ヒートショックは脱衣所で始まる|浴槽の死者5,824人と39〜41度の上限

ヒートショックは脱衣所で始まる|浴槽の死者5,824人と39〜41度の上限

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【この記事の要約】
ヒートショックは、急な温度差で血圧が大きく動き、心臓や血管に負担がかかることをいいます。いちばん多いのが入浴中です。厚生労働省の人口動態統計では、令和4年に家庭や施設の浴槽で亡くなった方は5,824人。そして入浴中に何らかの事故で亡くなる方は、年間およそ1万9,000人と推計されています。その9割以上が65歳以上です。ここでお伝えしたいのは、危ないのが浴槽そのものではないということです。血圧は入浴のあいだに3回動きます。脱衣所で上がり、湯につかって下がり、出るときにもう一度下がります。つまり危険なのは「寒い脱衣所」と「湯から出た直後」です。対策も単純で、温度差を消すことに尽きます。脱衣所と浴室を先に暖め、湯温は39〜41度にし、長湯を避ける。これだけで、血圧の振れ幅は小さくなります。そして防災の観点では、停電や災害のあとこそ危険が上がります。暖房が止まった家の浴室は、平時より冷えるからです。

冬になると、必ず届く相談があります。

「親が風呂で倒れないか心配だ」というものです。

私は札幌に住んでいて、防災士として活動しています。知人から相談を受けることがあり、この話はほぼ毎年出ます。

そして毎回、同じところで話がかみ合いません。多くの方が「熱い湯が危ない」と思っておられるからです。

実際は、少し違います。

目次

結論|危ないのは浴槽ではなく、脱衣所と、出た直後です

先に、いちばん大事なことを書きます。

ヒートショックの正体は、温度差です。湯の熱さそのものではありません。
暖かい居間から寒い脱衣所へ移った瞬間に血圧が上がり、湯につかると下がり、湯から出るときにもう一度下がります。この振れ幅が大きいほど、心臓と血管への負担が増えます。
ですから対策は「温度差を消すこと」です。脱衣所と浴室を暖めるのが、いちばん効きます。

湯温を下げるより先に、脱衣所を暖めてください。

順番が逆になっている方が、とても多いのです。

どれくらい起きているのか

数字を見ておきます。実感より、はるかに多いはずです。

項目 数 出典
家庭や施設の浴槽での溺死 5,824人(令和4年) 厚生労働省 人口動態統計
入浴中の死亡(推計) 年間およそ1万9,000人 消費者庁が示した推計
65歳以上が占める割合 9割以上 同上
増えている年齢層 とくに75歳以上 同上
集中する時期 12月から2月 同上

「浴槽での溺死5,824人」と「入浴中の死亡1万9,000人」の差に、注目してください。

この差は、浴槽で溺れた形になっていない死亡です。

脱衣所で倒れた。湯から出たあとに倒れた。心筋梗塞や脳卒中として記録された。そうした事例が含まれるとされています。

つまり「溺死」の数字だけを見ると、実態を小さく見積もることになります。

冬に集中します

12月から2月に急増します。

理由は単純で、この時期がいちばん温度差が大きいからです。

居間は暖房で20度以上。脱衣所は10度を切ることがあります。そして湯は40度前後です。

短時間のうちに、30度以上の差を身体が受けることになります。

しくみ|血圧は、入浴のあいだに3回動きます

ここを理解しておくと、対策の理由が分かります。

①脱衣所で、血圧が上がります

寒い場所で服を脱ぐと、皮膚の温度が下がります。

身体は、体の中心の温度を保とうとします。そのために、手足の血管を細くします。

血管が細くなれば、同じ量の血液を流すのに強い圧力が要ります。ですから血圧が上がります。

ここが1回目の山です。

②湯につかると、血圧が下がります

温まると、今度は血管がひろがります。

ひろがれば圧力は下がります。さきほど上がった血圧が、逆方向へ動きます。

同時に、水の圧力が身体を押します。これによって心臓へ戻る血液が増え、心臓の仕事量も増えます。

③湯から出るときが、いちばん危険です

ここが最大の山場です。

立ち上がると、身体を押していた水の圧力が一気になくなります。血管はまだひろがったままです。

結果として、立ちくらみ(起立性低血圧)が起きやすくなります。

そして重要な点があります。出た直後だけでなく、しばらくしてから意識を失う場合もあるとされています。
「湯から出られたから、もう大丈夫」ではありません。

浴室で立ち上がった瞬間に意識が遠のけば、そのまま浴槽へ沈むことになります。これが「浴槽での溺死」として記録される経路です。

なぜ、防災の記事でこれを書くのか

ヒートショックは、平時の健康問題として語られることが多いテーマです。

ですが、災害のあとにこそ危険が上がります。

災害後の状況 何が起きるか
停電した 脱衣所の暖房が使えません。温度差が平時より大きくなります
ガスが止まった ぬるい湯に長くつかる、追い焚きができない
断水した 久しぶりの入浴で、長湯になりやすい
避難所生活のあと 疲労と睡眠不足が重なっています
寒い家に戻った 家全体が冷えており、脱衣所はさらに冷えています

「久しぶりにお風呂に入れた」という場面が、いちばん危ないのです。

断水が解消した日。停電から復旧した日。安心して、いつもより長くつかります。

そのとき、家はまだ冷えきっています。

冬の停電で何が起きるかは停電対策【冬編】低体温症を防ぐ準備・グッズ・行動マニュアルにまとめました。

とくに気をつけたい方

条件 ひとこと
65歳以上 入浴中の死亡の9割以上。とくに75歳以上で増えています
心不全がある 心臓への負担が問題になります
脳血管の病気がある 血圧の急な変動が影響します
過去に意識を失ったことがある 入浴中でなくても、一度あれば要注意です
高血圧・糖尿病がある 血圧や血管の調節に関わります
飲酒後 血圧が下がりやすく、判断も鈍ります

ここに当てはまる方の入浴について、私は個別の可否を判断できません。

持病がある方、薬を飲んでおられる方は、入浴の温度や時間について、かかりつけの医師にご相談ください。この記事に書けるのは、一般的な傾向までです。

高齢の方は、寒さを感じにくくなります

もうひとつ、見落とされる点があります。

年齢を重ねると、寒さを感じる力そのものが鈍ります。

ご本人は「寒くない」とおっしゃいます。けれど身体は、しっかり反応しています。

ですから本人の申告ではなく、温度計で判断してください。

この点は高齢の家族は寒さを感じにくい|冬の災害で先に守る首・頭・手・足の4か所に詳しく書きました。

対策|温度差を消す

やることは、ほぼこれだけです。

①脱衣所を暖める

いちばん効きます。そして、いちばん忘れられます。

方法は問いません。小型のヒーターでも、入浴の10分前から点けておけば十分です。

目標は、居間との差をできるだけ小さくすることです。

WHOは冬の室温として18度以上を勧告しています。そして日本の住宅の脱衣所は、平均12.6度という調査があります。この数字については冬の室温はWHOが18度以上を勧告|日本の居間は平均16.7度、脱衣所は12.6度に整理しました。

②浴室を暖める

浴室暖房があれば、それを使います。

なければ、シャワーで湯を張るという方法があります。

浴槽にふたをせず、高い位置からシャワーで湯を入れる。湯気が浴室全体を暖めます。

湯を張る時間を、そのまま暖房時間に変えるわけです。追加の道具が要りません。

③湯温は39〜41度

推奨されているのは39〜41度です。

そして43度は避けてください。

43度の入浴は、38度と比べて湯から出たあとの血圧低下が長く続くとされています。深部の体温が上がりすぎるためです。

「熱い湯のほうがさっぱりする」という方は多いのですが、身体への負担はここで決まります。

④長湯しない

温まるほど血管はひろがり、血圧は下がります。

長くつかるほど、出るときの落差が大きくなります。

⑤食後すぐと、飲酒後を避ける

食後は消化のために血液が胃腸へ集まります。飲酒後は血圧が下がりやすくなります。

どちらも、入浴による血圧低下と重なります。

⑥一番風呂を避ける

一番風呂は、浴室がいちばん冷えています。

誰かが入ったあとは、湯気で浴室が暖まっています。高齢のご家族には、2番目以降に入っていただくほうが安全です。

⑦声をかける

家族が5分ごとに様子を確認する、という方法が挙げられています。

大げさに思えるかもしれません。ですが、意識を失ってから発見までの時間が、そのまま結果を左右します。

「お湯加減どう?」と一声かけるだけで構いません。返事がないことに早く気づけます。

⑧出るときは、ゆっくり

ここが最大の危険です。

浴槽のふちに手をかけ、ゆっくり立ち上がってください。急に立つほど、血圧の落差が大きくなります。

半身浴も勧められています。水の圧力が小さいぶん、出るときの落差が減ります。

対策の優先順位

全部は無理という方へ、順番を示します。

順位 やること 費用
1 脱衣所を暖める 小型ヒーターで数千円
2 シャワーで湯を張り、浴室を暖める 0円
3 湯温を39〜41度にする 0円
4 長湯をやめる、一番風呂を避ける 0円
5 入浴前に声をかける習慣にする 0円
6 脱衣所と浴室に温度計を置く 千円台

2番目から5番目は、今日から0円でできます。

そして6番目の温度計を、私は強く勧めます。

数字が見えないと、寒さは主観のままです。「思ったより寒かった」と分かることに意味があります。

倒れている人を見つけたら

順番を決めておいてください。慌てると忘れます。

順 やること
1 浴槽の栓を抜く。溺れるのを止めるのが最優先です
2 大声で人を呼ぶ。一人で運び出そうとしないでください
3 119番通報する
4 顔が湯に沈まないよう支える
5 可能なら浴槽から出し、身体を拭いて保温する

「まず栓を抜く」を、いちばん上に置きました。

湯につかった大人を、一人で引き上げるのはほぼ不可能だからです。水位を下げるほうが先です。

その後の救命処置については、消防署の講習で実技を受けておくことをお勧めします。文章で覚えられるものではありません。

住まいの側から減らす

ここまでは行動の話でした。建物で解決する方法もあります。

方法 効果
浴室暖房を入れる 脱衣所と浴室の両方を暖められる機種もあります
窓を断熱する 浴室と脱衣所の窓は、熱が逃げる最大の場所です
脱衣所の床を断熱する 足元の冷えが体感を左右します
ドアの隙間をふさぐ 暖めた空気が逃げません

浴室と脱衣所の窓は、見落とされます。

「風呂に窓は要るもの」と思われていますが、冬はここから熱が逃げ続けています。

断熱の工事が難しくても、内窓や断熱シートで差は出ます。自治体の補助金の対象になることもあります。

災害のあとの入浴で、気をつけること

最後に、防災士としてお伝えしておきたい点です。

復旧した日が、いちばん危ない

断水や停電から復旧した日。「やっと風呂に入れる」という日です。

このとき、次の条件が重なっています。

  • 家がまだ冷えきっている
  • 数日ぶんの疲労がたまっている
  • 睡眠が不足している
  • うれしくて、つい長湯になる

この日こそ、ぬるめ・短時間にしてください。

入浴施設や仮設の風呂でも同じです

避難生活では、自衛隊や自治体の入浴支援を利用することがあります。

仮設の浴場は、脱衣スペースが屋外に近いことがあります。

建物の中の風呂より、温度差が大きくなります。上着を最後まで脱がない、出たらすぐ着る。これだけでも違います。

避難所では、そもそも入浴の機会が減ります

入浴できない期間が続くこと自体も、健康の問題です。

身体を拭くシートや、ドライシャンプーを備えておくと、この期間をしのげます。冬の避難所で何を優先するかは冬の避難所は床が最優先|2024年能登で起きた寒さと感染症を防ぐ3手当てに書きました。

「うちは大丈夫」と思われる方へ

この記事を読んで、多くの方はこう思われます。

「うちの風呂は寒くない」

その感覚は、たいてい居間から見たものです。

脱衣所の温度を、実際に測ったことがある方はほとんどいません。私が相談を受けるときも、測っておられた方は一人もいませんでした。

そして測ってみると、ほぼ全員が「思ったより低い」とおっしゃいます。

新しい家でも起こります

「古い家の話でしょう」と言われることもあります。

断熱性能が高い住宅では、確かに温度差は小さくなります。

ただし浴室と脱衣所は、家のなかで最後に暖まる場所です。窓があり、水を使い、常時暖房していないからです。

新しい家だから安心、とは言えません。測ってみるまでは分かりません。

暖かい地域ほど危ないという指摘もあります

意外に思われるかもしれませんが、寒冷地より温暖な地域のほうが、住宅の断熱が弱いことがあります。

北海道の住宅は、寒さを前提に作られています。二重窓が標準で、家全体を暖める設計です。

いっぽう、冬の寒さが厳しくない地域では、部屋ごとに暖める使い方が一般的です。暖房のない廊下や脱衣所との差が、そのぶん大きくなります。

実際、屋内での凍死についても、北海道より南の県で増えているという事実があります。この点は凍死は屋内で起きています|年間1000人前後、北海道より南の県で増えているに書きました。

「寒い地域の話」ではありません。

家のなかの、温度の地図を作る

対策の前に、いまの状態を知る必要があります。

冬の家のなかは、場所によって10度以上ちがいます。

場所 冬の状態 ひとこと
居間 暖房で20度前後 ここが基準になります
脱衣所 調査では平均12.6度 居間との差がそのまま負担です
浴室 脱衣所と同等かそれ以下 タイルの床は体感がさらに低い
廊下 暖房がないことが多い 移動のたびに温度差を受けます
トイレ 家のなかで最も冷える場所のひとつ 夜中に立つ場面が危険です
寝室 就寝中は暖房を切ることが多い 起床時に差が出ます

ここで一度、実際に測ってみてください。

千円台の温度計を、脱衣所とトイレに置くだけです。「思っていたより寒い」と気づくことに、意味があります。

数字が見えないと、寒さは主観のままです。そして高齢の方ほど、その主観がずれていきます。

目標は「差を10度以内に」

すべての部屋を暖めるのは現実的ではありません。

ですから、差を小さくすることを目標にします。

居間が20度なら、脱衣所を15度前後まで上げる。それだけで、身体が受ける衝撃はかなり減ります。

脱衣所を居間と同じ20度にする必要はありません。完璧を目指すと続きません。

入浴以外でも起きています

ヒートショックは、風呂の話だと思われがちです。

ですが温度差があれば、どこでも起こります。

場面 なぜ危ないか
夜中のトイレ 暖かい布団から、いちばん冷える部屋へ移ります
朝の起床時 寝室の温度が下がりきっています
玄関で新聞を取る 薄着のまま外気に触れます
ゴミ出し 朝いちばんに、外へ出ます
洗面所での洗顔 冷たい水と冷えた部屋が重なります
雪かき 寒さに加えて、強い運動が重なります

「夜中のトイレ」を最上段に置きました。

布団のなかは30度近くあります。そこから10度以下のトイレへ、寝ぼけた状態で移動します。

対策は簡単です。トイレに小さな暖房を置くか、廊下の扉を開けておくだけです。

そして雪かきは、条件がそろいすぎています。寒さのなかで、いきなり全身運動をします。準備運動をしてから出る、朝いちばんを避ける。それだけで違います。

雪下ろしの事故については雪下ろしで死なないための7つの鉄則|死者の9割が65歳以上、一人で屋根に登らないに整理しました。

家族で決めておく3つのこと

ひとりで気をつけるより、決めごとにするほうが続きます。

決めごと 理由
入る前に、ひと声かける いつ入ったかが分かります
高齢の家族は、一番風呂に入らない 浴室が暖まってからにします
浴室のドアに鍵をかけない 倒れたときに、開けられます

「鍵をかけない」は、抵抗のある方が多い決めごとです。

ですが、鍵がかかっていると、発見しても中へ入れません。その数分が結果を分けます。

どうしても抵抗がある場合は、外から開けられる仕組みの鍵に替えるという方法もあります。

賃貸でもできること

「工事ができないから無理」と思われる方が多いのですが、そんなことはありません。

できること 費用の目安
脱衣所に小型ヒーターを置く 数千円
シャワーで湯を張って浴室を暖める 0円
窓に断熱シートを貼る 千円台
ドアの隙間にテープを貼る 数百円
脱衣所に厚手のマットを敷く 数千円
温度計を置く 千円台

「厚手のマット」は、見落とされがちですが効きます。

足の裏は、体感温度に大きく影響します。冷たい床に素足で立つと、それだけで身体は反応します。

暖房を使うときの注意

脱衣所を暖めることを勧めてきましたが、使い方には注意が要ります。

注意点 内容
燃焼式の暖房を、狭い脱衣所で使わない 換気が不十分だと一酸化炭素中毒の危険があります
水まわりで電気製品を使う 感電に注意。濡れた手で触らない
タオルや衣類を近づけない 火災のもとになります
つけっぱなしにしない 入浴の前後だけで十分です

狭い脱衣所では、電気式のものを選んでください。

灯油やガスを燃やす暖房は、換気が前提です。閉め切った脱衣所には向きません。

一酸化炭素中毒の仕組みは災害時の一酸化炭素中毒とは?発電機・炭・車で起きる仕組みと、換気では防げない理由に書きました。

いつ起きているのか|時間帯と、月ごとの動き

起きやすい時間があります。

入浴のピークと、気温が下がる時間が重なるからです。

時間帯 状況
夕方から夜 入浴が集中し、外気温も下がっていきます
就寝前 家全体が冷え、脱衣所との差が最大になります
夜中 トイレへの移動。布団との温度差が大きい
早朝 1日でいちばん気温が低い時間帯です

夜遅い入浴ほど、条件は悪くなります。

「暖房を切ってから風呂に入る」という順番の方は、逆にしてください。入浴を済ませてから暖房を切るほうが安全です。

月でいうと12月から2月です

この3か月に集中します。

ただし札幌のような寒冷地では、11月や3月も油断できません。暖房を入れ始める前、切ったあとが危ないからです。

「まだ暖房を入れるほどではない」と思っている時期こそ、脱衣所は冷えています。

血圧の話を、どこまで気にするか

ここは慎重に書きます。

「血圧がいくつなら入浴して良い」という基準を、私は示せません。

年齢、持病、飲んでいる薬によって変わるからです。これは医師の領域です。

そのうえで、一般に言えることを書きます。

状況 考え方
体調が悪い日 入浴を見送る判断があります
血圧の薬を飲んでいる 入浴で血圧が下がりやすくなります。医師に相談してください
ふだんから立ちくらみがある 出るときの動作を、とくにゆっくりに
過去に浴室で気分が悪くなった 一度でもあれば、医師に伝えてください

「一度でもあれば伝える」を強調しておきます。

浴室で気分が悪くなった経験は、たいてい家族にも言われません。「のぼせただけ」で片づけられます。

ですが、意識を失った経験がある方は注意が必要とされています。次があるかもしれない、と考えてください。

私が、この記事を書いた理由

私は札幌に住んでいます。

雪や寒さの記事を書いてきましたが、この話は少し性質が違います。

吹雪も、大雪も、来ると分かります。備える時間があります。

ヒートショックは、何も起きていない普通の日に起こります。

台風のように予報が出ることもありません。毎日くり返している行動のなかに、静かにあります。

だからこそ、仕組みで止めるしかありません。気をつけよう、では続きません。

脱衣所に暖房を置く。温度計を置く。鍵をかけない。一度やれば、あとは考えなくて済みます。

そしてこの備えは、災害のときにそのまま効きます。停電で家が冷えたとき、温度計があれば判断できます。断水明けの入浴で、長湯を避ける理由が分かっています。

防災の記事としてこれを書いたのは、そういう理由です。

よくある質問

Q. 熱い湯が好きです。何度までなら大丈夫ですか?

推奨されているのは39〜41度です。

43度は、38度と比べて出浴後の血圧低下が長く続くとされています。

ただし「あなたにとって何度までなら安全か」は、私には答えられません。持病や服薬の有無で変わります。気になる方は医師にご相談ください。

Q. シャワーだけなら安全ですか?

浴槽につかるより、血圧の変動は小さくなります。水の圧力がかからないためです。

ただし脱衣所が寒ければ、最初の血圧上昇は同じように起こります。

シャワーにしたから対策は不要、とはなりません。脱衣所を暖める必要は変わりません。

Q. 若ければ心配ないですか?

入浴中の死亡の9割以上は65歳以上です。年齢が上がるほど危険が増すのは、そのとおりです。

ただし年齢だけで決まるものではありません。過去に意識を失ったことがある方は、年齢にかかわらず注意が必要とされています。

Q. 脱衣所に暖房の電源がありません

いくつか方法があります。

  • 入浴の前に、浴室の扉を開けて浴室暖房で暖める
  • シャワーで湯を張り、扉を開けて湯気を脱衣所へ回す
  • 入浴直前まで、隣の部屋の暖かい空気を入れておく
  • 着替えを暖かい部屋に置き、そこで着る

「暖かい部屋で着替える」は、意外と効きます。寒い脱衣所にいる時間そのものを短くできます。

Q. 停電したとき、風呂に入ってもいいですか?

暖房が使えない状態での入浴は、平時より危険が上がります。

湯が沸かせるとしても、脱衣所と浴室は暖められません。温度差が最大になります。

短時間で済ませるか、身体を拭くだけにとどめる判断も必要です。とくに高齢のご家族は、無理に入らないほうが安全です。

Q. ヒートショックは風呂だけで起きますか?

いいえ。温度差があれば、どこでも起こりえます。

寒いトイレ、暖房のない廊下、朝の玄関。暖かい場所から寒い場所へ移るときは、同じことが起きています。

冬の夜中にトイレへ立つ場面は、条件がそろいます。廊下やトイレを少し暖めておくことにも意味があります。

Q. 一人暮らしです。どうすればいいですか?

できることを挙げます。

  • 脱衣所と浴室を、必ず先に暖める
  • 湯温をぬるめにし、長湯をしない
  • 飲酒後は入らない
  • 入浴前に、家族や知人へ一報を入れる習慣にする
  • 浴室のドアの鍵はかけない

「鍵をかけない」は、見つかったときに助けられるかどうかを分けます。

Q. 温度計はどこに置けばいいですか?

脱衣所とトイレ、この2か所から始めてください。

置く高さは、床から1メートルほど。顔の高さではなく、身体の中心あたりです。

床に近いほど温度は低くなります。足元の冷えを知りたい場合は、あえて低い位置に置くのも有効です。

Q. 浴室暖房は、いつから点ければいいですか?

入浴の10分ほど前が目安です。

それより早く点けても構いませんが、電気代に見合う差は出にくくなります。

浴室暖房がない場合は、湯を張り始めるときから扉を閉めておくだけで、湯気がこもって暖まります。

Q. 高齢の親が、対策を聞き入れてくれません

よくあるご相談です。

「危ないから」と言うと、たいてい反発されます。

私が勧めているのは、数字を見せることです。

脱衣所に温度計を置いて、「いま何度だった?」と聞く。本人が数字を見ると、話が変わることがあります。

それでも難しければ、本人に何も要求しない対策から入ってください。脱衣所のヒーターをこちらで置く、一番風呂の順番を変える。本人の行動を変えなくて済む方法から始めるのが現実的です。

Q. 災害の備えとして、何を用意すればいいですか?

ヒートショックの観点でいえば、次のものです。

  • 電池式の温度計(停電しても使えます)
  • 身体を拭くシート(入浴できない期間をしのぐため)
  • 厚手の靴下と、脱衣所用のマット
  • 着替えを暖かい部屋へ持ち込むための、かご

特別なものは要りません。停電しても温度が分かること、入浴しなくても清潔を保てること。この2つです。

まとめ|温度差を消せば、危険は下がります

要点 内容
正体 湯の熱さではなく、温度差による血圧の急変
数 浴槽での溺死5,824人(令和4年)/入浴中の死亡は推計およそ1万9,000人
誰に 9割以上が65歳以上。とくに75歳以上
いつ 12月から2月に集中
血圧の動き 脱衣所で上がり、湯で下がり、出るときにもう一度下がる
最大の危険 湯から出るとき。しばらくしてから意識を失うこともある
最優先の対策 脱衣所を暖める
0円でできること シャワーで湯を張る/39〜41度/長湯をやめる/声をかける
災害時 停電・断水からの復旧日がいちばん危ない
倒れていたら まず栓を抜く。次に人を呼ぶ

この記事で書いたのは、一般的に知られている数字と、広く勧められている対策までです。

持病のある方、薬を飲んでおられる方の入浴について、私は個別の判断ができません。入浴の温度や時間に不安がある方は、かかりつけの医師にご相談ください。

そのうえで、脱衣所を暖めることには、誰にとっても不利益がありません。

今年の冬、脱衣所に暖房と温度計を置いてみてください。数字を見ると、たいてい驚かれます。

【出典】
厚生労働省「人口動態統計」(家庭・施設の浴槽での溺死者数)
消費者庁(入浴中の死亡に関する推計、年齢構成、発生時期)
東京都健康長寿医療センター(血圧変動の仕組み、推奨湯温、予防法)
本記事は一般的な情報の提供を目的としています。個別の健康状態に関する判断は、医療機関にご相談ください。

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9月1日は防災の日/8月30日〜9月5日は防災週間

1年に一度、備えを点検する日です。10分でできることから始めてください。

この記事を書いた人

北海道札幌市在住の防災・サバイバル情報発信者です。2018年の北海道胆振東部地震を機に「誰でも今日から始められる防災」をモットーに活動を開始し、実際に試した防災グッズのレビューや家族構成別の備え方をわかりやすくお伝えしています。実践的で信頼できる情報を提供できるよう、がんばっています!

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