【この記事の要約】
結論から言います。引っ越しは、防災でいちばん効く一手です。家具は固定できます。建物は補強できます。けれど、土地だけは動かせません。だから、住む場所を決める瞬間が、いちばん大きな分かれ目になります。そして知っておいてほしい制度があります。2020年8月28日から、不動産の契約前に水害ハザードマップ上の物件の位置を説明することが義務になりました。売買だけでなく、賃貸でもです。ただし義務があるのは水害だけで、液状化には説明義務がありません。この記事では、説明される項目とされない項目、内見のときに見るところ、契約前の調べ方を順にまとめます。
結論|土地だけは、あとから変えられません
防災の対策には、あとからできることが多くあります。
家具は固定できます。備蓄は買い足せます。窓にはフィルムを貼れます。建物は耐震補強ができます。
けれど、川からの距離も、標高も、地盤も、あとから変えることはできません。
だから、決める前に調べてください
住み始めてから「ここは浸水想定区域だった」と分かっても、できることは限られます。引っ越すか、そのリスクを抱えて暮らすかの二択になります。
逆に言えば、決める前の30分の調べもので、その後の何年分もの安全が決まります。
これほど費用対効果の高い防災は、他にありません。
ただし、リスクゼロの土地はありません
先に申し上げておきます。日本に、災害の危険がまったくない土地はありません。
洪水の心配がない高台には、土砂災害の心配があります。地震の少ない地域はありますが、ないわけではありません。
ですから、目指すのは「危険のない土地を探すこと」ではなく「どんな危険があるかを知って選ぶこと」です。
知って住むのと、知らずに住むのは、まったく違います。知っていれば、備え方が変わり、逃げる判断が変わります。
あわせて読みたい
鉄砲水は、自分のいる場所が晴れていても来ます。降っているのは見えない上流だからです。前ぶれの見分け方と、下流へ走ってはいけない理由は鉄砲水は晴れていても来るにまとめました。
あわせて読みたい
震災ごとに、人は違う理由で亡くなっています。関東大震災は火災87%、阪神・淡路は圧死77%、東日本は溺死90.6%。死因で比べた備えの決め方は過去の震災は何が人の命を奪ったかにまとめました。
あわせて読みたい
東日本大震災で亡くなった方の死因は溺死が90.6%でした。津波は物では守れません。避難三原則と津波てんでんこの意味は東日本大震災とは?にまとめました。
あわせて読みたい
能登半島地震が突きつけたのは、助けはすぐに来ないという現実です。道路が寸断され2週間以上孤立した地区がありました。3日分では足りない地域があることは能登半島地震とは?にまとめました。
あわせて読みたい
阪神・淡路大震災で助けたのは、消防でも自衛隊でもなく近所の人でした。生き埋めの約8割を家族と近隣住民が救出しています。死因77.0%が窒息・圧死という事実は阪神・淡路大震災とは?にまとめました。
あわせて読みたい
大地震のあと、最初に助けに来るのは行政ではありません。隣の人です。阪神・淡路では生き埋めの約8割を家族と近隣住民が救出しました。その仕組みは自主防災組織とは?にまとめました。
あわせて読みたい
耐震の補助金で失敗する理由はほぼ一つ、交付決定の前に契約や着工をしてしまうことです。対象になる建物と、自分の市区町村の制度を5分で調べる方法は耐震診断・耐震改修の補助金にまとめました。
2020年から、水害の説明が義務になりました
あまり知られていない、大事な制度です。
何が変わったのか
2020年8月28日、宅地建物取引業法の施行規則が改正されました。
これにより、不動産業者は契約前の重要事項説明のときに、水害ハザードマップを示して、その物件の位置を説明しなければならなくなりました。
そして重要なのは、これが売買だけでなく、賃貸でも適用されることです。部屋を借りるときにも、説明されます。
背景には、豪雨災害の教訓があります。浸水が想定されていた区域と、実際に浸水した区域が、ほぼ重なった。だから知らせよう、という制度です。
説明されるのは「位置」です
ここは正確に理解してください。義務づけられているのは、ハザードマップ上のどこに物件があるかを示すことです。
「何メートル浸水します」「だから危険です」という評価まで求められているわけではありません。判断するのは、こちら側です。
ですから、説明を受けたときには自分から聞いてください。「浸水の想定は何メートルですか」「この建物の何階まで来ますか」「避難所はどこですか」。
そして、聞き流さないでください
重要事項説明は、契約の直前に、たくさんの項目を続けて読み上げる形で行われます。正直に言えば、その場で内容を消化するのは難しい。
だからこそ、説明を受ける前に、自分で調べておいてください。知っていることを確認する場にすれば、聞き逃しません。
調べ方はハザードマップの見方にまとめました。
説明されるものと、されないもの
ここが、この記事でいちばん大事な部分です。
| 項目 | 重要事項説明 |
|---|---|
| 水害ハザードマップ上の位置 | 説明されます(2020年8月〜) |
| 土砂災害警戒区域かどうか | 説明されます |
| 津波災害警戒区域かどうか | 説明されます |
| 造成宅地防災区域かどうか | 説明されます |
| 建物の建築年 | 説明されます |
| 液状化のしやすさ | 義務ではありません |
| 地盤の強さ・造成の履歴 | 義務ではありません |
| 過去にこの土地が何だったか | 義務ではありません |
| 避難所までの距離と経路 | 義務ではありません |
| 周辺のブロック塀や擁壁の状態 | 義務ではありません |
下の五つは、聞かなければ出てきません。そして、この五つが、住んでからの安全を大きく左右します。
業者が隠しているという話ではありません。制度上、説明する義務がないというだけです。だから、自分で調べる必要があります。
契約前に、自分で調べる五つのこと
すべて無料で、家にいながらできます。合わせて30分ほどです。
一、ハザードマップで、四つの災害を見る
洪水、内水はんらん、土砂災害、津波。この四つを、住所で確認してください。
国土交通省のハザードマップポータルサイトで、まとめて見られます。自治体のサイトでも公開されています。
見るのは、色だけではありません。「何メートル浸水するか」「その水が何日引かないか」まで見てください。2階建ての家で3メートル浸水するなら、2階に逃げても足りません。
二、標高を確かめる
国土地理院の地図で、その地点の標高が分かります。周りと比べて低いかどうかが、水のたまりやすさを決めます。
同じ町の中でも、数メートルの差が結果を分けます。坂の下、川に向かって下っている側は、水が集まります。
地図には、色の濃淡で高低を示す表示もあります。これを見ると、周りより低い場所がひと目で分かります。
三、昔の地図と、地名を見る
いまの住宅地が、昔は何だったのか。田んぼ、沼、川、谷。国土地理院の古い航空写真や地図で分かります。
水に関わる漢字が入った地名は、その履歴を伝えていることがあります。沢、池、沼、窪、江、洲。水に関わる字が入っていないか見てください。
ただし、地名だけで決めつけないでください。ハザードマップと合わせて見るものです。詳しくは洪水リスクは地名でわかるって本当?にまとめました。
四、液状化のしやすさを調べる
説明義務がないぶん、自分で調べる価値がいちばん高い項目です。
多くの自治体が、液状化の危険度を示した地図を公開しています。埋め立て地、旧河道、砂地で地下水位が高い場所が該当しやすくなります。
液状化は、建物が無事でも家が傾き、水道もガスも下水も止まります。仕組みは液状化とは?にまとめています。
五、避難所までの経路を、地図で引く
距離だけでは足りません。その道が、災害のときに使えるかどうかです。
途中に川を渡る橋があるか。アンダーパスを通るか。崖の下を通るか。これらは、いざというときに通れなくなります。
そして、避難所そのものが浸水想定区域にあることがあります。ここは必ず確かめてください。
地形を読むと、見える景色が変わります
ハザードマップは、地形の上に描かれています。元の地形が分かると、なぜその色なのかが分かります。
地形ごとの、危険の傾向
| 地形 | どんな場所か | 注意すること |
|---|---|---|
| 台地・段丘 | 周りより一段高い平らな土地 | 水には強い。縁は崖になっていることも |
| 扇状地 | 山から出た川が広がる場所 | 土石流と、鉄砲水 |
| 氾濫平野 | 川がくり返しあふれて作った平地 | 洪水。地盤も軟らかい |
| 旧河道 | 昔、川が流れていた跡 | 浸水しやすく、液状化もしやすい |
| 自然堤防 | 川沿いの、わずかに高い帯 | 周りより浸水しにくい。昔からの集落が多い |
| 後背湿地 | 自然堤防の内側の低いところ | 水がたまり、なかなか引きません |
| 三角州 | 川の河口にできた低い土地 | 洪水、高潮、液状化 |
| 埋立地 | 海や沼を埋めた土地 | 液状化。地盤沈下も |
| 谷底低地 | 谷を埋めるように広がる低地 | 内水はんらん。都市部に多い |
とくに覚えてほしいのが、自然堤防と後背湿地の関係です。川沿いなのに浸水しにくい帯と、その内側の水がたまる場所。数百メートルの違いで、結果が変わります。
昔からの集落や神社が、少し高いところに集まっていることがあります。先人が、水の来ない場所を選んだ結果です。
盛土と切土の境目は、弱点になります
斜面を造成した住宅地では、土を削ったところと、盛ったところが混ざります。
盛った側は、地震のときに動きやすくなります。そして、その境目に建っている家がいちばん不利になります。
多くの自治体が、大規模盛土造成地の分布図を公開しています。「(市町村名)大規模盛土造成地」で検索してみてください。
これも、重要事項説明の義務にはない項目です。自分で調べるしかありません。
古い航空写真が、いちばん雄弁です
国土地理院のサイトでは、戦後まもない時期からの航空写真を見られます。
いまの住宅地が、当時は田んぼだったのか、池だったのか、川だったのか。写真を並べれば、一目で分かります。
そして「昔、水があった場所」は、いまも水が集まりやすい場所です。地面の形は、簡単には変わりません。
災害の種類ごとに、避けたい立地
危険は一つではありません。自分にとって、どれがいちばん困るかで選ぶことになります。
洪水を避けたいなら
川からの距離より、標高を見てください。近くても高ければ安全なことがあり、遠くても低ければ水が来ます。
そして堤防の高さと、川底の高さを見てください。周囲の土地より川底が高い「天井川」では、決壊したときの被害が大きくなります。
都市部では、川があふれなくても浸水します。下水が処理しきれずに、道路や地下から水が噴き出す内水はんらんです。これは、川から離れていても起きます。
土砂災害を避けたいなら
斜面の高さの2倍の範囲が、目安として危険な区域になります。高さ10メートルの崖なら、20メートル。
そして、崖の上も危険です。下だけを見ないでください。崩れれば、上の土地も一緒に落ちます。
小さな谷の出口も見てください。ふだんは水の流れていない谷から、土石流が出ることがあります。
地震の揺れを小さくしたいなら
硬い地盤ほど、揺れは小さくなります。台地や段丘の上が有利です。
軟らかい地盤では、同じ地震でも揺れが増幅されます。埋立地や、川が作った低地がこれにあたります。
多くの自治体が、地域ごとの揺れやすさを示した地図を公開しています。建物の強さと合わせて考えてください。
津波と高潮を避けたいなら
標高と、海からの距離。そして、逃げられる高い場所が近くにあるかどうかです。
平坦な海沿いでは、走って逃げても間に合わないことがあります。津波避難ビルや高台が徒歩圏にあるかを確かめてください。
高潮は、台風の気圧と風で海面が持ち上がる現象です。ゼロメートル地帯では、特に注意が要ります。
家賃と価格に、リスクは織り込まれています
言いにくい話ですが、大事な視点です。
安いのには、理由があることがあります
同じ広さ、同じ駅からの距離なのに、明らかに安い。そのとき、理由の一つがハザードにあることがあります。
もちろん、安さの理由は他にもいろいろあります。けれど、確かめる価値はあります。
そして、火災保険の水災料率も、地域によって5つに分かれています。保険料が高い地域は、それだけ危険度が高いと判断されているということです。
費用の総額で考えてください
家賃が月5千円安くても、水災補償の保険料が上がるなら、差は縮まります。
そして、一度浸水すれば、家財の買い直しと片づけに数十万円から数百万円がかかります。この可能性を、金額に入れて考えてください。
被災したあとの費用は被災した後にやることにまとめました。
それでも、選べない事情があります
職場、学校、家族、予算。誰もが自由に住む場所を選べるわけではありません。
ここは、正直に申し上げます。危険な土地に住まざるを得ない人はいます。そして、その方を責める意図は一切ありません。
だからこそ、知ったうえで備えるという道があります。備蓄を厚くする。2階に大事なものを置く。早めに逃げると決めておく。できることは、必ずあります。
内見のときに、見るところ
部屋の広さと日当たりだけを見て帰らないでください。10分あれば、防災の目で見られます。
建物について
一、建築年。1981年6月以降か。2000年6月以降か。この二つの境目で、地震への強さが変わります。詳しくは耐震診断と補助金をご覧ください。
二、1階が駐車場になっていないか。柱だけで支える構造は、地震のときに弱点になることがあります。
三、ひび割れがないか。外壁、基礎、階段。斜めに走る大きなひびは要注意です。
四、擁壁の状態。敷地が斜面にあるなら、その壁の水抜き穴と、ふくらみを見てください。
五、ブロック塀。高すぎないか、控え壁があるか、傾いていないか。通学路に面しているなら、なおさらです。
部屋について
一、家具を置ける壁があるか。倒れても逃げ道を塞がない配置ができるか。
二、寝る場所の上に、何があるか。照明、エアコン、棚。
三、玄関までの動線。倒れた家具で塞がれない形になるか。
四、窓の位置と大きさ。台風のときに守れるか。雨戸やシャッターはあるか。
五、収納の量。備蓄を置く場所がなければ、備蓄は増えません。
周りについて
一、道路より低くないか。敷地に入るのに段差を下りるなら、水は集まります。
二、近くに川、水路、池がないか。小さな水路でも、大雨のときにあふれます。
三、崖や斜面が近くにないか。高さの2倍の範囲が、目安として危険です。
四、上流側に、何があるか。ため池、造成地、盛土。
五、消防車が入れる道幅か。狭い道の奥は、火事のときに不利になります。
集合住宅で、追加して見ること
マンションやアパートには、固有の弱点があります。
停電すると、断水します
ポンプで水を上げている建物は、停電した瞬間に水が出なくなります。これを知らない方が多くいます。
内見のときに聞いてください。「給水方式は何ですか」。受水槽か、直結増圧か、直結直圧か。
仕組みと備え方はマンションの断水は停電で起きるにまとめました。
階によって、事情が変わります
| 階 | 強いところ | 弱いところ |
|---|---|---|
| 1階 | 階段で出入りできる | 浸水すると直撃。防犯も |
| 2〜3階 | 浸水を避けられ、階段も苦にならない | 特になし |
| 中層階 | 浸水の心配が少ない | 停電時の階段が負担 |
| 高層階 | 浸水と防犯に強い | 停電で孤立。揺れも大きい。風も強い |
防災の観点だけで言えば、2階から3階がもっとも扱いやすいという考え方があります。浸水を避けられて、なお階段で上り下りできるためです。
高層階に住むなら、停電で水が運べなくなる前提で、備蓄を厚くしてください。
共用部も見てください
一、非常階段が二方向にあるか。片側が使えなくなったときの逃げ道です。
二、受変電設備や機械室が地下にないか。浸水すると建物全体が止まります。
三、防災倉庫があるか。管理組合の備えがある建物は、意識も高い傾向があります。
四、駐輪場や駐車場の位置。地下や半地下は、水没します。
それでも、そこに住むと決めたとき
リスクを知ったうえで選ぶ。これは、まったく悪いことではありません。
備え方が、具体的になります
浸水想定が2メートルなら、1階には大事なものを置かない。2階に逃げれば足りると分かります。
浸水想定が5メートルなら、2階では足りません。早めに水平避難する前提になります。
土砂災害警戒区域なら、雨の降り始めで動くという判断になります。暗くなってからでは遅くなります。
危険の中身が分かれば、行動が決まります。これが、調べることの本当の価値です。
保険の選び方が変わります
浸水の想定がある土地なら、水災補償を外してはいけません。保険料が上がっても、外さないでください。
2024年10月から、水災の保険料が地域の危険度に応じて5つに分かれる仕組みになりました。危険な地域ほど高くなります。
裏を返せば、保険料の等地は、その土地の危険度を示す一つの情報でもあります。詳しくは火災保険の見直し方【2026年版】にまとめました。
引っ越したら、最初にやること
一、避難所まで、実際に歩いてみる。地図で見るのと、歩くのは違います。
二、自治体の防災情報に登録する。メール、アプリ、防災無線の確認。
三、ごみ出しと、地域の連絡の仕組みを知る。災害のとき、この人間関係が効きます。
四、家具を固定する。入居してすぐが、いちばんやりやすいときです。
五、備蓄の置き場所を決める。荷ほどきのついでに決めてしまってください。
引っ越し直後は、面倒に感じます。けれど、この時期を逃すと、そのまま何年も過ぎます。
家族の形によって、見るところが変わります
同じ物件でも、住む人によって向き不向きがあります。
小さなお子さんがいる場合
抱いて逃げられる距離に、避難所があるか。これが最大の条件になります。
大人の足で15分でも、子どもを抱えて、荷物を持って、雨の中を歩けば倍かかります。実際に歩いて、時間を測ってみてください。
そして通学路と、保育園までの道です。ブロック塀、崖、川、踏切。親がいない時間に何が起きるかを想像してください。
高齢のご家族がいる場合
階段の上り下りが、いちばんの壁になります。停電でエレベーターが止まったとき、高層階からは動けなくなります。
そして避難所までの経路に、急な坂や段差がないか。車椅子や杖なら、なおさらです。
1階は浸水に弱く、高層階は停電に弱い。この二つを天秤にかけることになります。多くの場合、2階から3階が折り合いのつく高さです。
在宅で医療機器を使う場合
停電が、そのまま命に関わります。ここは、他のすべてに優先します。
見るのは、電力の復旧が早い地域かどうか、非常用電源のある建物かどうかです。
そして、入居が決まったら電力会社に事前登録してください。設備を整えるより、この登録のほうが確実です。
電源の備えはポータブル電源のおすすめと選び方にまとめました。
ペットと暮らす場合
ペットと一緒に入れる避難所があるかを、先に調べてください。自治体によって対応が違います。
受け入れがない地域なら、車中泊か、預け先か、在宅避難のどれかを選ぶことになります。それによって、必要な備えが変わります。
この確認は、引っ越し先を決めるときにしかできません。災害が起きてからでは遅すぎます。
一人暮らしの場合
誰も助けに来ないという前提で考えてください。閉じ込められても、気づかれるまで時間がかかります。
だから、家具の固定と、玄関までの動線がとくに大事になります。倒れた家具で出られなくなるのが、いちばん困ります。
そして、大家さんや近所の人と、顔を合わせておいてください。「あの部屋の人」と認識されているかどうかで、安否確認の速さが変わります。
引っ越しそのものを、防災の機会にする
荷物を全部動かす。これほどよい機会は、めったにありません。
荷造りのときにできること
一、備蓄の棚卸しをする。期限切れの水や食料が出てきます。捨てるついでに、買い直してください。
二、要らない家具を減らす。家具が少ないほど、倒れるものが減ります。引っ越しは、処分のいちばんの機会です。
三、重要書類をまとめる。保険証券、権利証、通帳、パスポート。一か所にまとめて、持ち出せる形にしてください。
四、写真に撮っておく。証券や免許証は、撮ってスマートフォンに入れておくと、紛失しても再発行が早くなります。
荷解きのときにできること
一、背の高い家具を、寝室と出入口から離す。置く前に決めれば、費用はかかりません。
二、固定金具を、その日に付ける。「あとで」は来ません。
三、備蓄の定位置を決める。玄関に近く、取り出しやすいところです。
四、寝室に靴を置く。底の厚い運動靴を一足。
五、非常持ち出し袋を、玄関に置く。中身は非常持ち出し袋の中身にまとめました。
手続きのついでにできること
住所変更で役所に行くとき、防災の窓口にも寄ってください。
地域のハザードマップの冊子がもらえます。紙で手元にあると、停電しても見られます。
そして、自治体の防災メールに登録してください。その場でできます。
火災保険の住所変更も忘れないでください。引っ越し先の水災の危険度によって、必要な補償が変わります。そのまま持ち越さず、内容を見直す機会にしてください。
よくある質問
Q. 気に入った物件が、浸水想定区域にありました
やめるべきだ、とは申し上げません。判断の材料を増やしてください。
見るのは三つです。想定される深さ。建物の階数。避難のしやすさ。
浸水想定0.5メートルで3階建ての2階以上なら、現実的な選択になりえます。想定5メートルで平屋なら、慎重に考えてください。
Q. 賃貸でも説明してもらえますか
はい。売買だけでなく、賃貸借にも適用されます。部屋を借りるときにも、水害ハザードマップ上の位置が説明されます。
もし説明がなかったら、その場で聞いてください。「ハザードマップ上の位置を教えてください」で通じます。
Q. 中古住宅を買います。何を確認すべきですか
建築年が最優先です。1981年6月と2000年6月、この二つの境目で耐震の基準が変わっています。
次に、過去に浸水したことがあるか。売主に聞いてください。床下の跡や、1階の壁の張り替えの跡が手がかりになることもあります。
そして、地盤調査の記録が残っているか。あれば見せてもらってください。
Q. 高台なら安全ですか
洪水には強くなります。ただし、土砂災害の危険が加わることがあります。
特に、斜面を削ったり盛ったりして造成した土地は、地震のときに動くことがあります。造成地の境目、盛土の部分が弱点です。
高台なら安心、とは言い切れません。その高台がどうやってできたかを見てください。
Q. すでに住んでいます。いまさら調べる意味はありますか
あります。むしろ、いちばん意味があります。
引っ越すかどうかの判断だけが、目的ではありません。逃げるかどうか、いつ逃げるか、どこへ逃げるか。これを決めるために要る情報です。
今夜、住所を入れて調べるだけです。10分で終わります。
Q. 子どもの通学路も見たほうがよいですか
ぜひ見てください。親がいない時間に災害が起きる可能性があります。
ブロック塀、崖、川、アンダーパス、踏切。一度、一緒に歩いてください。そして「ここで揺れたらどうする」を話しておいてください。
Q. 不動産業者に、どう聞けばよいですか
身構える必要はありません。この四つを聞くだけで足ります。
一、「ハザードマップ上の位置を教えてください」。これは説明義務がありますので、必ず答えが返ります。
二、「浸水の想定は何メートルですか」。深さで、逃げ方が変わります。
三、「この建物は、いつ建てられましたか」。耐震の基準が分かります。
四、「過去に浸水したことはありますか」。義務ではありませんが、聞けば答えてもらえることが多くあります。
嫌がられるのでは、と心配される方がいます。まともな業者ほど、こうした質問を歓迎します。説明を面倒がる相手なら、それ自体が判断材料です。
Q. 新築なら、地盤は大丈夫ですか
建てる前に地盤調査を行い、必要なら改良する仕組みになっています。ですから、何もされていないということはまずありません。
ただし、地盤改良は建物を支えるためのものです。周りの道路や水道管が液状化で壊れることまでは、防げません。
調査の記録を見せてもらってください。どんな地盤だったかが分かります。
Q. 転勤で、選ぶ余地がありません
それでも調べる価値はあります。選べなくても、備え方は変えられるからです。
浸水想定が深い地域なら、1階に大事なものを置かない。早めに逃げる。それだけで結果が変わります。
そして、会社の借り上げ社宅でも、水災補償の有無は確認してください。建物は会社の契約でも、家財は自分の契約であることが多くあります。
Q. 二拠点で暮らしています。両方調べるべきですか
両方です。そして、それぞれで避難所と経路が違います。
ふだん住んでいない側ほど、地域の情報が入ってきません。防災無線も聞き慣れず、近所づきあいもありません。
だからこそ、滞在先の自治体の防災メールにも登録しておいてください。登録は無料で、いくつでもできます。
住まいを守る、8つの記事
家の防災は、選ぶ・強くする・守る・備えるの順で考えると迷いません。
まとめ
要点を並べます。
一、土地だけは、あとから変えられません。決める前に調べてください。
二、2020年8月28日から、水害ハザードマップ上の位置の説明が義務です。賃貸でも同じです。
三、液状化と地盤には、説明義務がありません。自分で調べてください。
四、避難所までの経路を、地図で引いてください。橋や崖や地下道が途中にないか。
五、内見では、建築年と1階の使われ方と周りの高低を見てください。
六、集合住宅では、給水方式を聞いてください。停電で断水するかが決まります。
七、リスクを知って住むのは、悪いことではありません。知らずに住むのが危ないのです。
引っ越しは、防災でいちばん大きな一手です。そして、たいていの人が、それに気づかないまま決めてしまいます。
次に住まいを探すときは、間取り図を見る前に、住所を地図に入れてください。順番を変えるだけで、選ぶものが変わります。
備え全体の順番は防災は何から始める?最初にやること8ステップに、賃貸での負担の分かれ目は賃貸住宅で災害が起きたときの原状回復義務にまとめています。


