【この記事の要約】
ヒートショックは、急な温度差で血圧が大きく動き、心臓や血管に負担がかかることをいいます。いちばん多いのが入浴中です。厚生労働省の人口動態統計では、令和4年に家庭や施設の浴槽で亡くなった方は5,824人。そして入浴中に何らかの事故で亡くなる方は、年間およそ1万9,000人と推計されています。その9割以上が65歳以上です。ここでお伝えしたいのは、危ないのが浴槽そのものではないということです。血圧は入浴のあいだに3回動きます。脱衣所で上がり、湯につかって下がり、出るときにもう一度下がります。つまり危険なのは「寒い脱衣所」と「湯から出た直後」です。対策も単純で、温度差を消すことに尽きます。脱衣所と浴室を先に暖め、湯温は39〜41度にし、長湯を避ける。これだけで、血圧の振れ幅は小さくなります。そして防災の観点では、停電や災害のあとこそ危険が上がります。暖房が止まった家の浴室は、平時より冷えるからです。
冬になると、必ず届く相談があります。
「親が風呂で倒れないか心配だ」というものです。
私は札幌に住んでいて、防災士として活動しています。知人から相談を受けることがあり、この話はほぼ毎年出ます。
そして毎回、同じところで話がかみ合いません。多くの方が「熱い湯が危ない」と思っておられるからです。
実際は、少し違います。
結論|危ないのは浴槽ではなく、脱衣所と、出た直後です
先に、いちばん大事なことを書きます。
ヒートショックの正体は、温度差です。湯の熱さそのものではありません。
暖かい居間から寒い脱衣所へ移った瞬間に血圧が上がり、湯につかると下がり、湯から出るときにもう一度下がります。この振れ幅が大きいほど、心臓と血管への負担が増えます。
ですから対策は「温度差を消すこと」です。脱衣所と浴室を暖めるのが、いちばん効きます。
湯温を下げるより先に、脱衣所を暖めてください。
順番が逆になっている方が、とても多いのです。
どれくらい起きているのか
数字を見ておきます。実感より、はるかに多いはずです。
| 項目 | 数 | 出典 |
|---|---|---|
| 家庭や施設の浴槽での溺死 | 5,824人(令和4年) | 厚生労働省 人口動態統計 |
| 入浴中の死亡(推計) | 年間およそ1万9,000人 | 消費者庁が示した推計 |
| 65歳以上が占める割合 | 9割以上 | 同上 |
| 増えている年齢層 | とくに75歳以上 | 同上 |
| 集中する時期 | 12月から2月 | 同上 |
「浴槽での溺死5,824人」と「入浴中の死亡1万9,000人」の差に、注目してください。
この差は、浴槽で溺れた形になっていない死亡です。
脱衣所で倒れた。湯から出たあとに倒れた。心筋梗塞や脳卒中として記録された。そうした事例が含まれるとされています。
つまり「溺死」の数字だけを見ると、実態を小さく見積もることになります。
冬に集中します
12月から2月に急増します。
理由は単純で、この時期がいちばん温度差が大きいからです。
居間は暖房で20度以上。脱衣所は10度を切ることがあります。そして湯は40度前後です。
短時間のうちに、30度以上の差を身体が受けることになります。
しくみ|血圧は、入浴のあいだに3回動きます
ここを理解しておくと、対策の理由が分かります。
①脱衣所で、血圧が上がります
寒い場所で服を脱ぐと、皮膚の温度が下がります。
身体は、体の中心の温度を保とうとします。そのために、手足の血管を細くします。
血管が細くなれば、同じ量の血液を流すのに強い圧力が要ります。ですから血圧が上がります。
ここが1回目の山です。
②湯につかると、血圧が下がります
温まると、今度は血管がひろがります。
ひろがれば圧力は下がります。さきほど上がった血圧が、逆方向へ動きます。
同時に、水の圧力が身体を押します。これによって心臓へ戻る血液が増え、心臓の仕事量も増えます。
③湯から出るときが、いちばん危険です
ここが最大の山場です。
立ち上がると、身体を押していた水の圧力が一気になくなります。血管はまだひろがったままです。
結果として、立ちくらみ(起立性低血圧)が起きやすくなります。
そして重要な点があります。出た直後だけでなく、しばらくしてから意識を失う場合もあるとされています。
「湯から出られたから、もう大丈夫」ではありません。
浴室で立ち上がった瞬間に意識が遠のけば、そのまま浴槽へ沈むことになります。これが「浴槽での溺死」として記録される経路です。
なぜ、防災の記事でこれを書くのか
ヒートショックは、平時の健康問題として語られることが多いテーマです。
ですが、災害のあとにこそ危険が上がります。
| 災害後の状況 | 何が起きるか |
|---|---|
| 停電した | 脱衣所の暖房が使えません。温度差が平時より大きくなります |
| ガスが止まった | ぬるい湯に長くつかる、追い焚きができない |
| 断水した | 久しぶりの入浴で、長湯になりやすい |
| 避難所生活のあと | 疲労と睡眠不足が重なっています |
| 寒い家に戻った | 家全体が冷えており、脱衣所はさらに冷えています |
「久しぶりにお風呂に入れた」という場面が、いちばん危ないのです。
断水が解消した日。停電から復旧した日。安心して、いつもより長くつかります。
そのとき、家はまだ冷えきっています。
冬の停電で何が起きるかは停電対策【冬編】低体温症を防ぐ準備・グッズ・行動マニュアルにまとめました。
とくに気をつけたい方
| 条件 | ひとこと |
|---|---|
| 65歳以上 | 入浴中の死亡の9割以上。とくに75歳以上で増えています |
| 心不全がある | 心臓への負担が問題になります |
| 脳血管の病気がある | 血圧の急な変動が影響します |
| 過去に意識を失ったことがある | 入浴中でなくても、一度あれば要注意です |
| 高血圧・糖尿病がある | 血圧や血管の調節に関わります |
| 飲酒後 | 血圧が下がりやすく、判断も鈍ります |
ここに当てはまる方の入浴について、私は個別の可否を判断できません。
持病がある方、薬を飲んでおられる方は、入浴の温度や時間について、かかりつけの医師にご相談ください。この記事に書けるのは、一般的な傾向までです。
高齢の方は、寒さを感じにくくなります
もうひとつ、見落とされる点があります。
年齢を重ねると、寒さを感じる力そのものが鈍ります。
ご本人は「寒くない」とおっしゃいます。けれど身体は、しっかり反応しています。
ですから本人の申告ではなく、温度計で判断してください。
この点は高齢の家族は寒さを感じにくい|冬の災害で先に守る首・頭・手・足の4か所に詳しく書きました。
対策|温度差を消す
やることは、ほぼこれだけです。
①脱衣所を暖める
いちばん効きます。そして、いちばん忘れられます。
方法は問いません。小型のヒーターでも、入浴の10分前から点けておけば十分です。
目標は、居間との差をできるだけ小さくすることです。
WHOは冬の室温として18度以上を勧告しています。そして日本の住宅の脱衣所は、平均12.6度という調査があります。この数字については冬の室温はWHOが18度以上を勧告|日本の居間は平均16.7度、脱衣所は12.6度に整理しました。
②浴室を暖める
浴室暖房があれば、それを使います。
なければ、シャワーで湯を張るという方法があります。
浴槽にふたをせず、高い位置からシャワーで湯を入れる。湯気が浴室全体を暖めます。
湯を張る時間を、そのまま暖房時間に変えるわけです。追加の道具が要りません。
③湯温は39〜41度
推奨されているのは39〜41度です。
そして43度は避けてください。
43度の入浴は、38度と比べて湯から出たあとの血圧低下が長く続くとされています。深部の体温が上がりすぎるためです。
「熱い湯のほうがさっぱりする」という方は多いのですが、身体への負担はここで決まります。
④長湯しない
温まるほど血管はひろがり、血圧は下がります。
長くつかるほど、出るときの落差が大きくなります。
⑤食後すぐと、飲酒後を避ける
食後は消化のために血液が胃腸へ集まります。飲酒後は血圧が下がりやすくなります。
どちらも、入浴による血圧低下と重なります。
⑥一番風呂を避ける
一番風呂は、浴室がいちばん冷えています。
誰かが入ったあとは、湯気で浴室が暖まっています。高齢のご家族には、2番目以降に入っていただくほうが安全です。
⑦声をかける
家族が5分ごとに様子を確認する、という方法が挙げられています。
大げさに思えるかもしれません。ですが、意識を失ってから発見までの時間が、そのまま結果を左右します。
「お湯加減どう?」と一声かけるだけで構いません。返事がないことに早く気づけます。
⑧出るときは、ゆっくり
ここが最大の危険です。
浴槽のふちに手をかけ、ゆっくり立ち上がってください。急に立つほど、血圧の落差が大きくなります。
半身浴も勧められています。水の圧力が小さいぶん、出るときの落差が減ります。
対策の優先順位
全部は無理という方へ、順番を示します。
| 順位 | やること | 費用 |
|---|---|---|
| 1 | 脱衣所を暖める | 小型ヒーターで数千円 |
| 2 | シャワーで湯を張り、浴室を暖める | 0円 |
| 3 | 湯温を39〜41度にする | 0円 |
| 4 | 長湯をやめる、一番風呂を避ける | 0円 |
| 5 | 入浴前に声をかける習慣にする | 0円 |
| 6 | 脱衣所と浴室に温度計を置く | 千円台 |
2番目から5番目は、今日から0円でできます。
そして6番目の温度計を、私は強く勧めます。
数字が見えないと、寒さは主観のままです。「思ったより寒かった」と分かることに意味があります。
倒れている人を見つけたら
順番を決めておいてください。慌てると忘れます。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 浴槽の栓を抜く。溺れるのを止めるのが最優先です |
| 2 | 大声で人を呼ぶ。一人で運び出そうとしないでください |
| 3 | 119番通報する |
| 4 | 顔が湯に沈まないよう支える |
| 5 | 可能なら浴槽から出し、身体を拭いて保温する |
「まず栓を抜く」を、いちばん上に置きました。
湯につかった大人を、一人で引き上げるのはほぼ不可能だからです。水位を下げるほうが先です。
その後の救命処置については、消防署の講習で実技を受けておくことをお勧めします。文章で覚えられるものではありません。
住まいの側から減らす
ここまでは行動の話でした。建物で解決する方法もあります。
| 方法 | 効果 |
|---|---|
| 浴室暖房を入れる | 脱衣所と浴室の両方を暖められる機種もあります |
| 窓を断熱する | 浴室と脱衣所の窓は、熱が逃げる最大の場所です |
| 脱衣所の床を断熱する | 足元の冷えが体感を左右します |
| ドアの隙間をふさぐ | 暖めた空気が逃げません |
浴室と脱衣所の窓は、見落とされます。
「風呂に窓は要るもの」と思われていますが、冬はここから熱が逃げ続けています。
断熱の工事が難しくても、内窓や断熱シートで差は出ます。自治体の補助金の対象になることもあります。
災害のあとの入浴で、気をつけること
最後に、防災士としてお伝えしておきたい点です。
復旧した日が、いちばん危ない
断水や停電から復旧した日。「やっと風呂に入れる」という日です。
このとき、次の条件が重なっています。
- 家がまだ冷えきっている
- 数日ぶんの疲労がたまっている
- 睡眠が不足している
- うれしくて、つい長湯になる
この日こそ、ぬるめ・短時間にしてください。
入浴施設や仮設の風呂でも同じです
避難生活では、自衛隊や自治体の入浴支援を利用することがあります。
仮設の浴場は、脱衣スペースが屋外に近いことがあります。
建物の中の風呂より、温度差が大きくなります。上着を最後まで脱がない、出たらすぐ着る。これだけでも違います。
避難所では、そもそも入浴の機会が減ります
入浴できない期間が続くこと自体も、健康の問題です。
身体を拭くシートや、ドライシャンプーを備えておくと、この期間をしのげます。冬の避難所で何を優先するかは冬の避難所は床が最優先|2024年能登で起きた寒さと感染症を防ぐ3手当てに書きました。
「うちは大丈夫」と思われる方へ
この記事を読んで、多くの方はこう思われます。
「うちの風呂は寒くない」
その感覚は、たいてい居間から見たものです。
脱衣所の温度を、実際に測ったことがある方はほとんどいません。私が相談を受けるときも、測っておられた方は一人もいませんでした。
そして測ってみると、ほぼ全員が「思ったより低い」とおっしゃいます。
新しい家でも起こります
「古い家の話でしょう」と言われることもあります。
断熱性能が高い住宅では、確かに温度差は小さくなります。
ただし浴室と脱衣所は、家のなかで最後に暖まる場所です。窓があり、水を使い、常時暖房していないからです。
新しい家だから安心、とは言えません。測ってみるまでは分かりません。
暖かい地域ほど危ないという指摘もあります
意外に思われるかもしれませんが、寒冷地より温暖な地域のほうが、住宅の断熱が弱いことがあります。
北海道の住宅は、寒さを前提に作られています。二重窓が標準で、家全体を暖める設計です。
いっぽう、冬の寒さが厳しくない地域では、部屋ごとに暖める使い方が一般的です。暖房のない廊下や脱衣所との差が、そのぶん大きくなります。
実際、屋内での凍死についても、北海道より南の県で増えているという事実があります。この点は凍死は屋内で起きています|年間1000人前後、北海道より南の県で増えているに書きました。
「寒い地域の話」ではありません。
家のなかの、温度の地図を作る
対策の前に、いまの状態を知る必要があります。
冬の家のなかは、場所によって10度以上ちがいます。
| 場所 | 冬の状態 | ひとこと |
|---|---|---|
| 居間 | 暖房で20度前後 | ここが基準になります |
| 脱衣所 | 調査では平均12.6度 | 居間との差がそのまま負担です |
| 浴室 | 脱衣所と同等かそれ以下 | タイルの床は体感がさらに低い |
| 廊下 | 暖房がないことが多い | 移動のたびに温度差を受けます |
| トイレ | 家のなかで最も冷える場所のひとつ | 夜中に立つ場面が危険です |
| 寝室 | 就寝中は暖房を切ることが多い | 起床時に差が出ます |
ここで一度、実際に測ってみてください。
千円台の温度計を、脱衣所とトイレに置くだけです。「思っていたより寒い」と気づくことに、意味があります。
数字が見えないと、寒さは主観のままです。そして高齢の方ほど、その主観がずれていきます。
目標は「差を10度以内に」
すべての部屋を暖めるのは現実的ではありません。
ですから、差を小さくすることを目標にします。
居間が20度なら、脱衣所を15度前後まで上げる。それだけで、身体が受ける衝撃はかなり減ります。
脱衣所を居間と同じ20度にする必要はありません。完璧を目指すと続きません。
入浴以外でも起きています
ヒートショックは、風呂の話だと思われがちです。
ですが温度差があれば、どこでも起こります。
| 場面 | なぜ危ないか |
|---|---|
| 夜中のトイレ | 暖かい布団から、いちばん冷える部屋へ移ります |
| 朝の起床時 | 寝室の温度が下がりきっています |
| 玄関で新聞を取る | 薄着のまま外気に触れます |
| ゴミ出し | 朝いちばんに、外へ出ます |
| 洗面所での洗顔 | 冷たい水と冷えた部屋が重なります |
| 雪かき | 寒さに加えて、強い運動が重なります |
「夜中のトイレ」を最上段に置きました。
布団のなかは30度近くあります。そこから10度以下のトイレへ、寝ぼけた状態で移動します。
対策は簡単です。トイレに小さな暖房を置くか、廊下の扉を開けておくだけです。
そして雪かきは、条件がそろいすぎています。寒さのなかで、いきなり全身運動をします。準備運動をしてから出る、朝いちばんを避ける。それだけで違います。
雪下ろしの事故については雪下ろしで死なないための7つの鉄則|死者の9割が65歳以上、一人で屋根に登らないに整理しました。
家族で決めておく3つのこと
ひとりで気をつけるより、決めごとにするほうが続きます。
| 決めごと | 理由 |
|---|---|
| 入る前に、ひと声かける | いつ入ったかが分かります |
| 高齢の家族は、一番風呂に入らない | 浴室が暖まってからにします |
| 浴室のドアに鍵をかけない | 倒れたときに、開けられます |
「鍵をかけない」は、抵抗のある方が多い決めごとです。
ですが、鍵がかかっていると、発見しても中へ入れません。その数分が結果を分けます。
どうしても抵抗がある場合は、外から開けられる仕組みの鍵に替えるという方法もあります。
賃貸でもできること
「工事ができないから無理」と思われる方が多いのですが、そんなことはありません。
| できること | 費用の目安 |
|---|---|
| 脱衣所に小型ヒーターを置く | 数千円 |
| シャワーで湯を張って浴室を暖める | 0円 |
| 窓に断熱シートを貼る | 千円台 |
| ドアの隙間にテープを貼る | 数百円 |
| 脱衣所に厚手のマットを敷く | 数千円 |
| 温度計を置く | 千円台 |
「厚手のマット」は、見落とされがちですが効きます。
足の裏は、体感温度に大きく影響します。冷たい床に素足で立つと、それだけで身体は反応します。
暖房を使うときの注意
脱衣所を暖めることを勧めてきましたが、使い方には注意が要ります。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 燃焼式の暖房を、狭い脱衣所で使わない | 換気が不十分だと一酸化炭素中毒の危険があります |
| 水まわりで電気製品を使う | 感電に注意。濡れた手で触らない |
| タオルや衣類を近づけない | 火災のもとになります |
| つけっぱなしにしない | 入浴の前後だけで十分です |
狭い脱衣所では、電気式のものを選んでください。
灯油やガスを燃やす暖房は、換気が前提です。閉め切った脱衣所には向きません。
一酸化炭素中毒の仕組みは災害時の一酸化炭素中毒とは?発電機・炭・車で起きる仕組みと、換気では防げない理由に書きました。
いつ起きているのか|時間帯と、月ごとの動き
起きやすい時間があります。
入浴のピークと、気温が下がる時間が重なるからです。
| 時間帯 | 状況 |
|---|---|
| 夕方から夜 | 入浴が集中し、外気温も下がっていきます |
| 就寝前 | 家全体が冷え、脱衣所との差が最大になります |
| 夜中 | トイレへの移動。布団との温度差が大きい |
| 早朝 | 1日でいちばん気温が低い時間帯です |
夜遅い入浴ほど、条件は悪くなります。
「暖房を切ってから風呂に入る」という順番の方は、逆にしてください。入浴を済ませてから暖房を切るほうが安全です。
月でいうと12月から2月です
この3か月に集中します。
ただし札幌のような寒冷地では、11月や3月も油断できません。暖房を入れ始める前、切ったあとが危ないからです。
「まだ暖房を入れるほどではない」と思っている時期こそ、脱衣所は冷えています。
血圧の話を、どこまで気にするか
ここは慎重に書きます。
「血圧がいくつなら入浴して良い」という基準を、私は示せません。
年齢、持病、飲んでいる薬によって変わるからです。これは医師の領域です。
そのうえで、一般に言えることを書きます。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 体調が悪い日 | 入浴を見送る判断があります |
| 血圧の薬を飲んでいる | 入浴で血圧が下がりやすくなります。医師に相談してください |
| ふだんから立ちくらみがある | 出るときの動作を、とくにゆっくりに |
| 過去に浴室で気分が悪くなった | 一度でもあれば、医師に伝えてください |
「一度でもあれば伝える」を強調しておきます。
浴室で気分が悪くなった経験は、たいてい家族にも言われません。「のぼせただけ」で片づけられます。
ですが、意識を失った経験がある方は注意が必要とされています。次があるかもしれない、と考えてください。
私が、この記事を書いた理由
私は札幌に住んでいます。
雪や寒さの記事を書いてきましたが、この話は少し性質が違います。
吹雪も、大雪も、来ると分かります。備える時間があります。
ヒートショックは、何も起きていない普通の日に起こります。
台風のように予報が出ることもありません。毎日くり返している行動のなかに、静かにあります。
だからこそ、仕組みで止めるしかありません。気をつけよう、では続きません。
脱衣所に暖房を置く。温度計を置く。鍵をかけない。一度やれば、あとは考えなくて済みます。
そしてこの備えは、災害のときにそのまま効きます。停電で家が冷えたとき、温度計があれば判断できます。断水明けの入浴で、長湯を避ける理由が分かっています。
防災の記事としてこれを書いたのは、そういう理由です。
よくある質問
Q. 熱い湯が好きです。何度までなら大丈夫ですか?
推奨されているのは39〜41度です。
43度は、38度と比べて出浴後の血圧低下が長く続くとされています。
ただし「あなたにとって何度までなら安全か」は、私には答えられません。持病や服薬の有無で変わります。気になる方は医師にご相談ください。
Q. シャワーだけなら安全ですか?
浴槽につかるより、血圧の変動は小さくなります。水の圧力がかからないためです。
ただし脱衣所が寒ければ、最初の血圧上昇は同じように起こります。
シャワーにしたから対策は不要、とはなりません。脱衣所を暖める必要は変わりません。
Q. 若ければ心配ないですか?
入浴中の死亡の9割以上は65歳以上です。年齢が上がるほど危険が増すのは、そのとおりです。
ただし年齢だけで決まるものではありません。過去に意識を失ったことがある方は、年齢にかかわらず注意が必要とされています。
Q. 脱衣所に暖房の電源がありません
いくつか方法があります。
- 入浴の前に、浴室の扉を開けて浴室暖房で暖める
- シャワーで湯を張り、扉を開けて湯気を脱衣所へ回す
- 入浴直前まで、隣の部屋の暖かい空気を入れておく
- 着替えを暖かい部屋に置き、そこで着る
「暖かい部屋で着替える」は、意外と効きます。寒い脱衣所にいる時間そのものを短くできます。
Q. 停電したとき、風呂に入ってもいいですか?
暖房が使えない状態での入浴は、平時より危険が上がります。
湯が沸かせるとしても、脱衣所と浴室は暖められません。温度差が最大になります。
短時間で済ませるか、身体を拭くだけにとどめる判断も必要です。とくに高齢のご家族は、無理に入らないほうが安全です。
Q. ヒートショックは風呂だけで起きますか?
いいえ。温度差があれば、どこでも起こりえます。
寒いトイレ、暖房のない廊下、朝の玄関。暖かい場所から寒い場所へ移るときは、同じことが起きています。
冬の夜中にトイレへ立つ場面は、条件がそろいます。廊下やトイレを少し暖めておくことにも意味があります。
Q. 一人暮らしです。どうすればいいですか?
できることを挙げます。
- 脱衣所と浴室を、必ず先に暖める
- 湯温をぬるめにし、長湯をしない
- 飲酒後は入らない
- 入浴前に、家族や知人へ一報を入れる習慣にする
- 浴室のドアの鍵はかけない
「鍵をかけない」は、見つかったときに助けられるかどうかを分けます。
Q. 温度計はどこに置けばいいですか?
脱衣所とトイレ、この2か所から始めてください。
置く高さは、床から1メートルほど。顔の高さではなく、身体の中心あたりです。
床に近いほど温度は低くなります。足元の冷えを知りたい場合は、あえて低い位置に置くのも有効です。
Q. 浴室暖房は、いつから点ければいいですか?
入浴の10分ほど前が目安です。
それより早く点けても構いませんが、電気代に見合う差は出にくくなります。
浴室暖房がない場合は、湯を張り始めるときから扉を閉めておくだけで、湯気がこもって暖まります。
Q. 高齢の親が、対策を聞き入れてくれません
よくあるご相談です。
「危ないから」と言うと、たいてい反発されます。
私が勧めているのは、数字を見せることです。
脱衣所に温度計を置いて、「いま何度だった?」と聞く。本人が数字を見ると、話が変わることがあります。
それでも難しければ、本人に何も要求しない対策から入ってください。脱衣所のヒーターをこちらで置く、一番風呂の順番を変える。本人の行動を変えなくて済む方法から始めるのが現実的です。
Q. 災害の備えとして、何を用意すればいいですか?
ヒートショックの観点でいえば、次のものです。
- 電池式の温度計(停電しても使えます)
- 身体を拭くシート(入浴できない期間をしのぐため)
- 厚手の靴下と、脱衣所用のマット
- 着替えを暖かい部屋へ持ち込むための、かご
特別なものは要りません。停電しても温度が分かること、入浴しなくても清潔を保てること。この2つです。
まとめ|温度差を消せば、危険は下がります
| 要点 | 内容 |
|---|---|
| 正体 | 湯の熱さではなく、温度差による血圧の急変 |
| 数 | 浴槽での溺死5,824人(令和4年)/入浴中の死亡は推計およそ1万9,000人 |
| 誰に | 9割以上が65歳以上。とくに75歳以上 |
| いつ | 12月から2月に集中 |
| 血圧の動き | 脱衣所で上がり、湯で下がり、出るときにもう一度下がる |
| 最大の危険 | 湯から出るとき。しばらくしてから意識を失うこともある |
| 最優先の対策 | 脱衣所を暖める |
| 0円でできること | シャワーで湯を張る/39〜41度/長湯をやめる/声をかける |
| 災害時 | 停電・断水からの復旧日がいちばん危ない |
| 倒れていたら | まず栓を抜く。次に人を呼ぶ |
この記事で書いたのは、一般的に知られている数字と、広く勧められている対策までです。
持病のある方、薬を飲んでおられる方の入浴について、私は個別の判断ができません。入浴の温度や時間に不安がある方は、かかりつけの医師にご相談ください。
そのうえで、脱衣所を暖めることには、誰にとっても不利益がありません。
今年の冬、脱衣所に暖房と温度計を置いてみてください。数字を見ると、たいてい驚かれます。
【出典】
厚生労働省「人口動態統計」(家庭・施設の浴槽での溺死者数)
消費者庁(入浴中の死亡に関する推計、年齢構成、発生時期)
東京都健康長寿医療センター(血圧変動の仕組み、推奨湯温、予防法)
本記事は一般的な情報の提供を目的としています。個別の健康状態に関する判断は、医療機関にご相談ください。





