【この記事の要約】
台風で命を奪ってきたのは、風ではなく水です。台風災害として明治以降で最も多くの命が失われた伊勢湾台風では、死者・行方不明者が5,098人にのぼり、その主因は高潮でした。名古屋港で観測された潮位の偏差は3.55メートル。高潮は二つの力で起こります。気圧が下がって海面が持ち上がる吸い上げ効果と、強風が海水を岸へ押しつける吹き寄せ効果です。前者は気圧が1ヘクトパスカル下がるとおよそ1センチ、後者は風速の2乗に比例します。そして満潮と重なれば、被害は跳ね上がります。この記事では、高潮と大雨という「台風の本当の危険」を仕組みから解説し、風対策だけでは足りない備えをまとめます。
台風の対策として、多くの方が思い浮かべるのは風への備えだと思います。
雨戸を閉める。植木鉢を入れる。窓に何か貼る。どれも必要なことです。
ただ、それだけでは足りません。統計が示しているのは、水のほうがはるかに多くの命を奪ってきたという事実だからです。
結論|台風で死者を出してきたのは、高潮と洪水です
日本の台風災害で、最も多くの命が失われたのは1959年の伊勢湾台風です。
9月26日の夕方、紀伊半島の先端に上陸しました。被害は次のとおりです。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| 死者 | 4,697人 |
| 行方不明者 | 401人 |
| 合計 | 5,098人(台風災害としては明治以降で最多) |
| 負傷者 | 38,921人 |
| 住家の全壊 | 40,838棟 |
| 住家の半壊 | 113,052棟 |
この被害の主因は、高潮でした。
名古屋港で観測された潮位の偏差、つまり通常の潮位からどれだけ上がったかは3.55メートル。それまでの最大だった室戸台風の2.9メートル(大阪港)を、0.65メートルも上回る記録でした。
海抜の低い土地に、一気に海水が流れ込みました。逃げる時間がありませんでした。
これは昔の話ではありません
2018年の台風21号でも、同じことが起きています。
9月4日の12時ごろ、非常に強い勢力(最大風速45メートル毎秒、中心気圧950ヘクトパスカル)で徳島県南部に上陸しました。
そして大阪湾で記録的な高潮が発生します。関西国際空港が浸水し、大阪、神戸、御坊、白浜、串本、阿波由岐では、過去の最高潮位を超える値が観測されました。
堤防や護岸が整備された現代でも、記録は更新されます。これが、いま高潮を学ぶ理由です。
あわせて読みたい
「台風のたまご」の段階では進路はまだ決まりません。それでも気象庁は5日先までの予報と暴風域に入る確率を出しています。台風になる条件と、米軍・ヨーロッパの予想の見方は「台風のたまご」とは?にまとめました。
高潮は、二つの力で起こります
仕組みを知っておくと、警戒すべき条件が分かります。
一つめ|吸い上げ効果
台風の中心は、まわりより気圧が低い状態です。
気圧とは、空気が地面や海面を押す力のことです。その押す力が弱まると、海面は持ち上がります。ストローで吸い上げるのに似ているので、吸い上げ効果と呼ばれます。
目安は、こうです。気圧が1ヘクトパスカル下がると、海面はおよそ1センチ上がります。
標準的な気圧は1013ヘクトパスカルです。台風の中心気圧が950ヘクトパスカルなら、その差は63。それだけで、海面は60センチ以上持ち上がる計算になります。
気圧の意味は台風のhPaとは?1013hPaが基準、低いほど強い理由にまとめました。
二つめ|吹き寄せ効果
こちらのほうが、実は影響が大きくなることが多い仕組みです。
強い風が海面を吹き続けると、海水が風下の岸へ押し寄せられます。行き場を失った水が、岸で積み上がっていきます。
そして重要な性質があります。吹き寄せ効果は、風速の2乗に比例します。
これは、風速が2倍になれば効果は4倍、3倍になれば9倍になるということです。風が少し強まっただけで、高潮は跳ね上がります。
地形が、被害を決めます
同じ台風でも、場所によって高潮の高さは大きく変わります。
危険なのは、奥まった湾です。入口が広く、奥が狭く浅い地形では、押し寄せた海水の逃げ場がありません。奥へ行くほど水位が上がります。
伊勢湾、大阪湾、東京湾、有明海。いずれもこの条件を備えています。そして、その奥には人口の多い平野が広がっています。
満潮と重なると、最悪になります
ここが判断の分かれ目です。
高潮は、通常の潮位に上乗せされる現象です。だから、もともと潮位が高い満潮の時刻に台風が来ると、到達する高さが決定的に変わります。
台風の接近時刻と、その日の満潮時刻。この二つを必ず確認してください。潮位の情報は気象庁が公表しています。
逆に、干潮の時間帯に通過すれば、同じ勢力でも被害は小さくなります。運の要素が大きいということでもあります。だからこそ、事前に確認する価値があります。
台風は、大量の雨も運びます
高潮と並ぶ、もうひとつの水の脅威です。
台風本体の雨
台風は、暖かい海から水蒸気を吸い上げながら進みます。その水蒸気が雲になり、雨として落ちてきます。
中心付近だけでなく、渦を巻く雨雲の帯が広い範囲に雨を降らせます。大型の台風ほど、長い時間降り続きます。
前線を刺激する雨
こちらのほうが、油断されやすい形です。
台風は、日本の南から大量の湿った空気を送り込みます。その空気が前線にぶつかると、前線の活動が活発になり、大雨が降ります。
ここで起きるのが、「台風はまだ遠いのに、大雨になる」という現象です。台風の位置だけを見ていると、警戒が遅れます。
とくに秋は、秋雨前線が停滞しやすい時期です。台風と前線が組んだとき、雨量は台風単独を大きく上回ります。仕組みは秋雨前線とは?台風との組み合わせが危険な理由にまとめました。
台風がなくても、大雨は降ります
2026年8月、これを示す出来事がありました。
8月13日の夜から14日の朝にかけて、千葉県で線状降水帯が繰り返し発生し、22の市と町にレベル5大雨特別警報が発表されました。亡くなった方は10人。浸水した住宅は約1500棟。気象庁はこれを「令和8年8月千葉豪雨」と名付けています。
このとき、日本に上陸していた台風はひとつもありませんでした。台風17号は、はるか東の海上を進んでいました。原因は前線と、そこへ流れ込んだ湿った空気です。
記録は令和8年8月千葉豪雨にまとめました。台風情報だけを見ていると、足元の雨に気づけません。
浸水は、二つの種類があります
備えを考えるうえで、区別しておきたい点です。
| 種類 | 何が起きるか | 危険な場所 |
|---|---|---|
| 外水氾濫 | 川の水が堤防を越える、または堤防が壊れる | 大きな川の近く。上流の雨で遅れて到達する |
| 内水氾濫 | 排水が追いつかず、道路や敷地に水がたまる | 市街地、低い土地。近くに川がなくても起きる |
| 高潮 | 海面そのものが上昇し、陸へ流れ込む | 沿岸部、河口付近、海抜の低い土地 |
「川から離れているから安全」とはかぎりません。内水氾濫は、排水能力を超える雨が降れば、どこでも起こります。都市部で地面が舗装されていると、水が地中へ染み込まず、一気に低い場所へ集まります。
種類ごとの特徴は洪水の種類|外水氾濫・内水氾濫・高潮など7種類にまとめました。
備えを、順番に
一、ハザードマップで、自宅の条件を知る
すべての出発点です。
確認するのは三つ。浸水想定区域に入っているか。想定される深さは何メートルか。そして高潮の浸水想定はどうか。
高潮のハザードマップは、洪水のものとは別に用意されていることがあります。沿岸部にお住まいなら、必ず両方を見てください。
調べ方はハザードマップの見方にまとめました。
二、深さから、行動を決める
想定される浸水の深さで、取るべき行動が変わります。
深さが1メートル未満なら、建物の2階へ上がることで対応できる場合があります。
深さが3メートルを超えるなら、2階でも水没します。その場所にとどまるという選択肢がなくなります。
そして忘れてはいけないのが、浸水が始まってからでは移動できないということです。膝の高さでも、流れがあれば歩けません。
三、水の入り口をふさぐ
浸水が浅い想定なら、物理的に防ぐ手があります。
止水板、土のう、水のう。玄関や車庫の入口など、水が入ってくる経路に置きます。
用意がなければ、ごみ袋に水を入れたものを並べる方法もあります。ただし、これは浅い浸水に対する時間稼ぎです。深い浸水は防げません。
道具は洪水に備える防災グッズ完全リストにまとめました。
四、地下と低い場所に、近づかない
もっとも短時間で命に関わるのが、ここです。
アンダーパス、地下駐車場、地下街、半地下の住宅。水は低いところへ集まるため、あっという間に満たされます。
そして、水圧でドアが開かなくなります。水深が数十センチあると、内側から押しても開きません。
車で走行中なら、冠水した道路に入らないこと。深さは見た目では分かりません。洪水で車は壊れる?浸水被害の仕組みと対策にまとめました。
五、暗くなる前に動く
最後に、いちばん実用的な原則を書きます。
避難の判断は、日が沈む前に終えてください。
夜の避難は、それ自体が危険です。冠水した道路では、側溝やマンホールの位置が分かりません。2026年8月の千葉でも、特別警報が出たのは未明でした。
判断の基準は警戒レベルとは?1から5の意味と取るべき行動にまとめています。高齢の方や小さなお子さんがいる家庭は、レベル3が出発の合図です。
浸水の深さと、できなくなること
ハザードマップで想定される深さを見たら、それが何を意味するのかを知っておいてください。
| 深さ | 起きること |
|---|---|
| 10センチ | 車のブレーキが効きにくくなる。マンホールの位置が見えない |
| 30センチ | 多くの車がエンジンを止める。ドアが開きにくくなる |
| 50センチ | 大人でも歩行が困難になる。流れがあれば転倒する |
| 1メートル | 1階が使えなくなる。2階への垂直避難が必要 |
| 3メートル | 2階の床上まで達する。上階か、別の建物が必要 |
| 5メートル | 2階建ての屋根に近い。その場にとどまる選択肢がなくなる |
この表から導かれることは、はっきりしています。
想定が3メートルを超える場所では、垂直避難という手が成り立ちません。2階に上がっても水は届きます。そういう土地に住んでいるなら、早い段階で別の場所へ移るしかありません。
そして、50センチで歩けなくなるという点も重要です。浸水が始まってからでは移動できないということです。
垂直避難が成り立たない、もうひとつの場合
深さのほかに、条件があります。
土砂災害の危険がある場所では、上の階へ上がるという方法が使えないことがあります。土砂は横から建物を襲うためです。とくに特別警戒区域では、建物ごと押し流される可能性があります。
自宅が該当するかどうかは土砂災害警戒区域とは?イエローゾーンとレッドゾーンの違いで調べられます。
土砂災害も、水が引き起こします
台風の水の被害として、忘れてはいけないものです。
雨がやんでから起きます
ここが、いちばん危険な性質です。
雨は地面に染み込み、時間をかけて地中に溜まります。その水が土の重さを増し、粘り気を失わせたときに、斜面は崩れます。
だから、雨がやんで晴れてから崩れることがあります。「もう大丈夫」と思って帰宅した先で被災する例が、実際に起きています。
前ぶれを知っておく
すべての崩落に前ぶれがあるわけではありませんが、次のような変化は危険の合図とされています。
斜面から水が噴き出す。湧き水が急に濁る。あるいは、それまで出ていた水が止まる。地中の水の流れが変わったしるしです。
小石がぱらぱらと落ちてくる。斜面が動き始めている可能性があります。
地鳴りや、木が裂ける音がする。この段階では、すぐに離れてください。
土石流については土石流とは?、崖崩れは崖崩れの前兆にまとめました。
車と水の関係
台風のとき、車は移動手段にも、危険の原因にもなります。
冠水した道路に入らない
これがすべてです。
水深は、見た目では分かりません。アスファルトが見えていないだけで、その下が大きく陥没していることもあります。
そして、30センチほどでエンジンが止まる車が多いとされています。止まった車は、その場から動かせません。
さらに危険なのが、ドアです。外側の水位が高いと、水圧でドアが開かなくなります。窓が電動なら、電気系統が止まった時点で開きません。
だから、脱出用のハンマーを車内に置いてください。手が届く場所です。トランクの中では意味がありません。
詳しくは洪水で車は壊れる?浸水被害の仕組みと対策・水没からの脱出方法にまとめました。
アンダーパスに入らない
立体交差の下をくぐる、低い道路です。周囲から水が集まる構造になっているため、短時間で深くなります。
入口では浅く見えても、いちばん低い場所では水没していることがあります。入ってしまってからでは、引き返せません。
避難に車を使うかどうか
判断が分かれるところです。
早い段階なら、車での避難は有効です。荷物を運べ、遠くまで行けます。高齢の方や小さなお子さんがいる場合は、なおさらです。
しかし、水が出始めてからは危険になります。渋滞に巻き込まれれば、車ごと水に取り囲まれます。
結論としては、車で避難するなら、警戒レベルが上がる前です。迷う段階では、すでに遅いと考えてください。
伊勢湾台風が変えたもの
歴史の話を、少しだけ。
1959年の伊勢湾台風は、5,098人という犠牲を出しました。この災害をきっかけに、1961年に災害対策基本法が制定されます。
それまで、日本の防災は災害が起きるたびに個別の法律で対応していました。国、都道府県、市町村の役割を定め、計画的に備えるという仕組みは、この法律から始まっています。
いま私たちが目にする避難情報も、防災計画も、この延長線上にあります。5,098人の犠牲の上に、いまの制度があるということです。
そして、その制度も更新され続けています。2026年5月には防災気象情報の名称が大きく変わりました。防災気象情報の改定内容にまとめています。
集合住宅で、水がもたらすもの
浸水は、1階だけの問題ではありません。
設備は、低い場所にあります
マンションの受変電設備や、給水ポンプ、非常用発電機は、地下や1階に置かれていることが多いという事実があります。
ここが浸水すると、建物全体の電気と水が止まります。上階の部屋が無事でも、エレベーターは動かず、蛇口からは水が出ません。
つまり、上の階に住んでいても、浸水の影響を受けます。むしろ階段で上り下りする分、負担は大きくなります。
仕組みはマンションの断水は停電で起きるにまとめました。
下水が逆流することがあります
もうひとつ、見落とされやすい被害です。
大雨で下水道の処理が追いつかなくなると、行き場を失った水が、低い階の排水口や便器から噴き出します。
2026年8月の千葉県の豪雨では、複数の市で汚水のポンプ場が浸水して停止し、千葉市ではマンホールの蓋が水圧で飛散しました。
備えとしては、水のうを排水口の上に置く方法があります。ごみ袋に水を入れて口を縛ったものを、浴室やトイレの排水口に載せるだけです。仕組みは洪水でトイレが逆流する仕組みと対策にまとめました。
避難のタイミングを、決めておく
最後に、いちばん大事な話をします。
水の災害で命を分けるのは、装備ではなく、いつ動いたかです。
| 段階 | やること |
|---|---|
| レベル1・2 | ハザードマップを確認。避難先と経路を決める |
| レベル3 | 高齢の方、小さなお子さん、体の不自由な方は避難を開始 |
| レベル4 | 全員避難。この段階が最後の機会 |
| レベル5 | すでに災害が発生。命を守る最善の行動をとる |
レベル5は、避難を促す情報ではありません。すでに起きているという報告です。この段階で外へ出ることは、かえって危険になります。
だから、レベル4までに終えてください。そして、その判断を家族で先に決めておいてください。その場で相談すると、必ず「もう少し様子を見よう」になります。
意味と行動は警戒レベルとは?1から5の意味と取るべき行動に、避難先の選び方は避難所へ行くべきか自宅に残るべきかにまとめました。
そして、暗くなる前に動いてください。夜の避難は、それ自体が危険です。
水が引いてからが、長い戦いになります
浸水した家に戻ったあと、やることがあります。順番に書きます。
一、片づける前に、写真を撮る
これがすべての手続きの起点です。
壁に残った水の跡がわかるように、深さと一緒に撮ってください。建物の外観、部屋ごとの様子、壊れた家財。掃除を始めてしまうと、被害を証明する材料が消えます。
二、罹災証明書を申請する
市町村が住まいの被害の程度を証明する書面です。公的な支援や減免の申請に必要になり、災害ごみを出すときにも求められることがあります。
申請の流れは罹災証明書の申請方法にまとめました。
三、保険会社に連絡する
罹災証明書を待つ必要はありません。この二つは別の手続きです。罹災証明書は市町村が公的支援のために出すもの、保険金の額を決めるのは保険会社の調査です。
確認するのは一点、火災保険に水災補償がついているかどうか。ここを外している契約が多く、それが「保険に入っていたのに出なかった」の最大の原因です。
そして、請求できる期間は3年と保険法で定められています。詳しくは洪水の被害は保険で補償される?をご覧ください。
四、装備を整えてから片づける
水が引いたあとの泥には、汚水や細菌が含まれます。
長靴、厚手の手袋、マスク、長袖と長ズボン。素手と素足で入らないでください。そして消毒までが片づけです。乾かしてから消毒しないと、カビが残ります。
ここで注意があります。この装備は熱をこもらせます。夏や残暑の時期なら、熱中症の危険が跳ね上がります。こまめに休み、水分と塩分を取ってください。片づけは明日もできます。
手順は被災後の片付けと消毒に、着るものは災害時の服の備えにまとめました。
五、感染症に気をつける
浸水のあとは、傷口からの感染に注意が必要です。破傷風やレプトスピラ症といった、水害に特有の病気があります。
小さな傷でも、泥水に触れたなら洗って消毒してください。洪水後に感染症が増える理由と予防対策にまとめています。
六、無理をしないでください
手続きには期限があるものもありますが、今日すべてを終える必要はありません。写真だけ撮っておけば、あとは順番に進められます。
全体の順番は被災した後にやることの全体像にまとめました。
備えておくもの
水の被害に備えるという観点で、優先度の高いものを挙げます。
| 優先 | もの | 役割 |
|---|---|---|
| 最優先 | ハザードマップの確認 | 道具より先。深さで行動が決まる |
| 最優先 | 脱出用ハンマー | 車内の手が届く場所へ。トランクでは意味がない |
| 高 | 底の厚い靴 | 浸水後の片づけと、避難時の足の保護 |
| 高 | 大きなごみ袋 | 水のうにも、雨具にも、荷物の防水にも使える |
| 高 | 携帯トイレ | 下水が使えないときに必要。流せない状況がある |
| 中 | 止水板または土のう | 浅い浸水への時間稼ぎ |
| 中 | 電池式のラジオ | 停電時の最後の情報源 |
| 中 | 長靴と厚手の手袋 | 片づけ用。作業は装備を整えてから |
道具の詳細は洪水に備える防災グッズ完全リスト、トイレについては防災用携帯トイレの選び方にまとめました。
下水道が被災しているときは、風呂の残り湯でトイレを流してはいけません。逆流の原因になります。この判断は洪水でトイレが逆流する仕組みと対策をご覧ください。
台風が遠くても、海には近づかないでください
最後に、毎年くり返される事故について書きます。
うねりは、台風より先に届きます
台風が数百キロ、ときには千キロ以上離れていても、その台風が作った波は先に到達します。これをうねりと呼びます。
うねりの特徴は、見た目が穏やかなことです。風がなく、空も晴れている。それなのに、周期の長い大きな波が突然打ち寄せます。
「天気がよいのに波だけが高い」という日が、いちばん危険です。台風が近づいている合図だからです。
波打ち際と、堤防が危ない
亡くなる方の多くは、泳いでいて事故に遭ったわけではありません。波を見に行った、釣りをしていた、写真を撮っていた。そういう状況です。
大きな波は不規則に来ます。数分に一度、それまでの何倍もの高さの波が来ることがあります。堤防やテトラポッドの上にいると、逃げ場がありません。
そして、いちど海に落ちれば、波にたたきつけられて自力では戻れません。
海の事故については海難事故の記事と離岸流とは?にまとめました。台風が接近する数日前から、海には近づかないでください。
川も同じです
上流に降った雨は、時間をかけて下流へ届きます。自分のいる場所が晴れていても、水位は突然上がります。
河川敷でのキャンプや釣りは、台風が接近する時期には避けてください。中州に取り残されると、退路が両側から断たれます。
川の水位は、見に行かなくてもインターネットで確認できます。川の防災情報の見方にまとめました。
よくある質問
台風がまだ遠いのに、大雨になることはありますか
あります。台風が前線に湿った空気を送り込むためです。台風本体が数百キロ先にあっても、大雨は降ります。台風の位置だけで判断しないでください。
高潮と津波は同じものですか
違います。高潮は気圧の低下と風によって海面が上がる現象、津波は地震などで海底が動いて起こる波です。原因も、伝わり方も異なります。ただし、高いところへ逃げるという行動は共通します。
満潮の時間帯に台風が来ると、なぜ危険なのですか
高潮は、通常の潮位に上乗せされるからです。もともと潮位が高い満潮に重なれば、到達する高さが決定的に変わります。台風の接近時刻と満潮時刻は、必ず確認してください。
吸い上げ効果と吹き寄せ効果は、どちらが大きいですか
状況によりますが、吹き寄せ効果のほうが大きくなることが多いとされています。風速の2乗に比例するため、風が強まると急激に増えるからです。奥まった湾では、とくにこの効果が効きます。
気圧が1ヘクトパスカル下がると、海面はどれくらい上がりますか
目安としておよそ1センチです。中心気圧が950ヘクトパスカルなら、標準の1013との差は63ですから、それだけで60センチ以上ということになります。
川から離れていれば、浸水しませんか
しないとはかぎりません。内水氾濫は、排水が追いつかなければ川がなくても起こります。都市部で地面が舗装されていると、水は染み込まず低い場所へ集まります。
マンションの上階なら安全ですか
浸水という点では有利です。ただし停電でエレベーターと給水ポンプが止まります。上の階ほど、水も移動も難しくなります。マンションの断水は停電で起きるをご覧ください。
浸水した道路は、どのくらいの深さまで歩けますか
膝の高さでも、流れがあれば歩けません。足を取られれば、自力では戻れなくなります。深さは見た目では判断できず、側溝やマンホールの穴も見えません。浸水が始まる前に移動を終えてください。
高潮警報が出たら、どう行動すればよいですか
ただちに高い場所へ移動してください。高潮は短時間で到達します。沿岸部にいる場合は、内陸方向へ、あるいは頑丈な建物の上階へ避難してください。
台風が過ぎたら、水の危険は終わりますか
終わりません。河川の水位は、雨がやんだあとに上がります。上流に降った雨が時間をかけて流れ下ってくるためです。土砂災害も、雨がやんでから起きることがあります。
浸水した家に戻ったら、まず何をすればよいですか
片づける前に、写真を撮ってください。壁に残った水の跡が分かるように撮ります。掃除を始めると、被害を証明する材料が消え、保険や罹災証明書の手続きに影響します。
保険の請求は、罹災証明書が出てからですか
いいえ。この二つは別の手続きです。罹災証明書は市町村が公的支援のために出すもの、保険金を決めるのは保険会社の調査です。待たずに保険会社へ連絡してください。
片づけのとき、どんな服装をすればよいですか
長靴、厚手の手袋、マスク、長袖と長ズボン。泥には汚水や細菌が含まれます。ただしこの装備は熱がこもるため、暑い時期は熱中症にも注意してください。
まとめ
要点を整理します。
台風で命を奪ってきたのは、風ではなく水です。伊勢湾台風の死者・行方不明者5,098人は、台風災害として明治以降で最多であり、その主因は高潮でした。
高潮は二つの力で起こります。気圧が1ヘクトパスカル下がると海面はおよそ1センチ上がる吸い上げ効果と、風速の2乗に比例する吹き寄せ効果です。
満潮と重なると、被害は跳ね上がります。台風の接近時刻と満潮時刻を、必ず一緒に確認してください。
台風が遠くても、大雨は降ります。前線を刺激するからです。そして台風がひとつもなくても、災害級の雨は降ります。
浸水が始まってからでは、移動できません。膝の高さでも、流れがあれば歩けません。
最後に、ひとつだけ。
2018年の台風21号は、堤防も護岸も整備された時代に、複数の観測地点で過去の最高潮位を更新しました。設備が守ってくれるという前提は、もう置けません。
自分の土地の高さを知り、満潮の時刻を調べ、暗くなる前に動く。この三つが、水から身を守る方法です。
台風の全体像
台風への備えは台風の完全ガイドにまとめました。発生が最も多いのは8月ですが、上陸が最も多いのは9月です。強さと大きさという別々の指標、予報円が示すのは勢力ではなく不確かさであること、そして危険なのは風より水であることを数値とともに解説しています。

