけでは、いざというときにできません。各地の消防やプールで、着衣のまま浮く体験ができる講習が行われていることがあります。お子さんがいらっしゃるご家庭では、機会があれば一度体験しておく価値があると思います。

ライフジャケットについて

ここまでの話を、ひとつの装備でかなりの部分カバーできます。ライフジャケットです。

角田浜の事故では、三人とも着用していなかったと報じられています。そして警察庁も、水難の防止対策として、釣りやボートで水辺に行くときは必ず着用するよう呼びかけています。

着用していれば、状況は変わります。フロートから落ちても浮きます。流れに巻き込まれても、浮いたまま流されます。泳げない子どもでも、顔が水面から出ます。「浮いていられる」という一点だけで、水難事故のほとんどの経路が断たれます。

選ぶときの基本を挙げます。

体のサイズに合ったものを選ぶ。これが最も大事です。大きすぎると、水に入った瞬間に浮力で上へずれ、頭が抜けます。子ども用は、体重の区分に合わせて選びます。

股ベルトのあるものを選ぶ。とくに子ども用では必須だと考えてください。上へずれるのを防ぐためのベルトです。

正しく着る。ベルトを締めていない、前を閉じていない状態では、本来の性能が出ません。着せた後、肩の部分を上へ引っ張ってみて、頭が抜けそうにないかを確かめます。

浮き輪の代わりにはならないし、その逆でもない。浮き輪は遊具、ライフジャケットは安全装備です。役割が違います。

桜マークの意味、浮力の基準、子ども用のサイズの合わせ方はライフジャケットの選び方にまとめました。着せた後に肩を引っ張って確かめる手順も、そちらで説明しています。

費用の話をすると、子ども用であれば数千円から手に入ります。海水浴場やキャンプ場で貸し出しを行っている場合もあります。持ち物としては洪水に備える防災グッズ完全リストで扱っているものとも重なりますが、水辺のレジャーでは優先順位が変わります。日焼け止めより先に、ライフジャケットです。

出かける前に家族で決めておくこと

ここまでの内容を、行動の形にまとめます。海や川へ出かける前に、家族で決めておきたいことを五つ挙げます。

一つめ、遊泳区域の中で遊ぶ。海水浴場として開設されている場所には、監視員がいます。開設されていない場所は、見た目が同じ砂浜でも、誰も見ていません。警察庁も、開設の有無と監視員の存在を確認するよう呼びかけています。

二つめ、子どもから目を離さない役を決める。「みんなで見ている」は、誰も見ていないのと同じです。時間を区切って交代制にすると、確実になります。

三つめ、沖へ出る限界を目印で決める。「あのブイまで」「腰の深さまで」と、目に見える形で決めます。数字ではなく目印にするのがコツです。

四つめ、ライフジャケットを着せる。泳げる子でも着せます。泳力と、流れに勝てるかどうかは別の話です。

五つめ、誰かが流されたときの手順を先に話しておく。飛び込まない。浮くものを投げる。海なら一一八番、それ以外なら一一九番。人を集める。この四つを、出発前に声に出して共有しておきます。

五つめが、いちばん省略されがちで、いちばん効きます。事故が起きた瞬間に手順を考えるのは不可能だからです。

この五つは、出発前の車の中でも共有できます。時間にすれば一分ほどです。楽しい予定の直前に事故の話をするのは気が進まないかもしれませんが、話しておけば、その後は安心して遊べます。備えは、楽しみを減らすためのものではありません。心配しながら見張り続ける一日と、決めごとを共有したうえで過ごす一日とでは、後者の方がずっと楽です。

よくある質問

波が高い日以外は安全と考えてよいですか

いいえ。角田浜の事故では、波の高さは三十センチほどだったと報じられています。危険をつくるのは波の高さではなく、水平方向の流れと、うねりのエネルギーです。遠くの台風から届くうねりは、快晴の海岸にも到達します。その場の見た目だけで判断しないでください。

泳げれば大丈夫ではないですか

プールで泳げることと、海や川で身を守れることは別の能力です。プールには流れがなく、水温が一定で、足がつき、監視員が近くにいます。海や川には、そのいずれもありません。統計では、水泳中に亡くなった方より、釣りをしていて亡くなった方の方がはるかに多くなっています。泳ぐつもりのない人が亡くなっているのです。

浮き輪をつけていれば子どもは安全ですか

安全ではありません。浮き輪は風を受けて沖へ流れます。また、子どもが浮き輪から下に抜け落ちることもあります。浮き輪は遊具であり、安全装備ではありません。安全装備はライフジャケットです。

海で人が溺れているのを見つけたら、どこに連絡すればよいですか

海であれば海上保安庁の一一八番です。川や湖、用水路であれば一一九番です。一一八番は認知度が低い番号ですが、海の事故の専用窓口です。迷ったときは一一九番でも構いません。連携されます。大事なのは、自分で飛び込む前に通報することです。

釣りに行くのですが、ライフジャケットは必要ですか

必要です。統計上、亡くなった方の行為別で最も多いのが魚とり・釣りで、令和六年は百九十一人でした。全体の二十三・四パーセントにあたります。堤防や磯からの転落は、泳ぐ準備がまったくない状態で水に入ることを意味します。釣りは、水難事故の統計から見ると最も注意が必要な行為です。船釣りでは着用が義務づけられている場合もあります。

用水路の事故が増えているのはなぜですか

統計では、用水路で亡くなった方は令和元年の五十七人から令和六年の百人へと増えています。用水路はレジャーの場ではなく、生活圏の中にあります。転落しやすい構造であること、大雨で急に増水すること、そして高齢の方が農作業などで近づく機会が多いことが背景にあると考えられます。ふだんの通り道にある水路も、水難事故の現場になりえます。

子どもと川へ行くとき、海より安全だと考えてよいですか

逆です。中学生以下で亡くなった二十八人のうち、河川が十八人で六十四・三パーセント、海は五人で十七・九パーセントでした。子どもについては、川の方がはるかに多く亡くなっています。流れがあること、水深が急に変わること、上流の雨で増水することが理由です。川では、深さより流れを見てください。

この記事のデータを引用してもよいですか

統計の数値は警察庁が公表している「令和六年における水難の概況等」によるものです。出典を明記していただければ、そちらを直接ご参照いただくのが確実です。年齢層ごとの死亡・行方不明の割合など、この記事で筆者が計算した数値については、当サイトの記事へのリンクを添えていただければ引用していただいて構いません。学校や自治会の資料、講習の配布物などにお使いいただけたらと思います。

高齢の親が趣味で釣りに行きます。何を伝えればよいですか

統計の数字をそのままお伝えするのが、いちばん伝わると思います。六十五歳以上の方は、水難に遭った五百九十九人のうち四百二十九人が亡くなっています。割合にすると七十一・六パーセントです。ほかの年齢層と比べて突出しています。そのうえで、ライフジャケットの着用と、一人で行かないことをお願いしてみてください。

まとめ

水難事故について、押さえておきたい点を整理します。

令和六年の水難は、発生件数千五百三十五件、水難者千七百五十三人で、いずれも過去十年で最多でした。亡くなった方と行方不明の方は八百十六人。水難に遭った人のうち、四十六・五パーセントが命を落としています。

亡くなった方の場所別では、海が四十五・六パーセント、河川が三十五・三パーセント。用水路が十二・三パーセントで、この五年で倍近く増えています。

行為別で最も多いのは魚とり・釣りで二十三・四パーセント。水泳中の五パーセントを大きく上回ります。泳ぐつもりのなかった人が、多く亡くなっています。

年齢では、六十五歳以上の方が水難に遭ったときの死亡・行方不明の割合が七十一・六パーセントに達します。一方、中学生以下では十四・七パーセント。ただし子どもについては、亡くなる場所の六割以上が河川です。

波の高さは、危険度を表しません。遠くの台風から届くうねりは、晴れた穏やかな海にも到達します。波が立っていない帯状の場所は、水が沖へ出ていく通り道である場合があります。

浮き具は安全装備ではありません。風を受けて沖へ流れ、乗っていても降りても岸へ戻れない状態をつくります。安全装備はライフジャケットです。体のサイズに合ったものを選び、股ベルトのあるものを、正しく着てください。

溺れている人を見つけても、飛び込まないでください。浮くものを投げ、海なら一一八番、それ以外なら一一九番へ通報し、人を集めます。助けに向かった人が次に溺れるのが、水難事故の典型です。

自分が落ちたときは、泳がずにあおむけで浮きます。靴は脱がず、叫ばず、呼吸だけを意識します。

最後にひとつだけ。この夏、水辺へ出かける予定があるなら、出発する前に家族で一分だけ話してください。誰が子どもを見るか、どこまで出てよいか、誰かが流されたら何をするか。水の上では、考える時間がありません。考える時間があるのは、今だけです。この一分が、いちばん確実な備えになります。

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この記事を書いた人

北海道札幌市在住の防災・サバイバル情報発信者です。2018年の北海道胆振東部地震を機に「誰でも今日から始められる防災」をモットーに活動を開始し、実際に試した防災グッズのレビューや家族構成別の備え方をわかりやすくお伝えしています。実践的で信頼できる情報を提供できるよう、がんばっています!

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