【この記事の要約】
がけ崩れは、急な斜面の表面が突然崩れ落ちる現象です。土砂災害の三種類のなかで、最も前ぶれが出にくく、最も一瞬で終わります。崩れ始めてから逃げるという発想は、がけ崩れには通用しません。土砂が届く範囲は、がけの高さのおよそ二倍が目安です。この記事では、がけ崩れの仕組み、土石流や地すべりとの違い、危険な区域の調べ方、擁壁の点検で見るべき箇所、寝る部屋の選び方、そして避難を始めるタイミングまでをまとめました。自然のがけだけでなく、住宅地の人工的な斜面も対象になります。
結論からお伝えします。がけ崩れに対して、起きてからできることはほぼありません。だから、対策はすべて「起きる前」に寄せる必要があります。
厳しい言い方かもしれませんが、これはがけ崩れという現象の性質から来るものです。土石流には音という前ぶれがあり、地すべりには数日から数年という時間があります。しかしがけ崩れは、ほとんど前ぶれを出さずに、数秒で終わります。
私は防災士として、知人から「裏に斜面があるのだが、どう考えたらいいか」という相談を受けることがあります。そのとき最初にお伝えするのは、避難のタイミングの話ではありません。まず、その斜面がどれくらいの高さで、家からどれだけ離れているかを測ってくださいということです。
理由はこの後で説明します。がけ崩れは、数字で危険度を見積もれる災害でもあるのです。
がけ崩れとは何か
がけ崩れは、急な斜面の表面部分が、雨水のしみ込みや地震の揺れによって、突然崩れ落ちる現象です。制度上は「急傾斜地の崩壊」と呼ばれます。
崩れるのは、多くの場合、斜面の表面から数十センチから二メートルほどの層です。これを表層崩壊と呼びます。地面の深いところまでは動きません。だからこそ、崩れる量は地すべりより少なく、その代わり動きは一瞬です。
斜面には、土が留まろうとする力と、重力で落ちようとする力が働いています。ふだんは前者が勝っているので、斜面は形を保っています。ここへ雨が降ると、土が水を含んで重くなり、同時に土の粒どうしをつなぎ止めていた力が弱まります。重くなり、そして粘りを失う。この二つが重なった瞬間に、斜面は崩れます。
どこまで土砂が届くのか
ここが、冒頭で「測ってください」とお伝えした理由です。
がけ崩れで崩れた土砂が届く距離は、おおむね、がけの高さの二倍が目安とされています。高さ十メートルの斜面なら、その下およそ二十メートルまでが危険な範囲です。
実際、土砂災害警戒区域の設定でも、この考え方が使われています。傾斜が三十度以上あり、高さが五メートル以上ある斜面について、がけの下端からがけの高さの二倍にあたる範囲、そして上端から水平距離で十メートルの範囲が、危険な区域として扱われます。
この数字が意味するのは、がけ崩れの危険は、範囲がはっきりしているということです。土石流のように上流数キロから届くわけではありません。斜面のすぐ近くだけが危険で、離れれば安全です。
裏を返せば、その範囲内にいるかどうかが決定的だということでもあります。裏山まで十メートル、斜面の高さが十五メートル。この条件なら、危険な範囲のど真ん中です。逆に、五十メートル離れていれば、同じ斜面でも状況はまったく違います。
そして忘れないでいただきたいのが、がけの上も危険だということです。斜面の上端から十メートルの範囲は、崩れに巻き込まれる可能性があります。がけの上に建つ家は、眺めがよく、水害にも強い。しかし、がけ崩れに対しては危険な位置にあります。
土石流・地すべりとの違い
土砂災害は、土石流、がけ崩れ、地すべりの三つに分けられます。がけ崩れの位置づけを、比較で確認します。
| がけ崩れ | 土石流 | 地すべり | |
|---|---|---|---|
| 斜面の傾き | 急(30度以上) | 渓流の勾配15度以上 | ゆるやか(5度から20度程度) |
| 速さ | 数秒で崩落 | 時速20から40キロ | 1日に数ミリから数メートル |
| 崩れる深さ | 表面から0.5から2メートル程度 | 渓流にたまった土砂ごと | 地中深くのすべり面まで |
| 届く範囲 | がけの高さの2倍程度 | 渓流沿いに数キロ | 動く塊の範囲と、その下 |
| 前ぶれ | ほとんど出ないことが多い | 直前に出ることがある | 数日から数年前から出ることも |
| 主なきっかけ | 豪雨・地震 | 集中豪雨・融雪 | 長雨・融雪・地下水位の上昇 |
| 逃げる余地 | ほぼない | 前ぶれ後は困難 | 時間はある |
この表で見ていただきたいのは、いちばん下の行です。がけ崩れは、逃げる余地が最も少ない災害です。
崩れる深さが浅いということは、雨がしみ込んで限界に達するまでの時間が短いということでもあります。地すべりのように、地下深くまで水が届くのを待つ必要がありません。降り始めから数時間で条件がそろってしまいます。
だから、がけ崩れへの備えは、他の二つと組み立てが変わります。前ぶれを待つのではなく、雨の予報の段階で、危険な範囲から出ておく。これしかありません。
土石流については土石流とは?前ぶれ・逃げる方向・危険な場所の調べ方、地すべりについては地すべりとは?前兆・危険な場所の見分け方で詳しく扱っています。
深いところから崩れることもある
がけ崩れの多くは表層崩壊ですが、まれに、もっと深いところから崩れることがあります。斜面の下の岩盤ごと崩れるもので、深層崩壊と呼ばれます。
規模がまったく違います。崩れる土砂の量は、表層崩壊の何十倍にもなり、崩れた土砂が谷を埋めて川をせき止めることもあります。二〇一一年の紀伊半島大水害では、各地で深層崩壊が発生し、天然のダムができました。
深層崩壊は、非常に長く降り続いた雨の後に起きる傾向があります。ただ、発生を予測するのは難しく、個人の備えとしてできることは限られます。記録的な長雨が続いたときは、平常時の想定を超えることがあると頭の隅に置いておく程度でよいと思います。
危険な斜面の条件
どんな斜面が崩れやすいのか。条件を整理します。
傾斜が急であること。三十度が、ひとつの目安です。感覚的には、立って登るのがきつい斜面です。
土が砂質であること。粒が粗く、水を通しやすい土は、しみ込んだ水で粘りを失いやすい性質があります。花崗岩が風化してできた、まさ土と呼ばれる土は、その代表です。西日本に広く分布しており、過去の土砂災害でたびたび問題になってきました。
過去に地震があったこと。揺れで地盤に細かい割れ目ができると、雨が入りやすくなります。地震の後は、同じ雨量でも崩れやすくなります。
斜面に手が加えられていること。これが、住宅地では重要です。
人工のがけという問題
がけ崩れというと自然の斜面を思い浮かべますが、住宅地で問題になるのは、多くが人の手でつくられた斜面です。
山を削って造成した宅地では、切り土によって急な斜面ができます。谷を埋めて平地をつくった場所では、盛り土が斜面をつくります。とくに盛り土は、後から積まれた土なので、地山より弱いことがあります。
そして、これらの斜面を支えているのが擁壁です。擁壁は永久のものではありません。時間とともに劣化しますし、施工された当時の基準が今より緩かった場合もあります。古い造成地では、擁壁が現行の基準を満たしていないことも珍しくありません。
二〇二一年に静岡県熱海市で発生した土石流では、上流に積まれていた盛り土が起点になったことが問題になりました。人の手が加わった土地では、自然の地形だけを見ていても危険はわからないということです。
自分の家の危険度を見積もる
冒頭で「斜面の高さと、家からの距離を測ってください」とお伝えしました。ここで、その方法を具体的にご紹介します。地図を見るより先に、この二つの数字を持っておくと、以降の判断がぐっと楽になります。
斜面の高さを知る
正確に測る必要はありません。おおよそでかまいません。
いちばん簡単なのは、比べるものを使う方法です。電柱は、地上に出ている部分が概ね八メートルから十メートルほどあります。二階建ての住宅なら、屋根の一番高いところまでで六メートルから八メートルほど。斜面の脇にこうしたものがあれば、見比べるだけで見当がつきます。
地図から読み取ることもできます。国土地理院が公開している地図では、地形の高さを色分けして表示できます。斜面の上と下で高さの差を見れば、それがそのまま斜面の高さです。
家からの距離を知る
これは実際に歩いて測るのが確実です。大人の歩幅はおおよそ七十センチほどなので、歩数を数えて〇・七を掛ければ、だいたいの距離が出ます。地図の距離計測機能を使ってもかまいません。測るのは、斜面の下端から建物の壁までです。庭の端までではありません。
二つの数字を並べる
あとは、比べるだけです。
家までの距離が、斜面の高さの二倍より近い。この場合、崩れた土砂が届く範囲に入っている可能性が高いと考えてください。高さ十メートルの斜面から十五メートルの位置にある家は、この条件に当てはまります。
距離が高さの二倍より遠い。直接の被害を受ける可能性は下がります。ただし、これは目安であって保証ではありません。斜面の勾配や土の性質、崩れる規模によっては、想定より遠くまで届くこともあります。
この見積もりは、あくまで自分で状況をつかむための道具です。公式な判断は、土砂災害警戒区域の指定に従ってください。都道府県が地形や地質を調査したうえで線を引いたものなので、精度がまったく違います。それでも、自分の手で数字を出しておくと、地図の色が何を意味しているのかが腑に落ちます。
擁壁を点検する
斜面を支える擁壁は、自分の目で状態を確認できます。年に一度、次の点を見てまわってください。
擁壁が前へふくらんでいないか。横から見て、まっすぐな面が弓なりにふくらんでいたら、背後の土から強い圧力がかかっています。これは危険なサインです。
ひび割れがないか。とくに、縦方向の割れ目や、階段状に走るひびは注意が必要です。前回見たときより広がっていないかを確認します。
水抜き穴が詰まっていないか。擁壁には、背後にたまった水を抜くための穴が開いています。ここが土や落ち葉で詰まると、水が抜けず、擁壁にかかる圧力が増します。この点検が、いちばん手軽で効果があります。詰まっていたら取り除いてください。
逆に、水抜き穴から土砂が出ていないか。水と一緒に土が流れ出しているなら、擁壁の背後で土が動いています。
目地がずれていないか。ブロックの継ぎ目が食い違っていたら、擁壁全体が動いています。
擁壁の上に、重いものを置いていないか。物置、車、大量の土。後から加えた荷重が、設計の想定を超えていることがあります。
気になる点があれば、市町村の建築や防災の担当窓口へ相談してください。自治体によっては、擁壁の点検や改修に対する助成制度を設けている場合があります。
前ぶれとして現れる現象
がけ崩れの前ぶれは、他の二つに比べて出にくいものです。それでも、次のような現象が現れることがあります。
がけに割れ目ができる。斜面の上部に、横に走る亀裂が入ります。
小石がぱらぱらと落ちてくる。これは、崩落の直前に見られることがあります。
これまで出ていなかった湧き水が出る。斜面の中に水がたまっている証拠です。
逆に、出ていた湧き水が止まる。水の通り道が土砂でふさがれた可能性があります。止まるのも危険なサインです。
湧き水が濁る。地中で土が動いています。
木の根が切れる音、地鳴りがする。すでに斜面が動き始めています。
ただし、繰り返します。これらは避難の合図ではなく、避難に失敗したことを教えてくれるサインです。小石が落ちてくるのを見てから外へ出るのは、かえって危険な場合があります。この段階では、がけと反対側へ移動する方が確実です。
避難のタイミング
がけ崩れへの備えは、雨の情報で動くことに尽きます。
判断の基準
土砂災害に関わる情報は、五段階の警戒レベルに整理されています。がけ崩れの場合、判断は次のようになります。
| レベル | 情報 | がけ下・がけ上にいる場合の行動 |
|---|---|---|
| 2 | 大雨注意報 | 避難先と経路を確認する |
| 3 | 大雨警報(土砂災害) | 高齢者等は避難する。他の人も準備を終える |
| 4 | 土砂災害警戒情報 | 全員が避難を終えている |
| 5 | 大雨特別警報 | すでに災害が起きている可能性がある |
土砂災害警戒情報は、都道府県と気象庁が共同で発表する情報で、対象は土石流とがけ崩れです。これが発表された時点で、危険な範囲にいる人は避難を終えている必要があります。仕組みは土砂災害警戒情報とは?大雨警報との違いと避難の判断にまとめました。
あわせて、気象庁の危険度分布、通称キキクルを見てください。自分のいる地点の危険度が、一キロ四方の細かさで色分けされます。紫は警戒レベル四に相当し、この色になったら避難指示を待つ必要はありません。
暗くなる前に動く
土砂災害の犠牲者は、夜間から未明に集中しています。暗い、寝ている、雨音で音が消される。この三つが重なると、逃げる機会そのものが失われます。
ですから、私は「日没の三時間前に判断する」という決め方をおすすめしています。その時点で大雨警報が出ていて、夜も雨が続く予報なら、明るいうちに移動してしまう。空振りになっても、失うのは一晩の不便だけです。
雨の降り方については線状降水帯とゲリラ豪雨は何が違う?もあわせてご覧ください。危険な雨のパターンがわかると、予報の読み方が変わります。
どうしても動けないとき
外がすでに危険で移動できない場合は、屋内での安全確保に切り替えます。
建物の二階以上へ上がり、がけから最も遠い側の部屋へ移動する。これが原則です。がけに面した部屋にいれば、二階でも土砂が入ってきます。反対側の部屋なら、建物そのものが壁になります。
そして、この考え方は、平常時の暮らし方にも応用できます。がけの近くにお住まいなら、寝室をがけと反対側に置く。これは、費用ゼロでできる、たいへん効果の高い備えです。
夜に崩れたとき、寝ている場所がどちらにあるかで結果が変わります。子ども部屋や高齢の家族の部屋を、がけと反対側の二階に配置しておく。模様替えのついでに検討していただきたいところです。
地震によるがけ崩れ
ここまで雨の話をしてきましたが、がけ崩れは地震でも起きます。
揺れによって斜面が崩れるのは、その場で完結します。雨と違って、予測する時間はありません。ですから、地震によるがけ崩れへの備えは、そもそもどこに住むか、どこで寝るかという話に集約されます。
そして、地震の後にはもうひとつの危険があります。揺れで緩んだ斜面が、その後の雨で崩れやすくなるということです。地震の直後は無事でも、次に降った雨で崩れることがあります。
被災地では、通常より低い雨量で土砂災害警戒情報を発表する、暫定的な基準が適用されることがあります。地震のあった地域では、その後の最初の雨の季節を、いつも以上に慎重に構えてください。「去年は同じ雨で何もなかった」という経験が、通用しなくなっています。
制度と調べ方
がけ崩れに関わる指定には、二つの系統があります。
ひとつが土砂災害警戒区域です。土砂災害防止法にもとづくもので、危険を周知し、警戒避難の体制を整えるための指定です。区域内でとくに危険度が高い範囲は、土砂災害特別警戒区域に指定されます。こちらは建築物への規制がかかります。
もうひとつが急傾斜地崩壊危険区域です。急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律にもとづくもので、崩壊を防ぐ工事を行い、崩壊を助長する行為を規制するための指定です。
簡単に言えば、前者は「逃げるための指定」、後者は「工事と規制のための指定」です。目的が違うので、両方を確認する価値があります。
調べ方は簡単です。都道府県が公開している土砂災害警戒区域のマップか、国土交通省の重ねるハザードマップで、住所を入力するだけです。五分あれば終わります。地図の読み方はハザードマップの見方・読み方を徹底解説にまとめました。
調べるときは、自宅だけでなく、勤務先、子どもの通学路、通っている学校、そして避難所として指定されている場所そのものも確認してください。避難所が土砂災害警戒区域の中にある例は、実際に存在します。
過去の災害が示したこと
がけ崩れは、日本で繰り返し大きな被害を出してきました。
一九九九年六月、広島市や呉市で豪雨によるがけ崩れと土石流が多発し、多くの方が亡くなりました。この災害を受けて、翌年に土砂災害防止法が制定されます。危険な区域をあらかじめ指定して周知するという、現在の仕組みの出発点です。
二〇一四年八月にも、広島市で局地的な豪雨により土砂災害が多発し、七十七人が亡くなりました。深夜から未明にかけての発生で、多くの方が就寝中でした。
二〇一八年七月の西日本豪雨では、広島県を中心に、極めて多数のがけ崩れが同時に発生しました。同時多発するため、救助の手がすぐには回らないという問題も浮き彫りになっています。
これらに共通するのは、三つです。
ひとつは、住宅地の背後で起きていること。山奥ではありません。人が住んでいる場所のすぐ裏で起きています。
ふたつめは、夜間に多いこと。暗くなる前に避難を終えるという原則は、ここから来ています。
みっつめは、同時多発すること。ひとつの斜面だけが崩れるのではなく、同じ雨で広い範囲の斜面がいっせいに崩れます。だから、道路も同時にふさがれ、消防や自衛隊が到着するまで時間がかかります。助けが来るまでの数日を、自分たちでしのぐ想定が必要になります。備蓄については非常食の比較データも参考になります。
家を探すときに見ておきたいこと
すでに住んでいる家の斜面は、簡単には変えられません。しかし、これから住む場所を選べる立場なら、事前に避けられます。土地や物件を探している方に向けて、確認したい点を挙げます。
まず、地図で調べる。内見に行く前に、土砂災害警戒区域と特別警戒区域を確認します。住所が決まっていれば、家を出る前に済ませられます。ここで該当していたら、それを踏まえて現地を見ることになります。
次に、古い地図と見比べる。国土地理院のサイトでは、過去の空中写真を見ることができます。造成される前の地形がわかるので、そこが谷だったのか、尾根だったのかが読み取れます。谷を埋めてつくられた宅地は、盛り土の上にあるということです。地震の際に被害が出やすい傾向も知られています。
そして、現地で斜面を見る。擁壁があるなら、ふくらみ、ひび割れ、水抜き穴の状態を確認します。斜面に対策工事の跡があるなら、そこは過去に問題があった場所です。周囲の家の基礎や塀にひびが入っていないかも、参考になります。
最後に、雨の日に一度見に行く。これは手間がかかりますが、効果があります。晴れた日には見えない、水の流れ方がわかります。斜面から水がしみ出している、道路に水が集まる、側溝があふれる。こうした様子は、雨の日にしか見えません。
土砂災害警戒区域や特別警戒区域に該当する物件については、宅地建物取引業者に重要事項として説明する義務があります。ただ、説明を受けるのは契約の直前です。そこで初めて知るより、探し始めの段階で自分で調べておく方が、選択肢を持ったまま判断できます。
よくある質問
コンクリートの擁壁があれば安心ですか
安心の材料にはなりますが、保証ではありません。擁壁は劣化しますし、設計の想定を超える雨や、後から加えられた荷重には対応できません。水抜き穴が詰まっていれば、背後の水圧で擁壁ごと押し出されることもあります。擁壁があるからこそ、その状態を確認する意味があります。
斜面に木が生えていれば崩れにくいですか
ある程度は効果があります。根が土をつなぎ止め、表層の崩壊を抑える働きがあるからです。ただし、根が届くのは地表から数メートルまでです。それより深いところから崩れる場合、木は役に立ちません。むしろ、崩れた土砂と一緒に流されて、被害を大きくすることもあります。手入れされていない斜面では、倒れかけた木が逆にリスクになる場合もあります。
がけの上に住んでいますが、危険ですか
がけの上端から水平距離でおよそ十メートルの範囲は、崩れに巻き込まれる可能性があります。地面ごと落ちるためです。ご自宅がその範囲に入るかどうかを、土砂災害警戒区域のマップで確認してください。範囲内なら、がけから離れた側の部屋を寝室にする、大雨のときは早めに移動する、といった対応が必要になります。
マンションでも関係ありますか
建物ごと崩されるという点では、木造家屋より格段に安全です。ただ、がけに面した低層階は土砂が入る可能性がありますし、一階部分がふさがれれば出入りができなくなります。電気や水道も止まります。断水時の備えはマンションの断水対策にまとめています。
崩れた後、どのくらいで戻れますか
状況によって大きく異なります。斜面に不安定な土砂が残っていれば、二次崩壊の危険があるため、立ち入りが制限されます。雨がやんだ後も、しばらくは崩れる可能性が残ります。戻る判断は、自分ではなく市町村の指示に従ってください。その後の手続きについては被災した後にやることの全体像をご覧ください。
賃貸で、大家さんに擁壁の点検をお願いできますか
お願いする価値はあります。擁壁の維持管理は所有者の責任です。ひび割れやふくらみ、水抜き穴の詰まりといった具体的な箇所を写真で示して伝えると、話が通りやすくなります。改善されない場合でも、市町村の窓口へ相談することはできます。
特別警戒区域に指定されると、家は建てられなくなりますか
建てられなくなるわけではありません。ただし、想定される土砂の力に耐えられる構造にすることが求められ、建築確認の際に審査を受けます。開発行為にも許可が必要です。また、既存の住宅について、安全な場所へ移転するための支援制度を設けている自治体もあります。指定は住めなくなる宣告ではなく、条件つきで住むための線引きだと考えてください。
斜面の草木を刈ってしまってよいですか
手入れ自体は必要ですが、根まで抜いて地面をむき出しにするのは避けてください。表面を覆う植物には、雨が直接土をたたくのを防ぎ、根が表層をつなぎ止める働きがあります。枯れ木や倒れかけた木を取り除くことと、地表をはがしてしまうことは別です。大きく手を入れる予定があるなら、市町村へ相談してから進めてください。
土のうを積めば、がけ崩れを防げますか
防げません。土のうは、水の流れを変えたり、浸水を遅らせたりするためのものです。がけ崩れで動く土砂の量と勢いには、まったく対抗できません。時間をかけて土のうを積むより、その時間を避難に使ってください。土のうが役に立つのは、浸水や雨水の流れをそらしたい場面です。
まとめ
がけ崩れについて、押さえておきたい点を整理します。
がけ崩れは、急な斜面の表面が突然崩れ落ちる現象です。崩れるのは表面から数十センチから二メートルほどの層で、動きは数秒で終わります。三種類の土砂災害のなかで、最も前ぶれが出にくく、最も逃げる余地がありません。
土砂が届く範囲は、がけの高さのおよそ二倍が目安です。傾斜三十度以上、高さ五メートル以上の斜面が、危険な区域の目安になります。がけの上も、上端から十メートルの範囲は危険です。
住宅地で問題になるのは、多くが人工の斜面です。切り土、盛り土、そして擁壁。擁壁は年に一度、ふくらみ、ひび割れ、水抜き穴の詰まり、目地のずれを確認してください。水抜き穴の掃除は、手軽で効果の高い対策です。
避難は、雨の情報で判断します。大雨警報で準備を終え、土砂災害警戒情報が出る前に避難を完了する。キキクルが紫になったら、指示を待たずに動いてかまいません。そして、暗くなる前に動くことが最も重要です。
どうしても動けないときは、二階以上の、がけから最も遠い側の部屋へ。この考え方は、平常時の寝室の配置にもそのまま使えます。がけと反対側で寝る。費用をかけずにできる、最も効果の高い備えのひとつです。
地震で崩れることもあります。そして地震の後は、緩んだ斜面が次の雨で崩れやすくなります。地震のあった地域では、その後の雨の季節を慎重に構えてください。
最後にひとつ。まだご自宅が土砂災害警戒区域に入っているかを調べたことがなければ、今日のうちに確かめてください。がけ崩れは前ぶれを出さない災害ですが、危険な場所ははっきりしています。場所がわかっているのなら、それは備えられる災害です。
斜面の高さと、家までの距離。この二つの数字を持っているだけで、雨の夜に迷う時間が減ります。数字は今日のうちに出せます。避難するかどうかを決めるのは、その先の話です。順番を間違えないでいただきたいと思います。


